「喰らえ、チョ〜ップ!」
放課後の薔薇の館で、一番乗りだった黄薔薇のつぼみこと島津由乃。
やることがなくて手持ち無沙汰だったところに、階段を上がる豪快な足音。
由乃は、予想通り姿を現した黄薔薇さまこと支倉令の眉間に、躊躇いもなく空手チョップを叩き付けた。
ぺち。
「ごきげんよう…、何のマネ?」
多少のことでは滅多に怒らない令、由乃のある意味無礼な態度にも、笑顔で応じた。
「退屈だったから」
理由になっていない気もするが、由乃ならあり得るので、そういうことにしておいた令だった。
しばらく雑談に耽っていると、階段を上がる、規則正しい足音。
「喰らえ、チョ〜ップ!」
令は、予想通り姿を現した白薔薇さまこと藤堂志摩子の額に、躊躇いもなく空手チョップを叩き付けた。
ぺち。
「ごきげんよう…、何のマネですか?」
多少のことでは滅多に怒らない志摩子、半分驚いた、そして半分困ったような笑顔で応じた。
「いやぁ、由乃にやられちゃったから」
理由になっていない気もするが、令ならあり得るので、そういうことにしておいた志摩子だった。
しばらく雑談に耽っていると、階段を上がる、大人しい足音。
「喰らって、チョ〜ップ!」
志摩子は、予想通り姿を現した白薔薇のつぼみこと二条乃梨子の額に、躊躇いもなく空手チョップを叩き付けた。
ぺち。
「ごきげんよう…、何のマネですか?」
無礼な態度には誰であっても逆らう乃梨子だが、相手が志摩子だったので笑顔で応じた。
「いえ、令さまにやられちゃったのよ」
理由になっていない気もするが、志摩子ならあり得るので、そういうことにしておいた乃梨子だった。
しばらく雑談に耽っていると、階段を上がる足音は聞こえなかったが、扉が開いた。
「く、喰らえ、チョ〜ップ!」
乃梨子は、突然姿を現した演劇部所属松平瞳子の額に、慌てて空手チョップを叩き付けた。
ぺち。
「ごきげんよう…、何のマネですか?」
祐巳と細川可南子以外には滅多に怒らない瞳子、半分驚いた、そして半分困ったような笑顔で応じた。
「いやぁ、志摩子さんにやられちゃったから」
理由になっていない気もするが、乃梨子ならあり得るので、そういうことにしておいた瞳子だった。
しばらく雑談に耽っていると、階段を上がる、落ち着かない足音。
「お喰らいなさい、チョ〜ップ!」
瞳子は、予想通り姿を現した紅薔薇のつぼみこと福沢祐巳の額に、躊躇いもなく空手チョップを叩き付けた。
ぺち。
「ごきげんよう…、何のマネ?」
祐巳は目を白黒させて、あからさまに驚いた顔で応じた。
「いえ、乃梨子さんにやられちゃったんですのよ」
理由になっていない気もするが、瞳子ならあり得るので、そういうことにしておいた祐巳だった。
しばらく雑談に耽っていると、階段を上がる、静かな足音。
「喰らえ、チョ〜ップ!」
祐巳は、予想通り姿を現した紅薔薇さまこと小笠原祥子の額に、躊躇いもなく空手チョップを叩き付けた。
ぺち。
「ごきげんよう…、何のマネ?」
結構気が短い祥子、半分驚いた、そして半分怒った顔と口調で応じた。
「い、いえあの、瞳子ちゃんにやられちゃったから…です」
しどろもどろで、理由になっていない理由を口にする祐巳を、冷た〜い眼差しで睨む祥子。
「どうやら私は、妹の教育方法を間違えていたようね」
未だチョップを叩き付けた状態の祐巳の手首を、ガシっと掴んだ祥子は、そのまま無言で、真っ青な祐巳を引っ張って部屋を出て行った。
『………』
残された五人は、一階から聞こえる凄まじい衝撃音や断末魔のような叫び声を聞きながら、誰とも無く顔を見合わせるだけだった。
ほどなくして、一人だけで戻って来た祥子だったが、誰一人として、何があったか、祐巳がどうなったかを聞けた者はいなかったという…。