【1199】 呼びかけたままで  (琴吹 邑 2006-02-28 01:09:42)


がちゃSレイニーシリーズです。

このお話は琴吹が書いた「【No:1174】貴女の側にいる」の続きとしてかかれています。





「祐巳さま。少なくても高校に在学中は私はカナダには行きません。だから、安心してください」


 その言葉に祐巳さまは力を抜いた。祐巳さまが私のことを泣いてまで引き留めてくれるとは思わなかった。
 
 祐巳さまに必要とされている。そのことが本当に嬉しかった。
 私は祐巳さまの顔が見たくて、名残惜しさを感じながらもそっとその腕から抜け出した。

「………祐巳さま?」

 私は祐巳さまの顔を見て、あっけにとられた。
 だって、祐巳さまはすぅすぅと寝息を立てていたから。
 でも、頬に残っている涙の跡が、あの瞬間、本当に祐巳さまが泣いていたことを物語っていた。

「祐巳さま、寝言ですか? 全く、本当におめでたいんだから」

 今までの盛り上がった気分を返して欲しい。私は思わず暗闇の中でそうこぼした。

 でも、夢の中で泣いてしまうぐらい私のことを求めてくれたのであれば、それはそれで、幸せなことなんだと思う。
 それほどまでに、私のことを想ってくれているのだから。

 そう思うと、何故か急に不安になって、胸元を握りしめた。
 そこには確かに祐巳さまのロザリオが存在している。
 今日のことは夢ではない。確かに私は、手の中にロザリオ、そして何より、目の前に祐巳さまがいる。

 私は確かに祐巳さまの妹になったのだ。

 「………お姉さま」

 祐巳さまの寝顔を見ながら、思わずそう祐巳さまのことを呼んでみる。
 返事はない。もし返事があったとしたら私は平静ではいられなかっただろう。
 返事がないのを良いことに、私はもう一度眠っている祐巳さまにお姉さまと声をかけた。
 やっぱり祐巳さまからの返事はなかったが、その言葉は、何故か温かく私の心に染み渡っていった。



 しばらく暗闇の中で、祐巳さまの寝顔を見ていると、ゆっくりと眠気が襲ってきた。
 私は顔の位置をずらし、祐巳さまの胸に頭を預けた。
 トクトクと聞こえる祐巳さまの心音。その優しい音を聞きながら、私は再び眠りの世界へと落ちていった。


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