【1205】 君への想いに埋もれる愛してると想わせて嫌いになんかなれない  (mim 2006-02-28 21:23:33)


「……とにかく、そのロザリオは受け取れません。戻して下さい。」
私は頭さげ「失礼します」と言って、祐巳さまのもとから逃げ出した。

どうして、白地図のたとえ話などを祐巳さまにしてしまったのだろう。
あれは今までひたかくしにしてきた私の本音。
祐巳さまがそれを理解なされたとは思わないけれど、何かを感じられたのは間違いない。
あげく、祐巳さまは私に同情して「妹にならない?」などとおっしゃったのだ。

私が祐巳さまの妹に?
ふん、おめでたい!
そんなことできるわけがない。

これまでのように祐巳さまの気持ちを引っ掻き回すことで祐巳さまとの関係を保っていたかった。例え問題児と思われようとも。
でも、若草物語が終わったあと二人で手をつなぎ学園祭を見て回った後はそんな気持ちも萎えていた。
もう私には徐々に祐巳さまとの関係を断ち切っていくしか手段は残されていなかった。

気がつくと私は一本の桜の木の前にいた。
銀杏林の中に一本だけの桜。
私は桜の幹に背をもたれて思わず独り言をもらした。
「あぁ、あのころのことは全部忘れて、もう一度やりなおしたい……」

すると背中から声が聞こえた。
『その願い、叶えようか』
私は答えた。
「叶えてくれるなら叶えてもらおうじゃない!」


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「もうすぐマリア祭ですわね」
「薔薇さまに直におメダイを頂けるのですわ。楽しみですわね、瞳子さん」
私は美幸さん、敦子さんと一緒に銀杏の並木道を歩いていた。
「えぇ、とても楽しみですわ」(祐巳さまにお会いするのが)


お昼休みに祥子お姉さまの承諾を取った私は、その日の放課後、早速、薔薇の館に出向いた。
そう、祐巳さまにお会いするために。
ドキドキしながら階段を上りビスケットのような扉をそっと開けた。
いらっしゃった、祐巳さまと祥子お姉さまが!
祐巳さまは祥子お姉さまに叱られたらしく少ししょんぼりなされていた。
祐巳さまにお会いできたのがうれしくて、私の口から笑いが漏れた。
くすくす。くすくす。
「瞳子ちゃん!」
祥子お姉さまが私をたしなめる。
「だって、祥子お姉さま。おっかしいのだものその方。」
「瞳子ちゃん、その呼び方もね」
「だってー。ずーっとそう呼んでいたのに、急に変えろって言われても瞳子困るう」
よしよし、この調子。祥子お姉さまと仲がよいことを強調すれば、祐巳さまとも仲がよくなれるはず。あの祐巳さまならば。
「紹介するわ。祐巳。こちらは松平瞳子ちゃん。新入生よ。薔薇の館を見たいって、訪ねてきたの」
祥子お姉さまは私を祐巳さまに紹介してくれた。
「……よろしく」
答えてくださった祐巳さまの顔色はさえなかったけれど、祥子お姉さまに叱られていたせいだとそのときは思った。


その後、私は祥子お姉さまの親戚と言うアドバンテージを最大限利用して祐巳さまとの関係を作ろうとしたのだけれども、何故か祐巳さまは私を敬遠なさっているように感じた……


いつしか、祐巳さまと祥子お姉さまの関係もギクシャクし始めて、そして……


どこで間違えたのだろうか……


祐巳さまとなかなか親しくなれないのと、元気をなくしている祥子お姉さまのフォローがうまくできないことで、私はだんだんストレスがたまっていった。

ある日、ご友人とミルクホールに向かう祐巳さまにお会いした。
笑顔を浮かべていた祐巳さまを見たとたん、私のストレスが爆発してしまった。
「最低……見損ないましたわ、祐巳さま。」
「大事なことから目をそらして、どうしてヘラヘラ笑っていられるんですか」
「やっぱり、祐巳さまは祥子さまに相応しくありませんっ」

……最低なのは、私のほう……
これで祐巳さまに完全に嫌われてしまった。

絶望した私は以前からあった「あの話」にのることにしたのだ。
もうリリアンに未練はない……


けれども、あの火曜日、祐巳さまは私を山百合会のお手伝いに誘って下さった。
私は色々と憎まれ口を叩いたが、お受けすることにした。
ただ、うれしかった。
やっと私の知っている祐巳さまに会えたような気がした。
少し火照っている自分を私は感じた。


このようにして祐巳さまとの不思議な関係が始まったのだ。
苦手な私と親しくなろうと努力なさっている祐巳さま。
徐々に私への好感を抱いてくださっていく祐巳さま。
うれしいのに、祐巳さまの気持ちが計り知れず素直になれない自分がいた。
そう、その頃、祐巳さまにはもう一人、親しい一年生がいたのだ。
あの頃だったら、まだ間に合ったかも知れないのに……


学園祭の日、祐巳さまを1年椿組の展示にご案内する約束をした。
それなのに……、祐巳さまは細川可南子なんかと……
しかも祐巳さまは私の出演する若草物語の開演に間に合わなかった。

けれども若草物語後、わざわざ楽屋を訪ねて下さった祐巳さまは、すっかりいじけていた私の手をとって、エイミーの衣装のままと私と一緒に1年椿組の展示に行ってくれた。
そして、私の作った数珠リオを……
このまま時間が止まってほしかった。


その頃にはもう「あの話」が進行していたのだ。
私はそれを忘れていた……


薔薇の館で茶話会が開かれると言う話を耳にした。
その実態は祐巳さまと由乃さまの妹のオーディションだと言う。
私は参加できない。
乃梨子さんがお節介をやいてくれたけど、
私には参加の資格がない……

結局、茶話会では祐巳さまの妹はできなかったようだ。
少しほっとした。


そして試験休み、両親に「あの話」が決定したことを聞いた私は、思わず家を飛び出してしまった。
当てもなくさまよううちに祐巳さまの家の近くに来ていた。
いや自分に嘘をいうのはやめよう。ここが最初からの目的地だった。
偶然であった祐麒さんに連れられて祐巳さまの家に行った。
祐巳さまの話によるとここに来たリリアン関係者は私が初めてらしい。
ちょっと躊躇したけれどときめきもあった。
今日は突然訪問してしまったのだが、私は以前、祐巳さまに招待されたことがあったのだ。
祥子お姉さまや由乃さま、志摩子さまさえも来ていないこの家に。
祐巳さまのところには優お兄さまから私が家を出たことが連絡されていたようだ。
私は決心した。
祐巳さまが何か訊いてくださったら、全てをなげうとうと。

けれども、祐巳さまは心配はして下さったもののなにも尋ねて下さらなかった。
私は賭けに負けたのだ。


クリスマスイブ。
祐巳さまと志摩子さまに薔薇の館のクリスマスパーティに招待された。
お断りをするつもりだったのだけれど、学園祭以降なぜか人が変わったようになっていた可南子さんおかげで無理やり参加させられた。

私はもう祐巳さまとの関係を断ち切る気になっていたのに……

そして、
「妹にならない?」



気が付くと桜の幹に背をもたれている私がいた。
「あぁ、あのころのことは全部忘れて、もう一度やりなおしたい……」

すると背中から声が聞こえた。
『その願い、叶えようか』
「叶えてくれるなら……」
そこまで言ったときすぐ手前で声がした。
「お待ちなさい!瞳子ちゃん、また同じ間違いをする気なの?」
あの人の声に似ているけど、もう少し凛とした声。
『チッ』
背中から気配が消えた。

顔を上げると、そこにはあの人とそっくりな人がいた。
ただ、日本史で習った弥生時代のような服装と髪型をしていたからあの人ではないことが分かった。
「あなたはどなたですの?」
その人は答えた。
「私はカミムスヒ(注1)」
「カミムスヒ?」
私が怪訝な顔をしていると、その人は
「えぇーと、知らないかな。そうだよね、私よりテラスちゃん(注2)のほうが有名だし、ここキリスト教の学校だし。知らなくても仕方ないよね」
ちょっと拗ねた。やっぱりあの人と似ている。
「じゃぁーさ、私を火星に行っている祐巳の双子の姉だと思ってよ」
「おめでたい」
と私が言うと、その人はにっこり笑って、
「あっ、分かってくれた? 私っておめでたいのよ、一応、神様だ・か・ら!」
エッヘンという感じで(ない)胸を張った。
頭が痛くなってきた私は言った。
「その神様がなにか?」
「瞳子ちゃんはね、桜の怪に騙されていたんだよ。そして、なんだっけ、最近の言葉で、えーっと、無限ロールだっけ?それに入り込むところだったんだ」
「無限ループですっ」
「そうそう、その無限ドリル」
わざと言ってるな、この神様(?)は!
「瞳子ちゃんは初めて会った時から、祐巳がツンデレをうまくかわしてくれると思っていたでしょう?だけど、あのころの祐巳は祥子さんとの関係に自信を持ってなくて対応する余裕がなかったのよね。祐巳に自信が出てきたのは梅雨以降なんだから」
カミムスヒ様(?)の言葉とともに私の目の前に今までのことが走馬灯のように流れた。
「『あのころのことは全部忘れて』って言うのが桜の怪の罠だよね。やり直しについても段々忘れるように仕向けてたみたいだし。おかげで瞳子ちゃんは何度も同じことを繰り替えすんだもん」
私の目の前で、祐巳さまと祥子お姉さまとのすれ違いが何度も繰り返された。
「私は、どのくらい間違いを繰り返していたのですか」
そう聞くとカミムスヒ様は
「もう忘れたよ。あ、そういえばこの前、みっちゃん(注3)から無事如来になりましたって挨拶があったっけ」
すれ違いのループが続く。
「瞳子ちゃん、もう素直になったら?祐巳のこと、どう思っているの?」
祐巳さまに似た声でそんなこと言わないで下さい。
「私が今、祐巳さまと祥子お姉さまの間に割り込んだりしたら、また、あの梅雨のころの繰り返しに……。それに私は……」
「瞳子ちゃん、祐巳のこと、嫌い?」
「嫌いになんかなれるわけないじゃない! 大好きに決まっているじゃありませんかぁ、祐巳さまぁぁぁぁぁぁ」

(そう、瞳子ちゃんがそう思っているなら大丈夫だよ、きっと)
遠のいていくカミムスヒ様の声が聞こえた。


「瞳子ちゃん、瞳子ちゃん!大丈夫?」
その声で私は目が覚めたらしい。
「カミムスヒ様?」
「瞳子ちゃん、しっかりしてよ!私よ!」
目をこすりながらじっと見てみると、その人は
「ゆ、祐巳さま!」
「瞳子ちゃん、探したんだよ!昨日、柏木さんさら電話があって瞳子ちゃんが戻ってこないって……」
あたりを見渡すと、そこはあの銀杏の中の桜の木で、朝日が燦燦と輝いていた。
「瞳子ちゃんったら、こんなところで寝ているんだもん。心配したよ、一歩間違ったら凍死するよ」
「でも、うれしかったな。瞳子ちゃん、私のこと好きだって叫んでいたもの」
祐巳さまの頬が赤く染まった。
「あ、あれは寝言です!」
と言いながら私は耳たぶから頬にかけて熱くなっているのを感じた。
「でも、そうなんでしょ?」
と言った祐巳さまの顔がアップになった。


「だけど私は祐巳さまの妹になれません。祥子さまが卒業なさるまであとわずかなのに、そんな大事な時期に私が割り込むわけには行きません。それに私は……」
「柏木さんから聞いたよ。春からカナダの演劇アカデミーに進むんだって」
「そうです。だから私なんかを妹にしたら、春になったら祐巳さまは……」
姉も妹も同時に失ってしまう。
「私は大丈夫だよ。遠く離れても、私と瞳子ちゃんとは心が繋がってるから……って、ちょっとクサイかな?」
そうだ、祐巳さまは強いお方なのだ。あの梅雨のすれ違いの時もいち早く立ち直っていらっしゃったし。

「そういえば、瞳子ちゃん、目が覚めたときに『カミムスヒ様』って言ってたよね?」
「はい、『カミムスヒ様』という神様の夢を見てました」
「『カミムスヒ様』って、私の母方の氏神様で縁結びの神様なんだ。ということは、私と瞳子ちゃんは……」
そう言うと祐巳さまは自分の首からロザリオを外して私の方に掲げた。
「瞳子ちゃん、受け取ってくれるよね」
「はい、お受けいたします」


こうして、私と祐巳さま姉妹になった。



そして、新年度

ふ〜んふ ふふんふん ふふんふ〜ん
薔薇の館で鼻歌を歌っている祐巳の肩をたたいて、由乃さんが言った。
「祐巳さん、ご機嫌ね」
「うん、瞳子からの、らぶれたぁ ふろーむ かなだぁ だもん!」
エアメールをヒラヒラさせながら祐巳が言う。
「えー、見せて、見せて」
「やーだ」
「祐巳さんのケチ!」



 お姉さま、ごきげんよう。
 私もようやくこちらの生活に慣れてきました。
 お姉さまがいらっしゃらないのが少し淋しいですけれど。
 (中略)
 お姉さまと心が通じ合えた今になって思えば、あの苦しかった日々も
 美しかったと感じます。
 ただ、もっと早く素直になっていれば、
 お姉さまと一緒にいられる時間が取れたかと思うと
 ちょっと後悔しますけれど。
 お姉さまは私にとって、最初からかけがえのない方だったような気がします。
 これからはお姉さまにとって私がかけがえのない妹となれるよう努力いたしますわ。

 P.S.
 乃梨子さんから聞きましたが、薔薇の館の手伝いに可南子さんがいらっしゃってるとか。
 お姉さま、浮気は許しませんからね!

                  いつまでもアナタの妹 瞳子



瞳子、あなたはもう私にとってがかけがえのない妹だよ。

瞳子、私は浮気はしないよ。  

だって、

カミムスヒ様がみてる

から


(だけど、佐藤聖さま的行為は浮気じゃないよね!?)



エンディングテーマ:"Anniversary" by 松瞳や祐巳


注1:カミムスヒ、神産巣日神、神皇産霊尊
天から最初に来た三柱の神様のうちの一柱でとってもエラーイのでmim天罰必至。
 祝部氏の祖先と言われており、縁結びを象徴する神と考えられている、らしい。

注2:テラスちゃん
 もしかすると、アマテラスオオミカミのことかもしれないけれど、怖いから断定しない。(某みゆきさまとは無関係)

注3:みっちゃん
 久光製薬のこと……ではなく弥勒菩薩→弥勒如来のことだと思われる、たぶん



あとがき

 最初は弩シリアスにしようと思ってたけど
 途中でコロンでしまいました。しかも中途半端に…… _| ̄|○


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