【No:1168】で『二話』と書いてしまったがためにまた書くハメとなったクロス。(要するに続き)
(クロスオーバーとかGAINA×とか苦手な方はご注意ください)
「やります、私が乗ります!」
〜 〜 〜 〜
祐巳はエントリープラグといわれた『あれ』の操縦席に座っていた。
『冷却終了。右腕の再固定完了。ケージ内全てドッキング位置』『停止信号プラグ排出終了』『了解。エントリープラグ挿入』『プラグ固定終了。第一次接続開始』
なんかいっぱいアナウンス(?)されてるけどよく判らないから聞き流す。
『エントリープラグ注水』
そんな言葉を聞いた直後だった。
「ええ!? 水!?」
足元の方から水が。
『大丈夫よ。 それはLCLといって肺が満たされれば直接血液に酸素を取り込んでくれます』
蓉子さまがそんなことを言う。
「そ、そんな、聞いてない……」
『すぐに慣れるわよ』
慣れろってか。
でももう胸まで浸かっている。
肺に満たすってことは吸い込めばいいんだけど……。
「んぐっ、ごくっ……」
『祐巳ちゃん、飲むんじゃなくて吸い込むのよ』
んなこといったって、簡単じゃないよ。
水に対する恐怖は潜在意識にある。
だから気管に吸い込もうとしても無意識に思い切りごっくんと食道の方へ飲み込んでしまうのだ。
そんなことをしているうちに、もう水位は頭のはるか上方まで行ってしまった。
死ぬかと思った。
いや、往生際悪くいつまでも息をしなかった祐巳が悪いんだけど。
死んだ気になって吸い込んだらあとは楽になった。
『うへぇ、……気持ちわるい』
『我慢なさい! オトコノコでしょ!』
「……私、女の子」
なんかへらへら笑ってる。
聖さま、こんな時にからかわないでください。
少しして外が見えた。
なにやら騒がしく専門用語らしきものが飛び交ってたのだけど、なるほどこれは全て祐巳が『これ』を動かすための準備なのだと気が付いた。
そのうち『シンクロ率、……41.3%』なんて言葉のあと蓉子さまの声が『すごいわね』と言うのが聞こえた。
『ハーモニクス、全て正常値。 暴走ありません』
『行けるわ』
聖さまの『発信準備!』という声。
『了解。 エ○ァ初号機射出口へ』
視界が平行移動してまた静止する。
『進路クリアー、オールグリーン』
『発信準備完了』
『了解。 構いませんね?』
聖さまが確認するように言った。
『もちろんだ。 使徒を倒さぬ限り我々に未来は無い』
柏木さんの声も爽やかに。
『先輩、本当にこれでいいんだな?』
『柏木だ』
やっぱ祐麒が副指令って変だ。
〜 〜 ここから弐話 〜 〜
祐巳はエントリープラグのなかで水没していた。
気分はきんぎょ鉢の中の熱帯魚。
そして目の前には異形の巨人。
祐巳はこれからこいつと戦わなければいけないのだ。
しかし。
「痛いっ! これ、マジで痛いよっっ!!」
最初、聖さまが「まずは歩くことだけ考えて」とか言ってて、なんとか歩かせるのに成功したと思ったら、あっという間にそれどころじゃない状況になっていた。
『祐巳ちゃん落ち着いて! あなたの腕じゃないのよ!』
『使徒』というそうだけど、その巨大宇宙人が迫ってきて、いきなり腕に捻りあげられたような激痛が走った。
いや実際祐巳が乗っている『これ』の腕を捻り上げたのだろう。
シンクロといって、操縦者が自分の手足のように『これ』を操縦できるシステムらしいのだけど、まだろくに動かすコツも掴んでいないのに、この激痛は理不尽極まりなかった。
『駄目か!』
『左腕損傷!』
『回路断線!』
蓉子さま、聖さまとオペレーターの子たちの声が入り乱れる。
あ、オペレーターは瞳子ちゃんと笙子ちゃんだ。
笙子ちゃん、眼鏡似合ってるな……。
痛みで意識が飛びかけてるせいなのか、いまいちピントの外れたことを考えていた。
『祐巳ちゃん! 避けて!!』
聖さまの叫び声が聞こえる。
そして、オペレータ席にもう一人、可南子ちゃんの姿を見つけたのを最後に祐巳の意識はこと切れた。
・
・
・
『イッチ、ニィ、サンッ、シッ……』
祐巳が覚醒するにつれて聞こえてきたのは遠く聞こえるラジオ体操の声だった。
『手足の運動ー、イッチ、ニィ、サンッ……』
目を開く。
白い天井。
「知らない天井だ……」
なんとなく呟く。
祐巳は白い部屋――おそらく病室――のベッドに寝かされていた。
『ニィ、ニィ、サンッ、シッ……』
外は明るく、窓から陽射しが差し込んでいた。
〜 〜 〜 〜 〜
ここは暗い会議室。
「使徒再来。 あまりに唐突ですね」
話しているのは結構歳のいったシスター姿の女性達だ。
「十五年前と同じです。 災いは何の前触れもなく訪れるものです」
「むしろ幸いとも言えます。 私達の先行投資が無駄にならなかったのですから」
「いや、無駄かどうかはまだ分かりませんね。 役に立たなければ無駄と同じことです」
「その通り。 いまや周知の事実となってしまった使徒の処置、情報操作、ネ○フの運用は全て適切かつ迅速に処理して下さらないと困りますよ」
シスターは五人。
服のデザインはそれぞれ違う。
そして、彼女らと向き合うように柏木が居た。
「その件に関してはすでに対処済みです。 ご安心を」
無意味にさわやかさを振りまいて柏木はそう言った。
〜 〜 〜 〜 〜
(なんで寝てたんだっけ?)
何があったか良く思い出せなかった。
とりあえず起き上がってベッドを降りた。
祐巳は無地のパジャマっぽい服を着ていた。
そのまま病室から出ると、大きく取られた廊下の窓から明るい外の景色が飛び込んできた。
しばらくぼうっと外を眺めていたら、足音とカラカラとキャスターが滑る音が聞こえてきた。
振り返ると看護婦さんが移動用のベッドを引いていた。
ベッドの上に見えるふわふわの巻き毛。
(志摩子さんだ)
祐巳の前を通過する時、片目を包帯で巻かれた志摩子さんの顔が見えた。
志摩子さんは起きていて一瞬、目が合った。
思い出した。
そうだ腕がものすごく痛くなって……。
「あ!」
慌てて捻りあげられた側の腕を上げてみた。
腕に痛みはなく何ともなかった。
しばらくしたらお医者さんが来て、祐巳は診察を受けた。
そして、迎えが来るから着替えて待つように言われ、元の制服に着替えて待合室で待っていたら程なくして聖さまが迎えに来た。
「同居でなくていいの?」
蓉子さまが言った。
「え、ええ結構です」
ここは無意味に広い司令執務室。
まあ、この無駄さは柏木さんには似合ってる気がするのだけど。
祐巳は聖さまに連れられてここに来た。
途中で蓉子さまも合流したので、副司令の祐麒もあわせて五人で話をしていた。
いまは祐巳の住む場所の話だ。
「そうかい? 僕は一向に構わないよ?」
そう、司令と主人公は親子って設定だったのだ。
「いいええ、最初の通り個室でいいですから」
柏木さんと同居するくらいなら一人の方がマシというもの。
「祐巳、無理すんなよ」
相変わらず役を演じてるのか演じてないのか判らない祐麒が心配そうに言った。
「いいの、それより祐麒も一人暮らしだっけ? 大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。 なんなら俺のとこ来る?」
「いや、遠慮しとく」
柏木さんは問題外として、いくら姉弟だからと言って男の子の独り暮らしのとこに転がり込むのはちょっと。
「もうちょっと僕を信用してくれよ」
柏木さんはわざとらしいポーズでそんなことを言ってたけど、結局、個室ってことになった。
同居っていうんなら祥子さまと同居したかったな。
でもこの世界では祥子さまはどこに居るのかまだ判らないから。
そうだ、聞いてみよう。
「あの、柏木さん?」
「お父さんと呼んでくれないのかい」
うげっ。
ぞわっと来たぞ。 ぞわっと。
というか、こんな人が司令でいいのかな?
「……もう、いいです」
「聞きたいことがあったんじゃないのかい?」
柏木さんの立場なら知ってる可能性が高いと思ったんだけど、今ので聞くだけの気力がなくなってしまった。
「いえ。 またの機会にします」
はあ。
一人暮らしか。
用が済んだので聖さまと一緒に執務室を退室した。
蓉子さまはまだ用があるみたいで残った。
「祐巳ちゃん」
扉から出てすぐに聖さまは話し掛けてきた。
「はい?」
「これでいいの?」
「いいんです、一人のほうが気楽ですし」
ちょっと寂しいかもしれないけど仕方がない。
「ふむ……」
ここは駐車場。
この世界では妙に頑丈になってる聖さまの黄色い軽乗用車の前だ。
聖さまは車に寄りかかって携帯電話を手に話していた。
『……何ですって?』
電話の相手は「仕事があるから」と言って途中で別れた蓉子さまだ。
「だーかーらぁ、祐巳ちゃんは私の所で引き取る事にしたから」
『はぁ?』
「もう決めちゃった。 心配しなくても手出したりしないわよ」
なんかここまで来る間に何処かに電話してると思ったら、そういうことにしてしまったらしい。
『当たり前じゃないの! 全く何考えてるのあなたって人は! いっつもそんな事ばっかり言ってるんだから!」
「相変わらず冗談が通じないわね……というわけで」
「はい?」
「今夜はパーとやりますかね♪」
「何をですか?」
「もちろん新たなる同居人の歓迎会よ」
祐巳の意見を聞く暇もなく、聖さまとの同居が決まってしまったようだ。
住居に向かう途中でコンビニに寄って食料を買い込んだ。
どうやら料理などをする気がないらしく、なべ焼きうどんとかおにぎりとかほとんど調理の必要ないものばかりだった。
「ちょっと寄り道していくわよ」
「寄り道? 何処へですか?」
「うふふっ、い・い・と・こ・ろ」
車は街中を抜けて山の中腹の展望台のようなところに停車した。
そして二人で車を降り、そこから一望できる町並みを眺めた。
もう日が沈みかけて西の空がオレンジ色に染まっている。
「なんだか寂しい街ですね」
道路が幾何学模様のように走っている街はどこか生活感がなく殺風景だった。
「時間だわ」
「え?」
サイレンが鳴り響く。
「よく見てなさい」
「え?」
――ビルが生えてくる。
「す、凄い……」
なにか欠けてると思ったら大きな建物がなかったんだ。
見る間にビルが伸びていき、殺風景だった景色は高層ビルが林立する大都会に変貌してしまった。
「これが使徒迎撃戦用要塞都市第三新東京市、私たちの街よ」
暮れかけた空とビルのイルミネーションが不思議な色彩を醸し出していた。
昼間、私はあそこで戦っていたんだ……。
「ニョキニョキっと。 面白いでしょこれ」
せっかくの感動が台無し。
「祐巳ちゃんの荷物はもう届いてると思うわ。 実は私も先日この町に引っ越してきたばっかりでね」
聖さまの住居はマンションの一室だった。
ドアロックはカード式。
聖さまはドアの横の機械にカードをスライドさせて扉を開けた。
「さっ、入って」
「はい、お邪魔します……」
「ストップ」
「え?」
聖さまが振り返って玄関に足を踏み入れようとした祐巳を制止した。
「ここは今日からあなたの家なのよ?」
「私の?」
えーっと?
聖さまはニコニコと祐巳の方を見ている。
あ、そうか。
「た、だだいま?」
お客さまじゃなくて、一緒に生活するから。
聖さまは笑顔もひときわに言った。
「お帰りなさい、あ・な・た♪」
「はぁ?」
「お風呂にする? お食事にする? それとも、 寝 る ?」
若夫婦コントかいっ!
祐巳はがっくしと玄関にへたりこんだ。
「あら、疲れてるのね。 でも、あんなことがあったから当然か」
そうおもうなら、それ以上疲れさせないで下さいよ。
「ちょっと散らかってるけど気にしないでね。 あ、食料は冷蔵庫に入れといて」
そう言いつつ、聖さまは奥の部屋に行った。
「……聖さま、掃除してます?」
台所は過度に散らかっていた。
「ちょっと」ではない。 過度に。
弁当の空の詰まったナイロン袋がテーブルに乗っていたり、空のペットボトルが床に並んでいたり。
まだここに引っ越したばかりってことだけど、既に台所がごみ置き場のような有様だ。
「掃除くらいするわよ? ここはまだ来てから一週間たってないからまだしてないだけで」
奥の部屋から返事が聞こえてきた。
っていうか、週一回ですか?
とりあえず買ってきた食料を冷蔵庫に格納したあと、ここの片付けだ。
「あれ、冷蔵庫が二つ?」
祐巳が開けている冷蔵庫と対角にもう一つ大きな冷蔵庫が置いてあった。
「ああ、そっちはいいの。まだ寝てると思うから」
「寝てる!?」
なんのことやら。
でもこの謎は少し後に解明されることとなる。
ごみの片づけを終えて、聖さまも着替えてきて。
ジュースで乾杯して、コンビニ弁当でささやかすぎる歓迎会となった。
妙に明るくはしゃぐ聖さまが落ち着いてきてから祐巳は言った。
「あの、聖さま?」
「なあに?」
「祥子さまはご存知ですか?」
「祥子?」
「はい、小笠原祥子さまです」
「小笠原清子の娘よね?」
「は、はい!」
「小笠原清子博士はネ○フの前身となった組織の創始者の一人。 その娘の名前が祥子だってことは割と知られてるわ」
なにやらオリジナルな設定が……。
「その、祥子さまはいま何処に?」
「さあ。そこまでは」
「そうですか……」
「知り合いなの?」
「いえ、その、なんていえば良いのか……」
少なくとも近くにはいないってわかった。
いや、まだ学校があったか。 でも望み薄そう……。
「暗い顔してないで、風呂に入ってきちゃいなさい。 風呂は命の洗濯だよん」
「は、はい……」
なんか荷物はちゃんと部屋に届いていて着替えもその中に入っていた。
祐巳が『それ』に遭遇したのは、脱衣所と浴室を隔てるドアを開けたときだった。
「きゃああああああっ!!」
お風呂場に祐巳の叫び声が響いた。
「せ、聖さま! あれ!」
あわてて風呂場から飛び出した祐巳に聖さまはのほほんとして言った。
「ああ、ゴロンタよ」
「ええっ!? ぺ、ペンギンですよね?」
「ゴロンタよ」
「で、でもペンギン……」
「ゴロンタ」
「ご、ゴロンタですか」
「そうよゴロンタなのよ」
「……」
ぺたぺたと、ペンギンのゴロンタは祐巳の前を歩いて通過して、二つ目の冷蔵庫に入っていった。
今日はいろんなことがあり過ぎた。
おそらく――。
この世界は夢のようなものなんだと思う。
知ってる人が主要なキャラクターを演じていたり、その一方で人によってはもともとの人間関係で話をしたり。
祐巳もいきなりこんな聖さまと二人暮しになってるのに普通に受け入れてしまって……。
ご都合主義で世界の構成がいまいちいい加減なのだ。
それはそれとして。
祐巳はベッドに横になりつつ、当面の課題は祥子さまを探すことだ、なんて考えていた。