がちゃSレイニーシリーズです。
このお話は風さんが書かれた「【No:999】真剣勝負は愛のままにわがままに」の続きとしてかかれています。
瞳子はどうしたいの? 瞳子はどうすれば良いの? 瞳子は……どうするの?
車の外を流れる光の帯を、ぼんやり眺めながら答えを探す。
そんな私の手を、祐巳さまが上から包んでくれた。
その手はとても温かった。
ちらりと祐巳さまをみると、祐巳さまは優しい目をして微笑んでくれた。
その微笑みに、胸が熱くなった。
その微笑みはいつもの下級生に向ける笑みではなかったから。
その笑みは、確かに私だけに向けられている特別なものだったから。
そのとき、思ったことはひとつだけだった。
この人のそばにいたい。この笑みをずっと見ていたい。
ただそれだけだった。
そのことを伝えたくて、でも、伝える言葉が見つからなくて。
だから私は、包んでくれた手の上にさらに手のひらを重ね、その手をぎゅっと握り締めた。
それから車が福沢家に到着するまで、私たちは何もしゃべらずに、じっと手のひらから伝わるお互いのぬくもりを感じていた。
福沢家の歓待はとても温かった。その空間は私にとって、家にいるより温かいと思えてしまうくらい、やさしく温かい空間だった。
「瞳子ちゃん、今日は一緒に寝よ!」
祐巳さまのその提案は妹になったばかりの私にはとても魅力的で、私は首を横に振ることができなかった。
私が首を縦に振ったとき、祐巳さまは本当にうれしそうな表情を浮かべてくれた。
この瞬間、私はほんとに祐巳さまにとって、特別な存在になっているんだなというのが、なんとなく実感できた。
私たちはベッドにもぐったあと、暗闇の中で、いろいろなことを話していた。
今日のこと、これまでのこと。でもその会話のなかで、意図的に二人して避けてきた話題がある。
それは、これからのこと。
暗闇の中、数センチ先に見える祐巳さまを私はじっと見つめた。
すうすうと祐巳さまの寝息が聞こえる。
これから、どうすればいいのか……。雑念が入らないように目を閉じる。
目を閉じるとすぐに祥子さまの言葉が思い浮かんだ。
『だったら、どうするか決めるのは貴女、よく考えなさい。私たちは何も言わなくてよ。…………』
カナダに行くのは女優の修行。私が女優を目指すならば、カナダに行くという選択は正しい。
でも……。でもなのだ。ぐるぐると頭の中にいろいろな思いが去来する。
「瞳子ちゃん……」
思考の迷路に迷いこんでいる私を急に祐巳さまが呼んだ。
びっくりして目を開けると、祐巳さまはその目から、涙をこぼしていた。
「いっちゃやだ……」
「祐巳さま?」
私は、思わず祐巳さまに声をかけた。
「いっちゃやだ……」
「え?」
その言葉とともに、私はぎゅっと体を抱きしめられた。
「いっちゃやだ……」
その言葉とともに、私の抱きしめる力が強くなった。
「祐巳さま……」
私は、祐巳さまを抱きしめ返した。
「祐巳さま。少なくても高校に在学中は私はカナダには行きません。だから、安心してください」
私は、祐巳さまの耳元でそうつぶやいた。
【No:1199】に続く