【1174】 貴女の側にいる  (琴吹 邑 2006-02-24 03:13:37)


がちゃSレイニーシリーズです。

このお話は風さんが書かれた「【No:999】真剣勝負は愛のままにわがままに」の続きとしてかかれています。





 瞳子はどうしたいの? 瞳子はどうすれば良いの? 瞳子は……どうするの?

 車の外を流れる光の帯を、ぼんやり眺めながら答えを探す。

 そんな私の手を、祐巳さまが上から包んでくれた。
 その手はとても温かった。
 ちらりと祐巳さまをみると、祐巳さまは優しい目をして微笑んでくれた。
 その微笑みに、胸が熱くなった。
 その微笑みはいつもの下級生に向ける笑みではなかったから。
 その笑みは、確かに私だけに向けられている特別なものだったから。
 
 そのとき、思ったことはひとつだけだった。
 
 この人のそばにいたい。この笑みをずっと見ていたい。
 
 ただそれだけだった。

 そのことを伝えたくて、でも、伝える言葉が見つからなくて。
 だから私は、包んでくれた手の上にさらに手のひらを重ね、その手をぎゅっと握り締めた。
 
 
 それから車が福沢家に到着するまで、私たちは何もしゃべらずに、じっと手のひらから伝わるお互いのぬくもりを感じていた。
 

 福沢家の歓待はとても温かった。その空間は私にとって、家にいるより温かいと思えてしまうくらい、やさしく温かい空間だった。



「瞳子ちゃん、今日は一緒に寝よ!」

 祐巳さまのその提案は妹になったばかりの私にはとても魅力的で、私は首を横に振ることができなかった。

 私が首を縦に振ったとき、祐巳さまは本当にうれしそうな表情を浮かべてくれた。
 この瞬間、私はほんとに祐巳さまにとって、特別な存在になっているんだなというのが、なんとなく実感できた。
 

 



 私たちはベッドにもぐったあと、暗闇の中で、いろいろなことを話していた。
 今日のこと、これまでのこと。でもその会話のなかで、意図的に二人して避けてきた話題がある。 
 それは、これからのこと。


 暗闇の中、数センチ先に見える祐巳さまを私はじっと見つめた。
 すうすうと祐巳さまの寝息が聞こえる。
 これから、どうすればいいのか……。雑念が入らないように目を閉じる。
 目を閉じるとすぐに祥子さまの言葉が思い浮かんだ。

『だったら、どうするか決めるのは貴女、よく考えなさい。私たちは何も言わなくてよ。…………』

 カナダに行くのは女優の修行。私が女優を目指すならば、カナダに行くという選択は正しい。
 でも……。でもなのだ。ぐるぐると頭の中にいろいろな思いが去来する。

「瞳子ちゃん……」

 思考の迷路に迷いこんでいる私を急に祐巳さまが呼んだ。
 びっくりして目を開けると、祐巳さまはその目から、涙をこぼしていた。
 
「いっちゃやだ……」
「祐巳さま?」

 私は、思わず祐巳さまに声をかけた。

「いっちゃやだ……」
「え?」

 その言葉とともに、私はぎゅっと体を抱きしめられた。

「いっちゃやだ……」

 その言葉とともに、私の抱きしめる力が強くなった。

「祐巳さま……」

 私は、祐巳さまを抱きしめ返した。

「祐巳さま。少なくても高校に在学中は私はカナダには行きません。だから、安心してください」

 私は、祐巳さまの耳元でそうつぶやいた。

【No:1199】に続く


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