由乃はちょっとばかり追い込まれていた。
山百合会の仕事で人手がいることになって、2年生3人がそれぞれ手伝ってくれる人を探すことになったのだ。
「各々スカウトでも何でもして適当な数を揃えるように」
そう言ったのは由乃自身。
「リリアン瓦版で一般の生徒から募集してもいいし……」
その時由乃はそう思ったのだが、そこであることに気が付いてしまった。
志摩子さんには乃梨子ちゃんがいるし、祐巳さんにもなんだかんだいって瞳子ちゃんと可南子ちゃんがいる。でも由乃には……。
もちろん、知り合い程度ならクラスメイトを含め多々いるけれど、個人的に頼みごとができるような相手というとそれこそ薔薇の館の関係者くらいしか思い付かなかった。ぶっちゃけ、友達が少ないのだ。
別に仕事だからと割り切ってしまえばそれはそれで構わない話だ。だからこれは、由乃の小さな見栄だった。最終的には何人か募集するにしても、せめて一人くらいは個人的なツテで確保したい。
最悪、剣道部の一年を山百合会権限で引っ張ってくるか……もちろん令ちゃんにも内緒で。あまり解決になっていないようなことまで考えて、そこで由乃はふと思った。
……そうか、別に妹じゃないんだから1年に限る必要はないのか。
「なんで私が?」
田沼ちさとは怪訝そうに言った。
「なんでって……」
ふてくされたように言いよどむ由乃さんを、ちさとは呆れたように見やった。仮にも黄薔薇のつぼみ。声をかければ、寄ってくる1年生などいくらでもいるだろうに。
「私、剣道部なんだけど」
「知ってるわよ。私だって剣道部なんだから。だから時間のある時だけでって、……もういいわよ!」
プイッとそっぽを向いた由乃さんはひどく子供っぽく見えて、ちさとはつい苦笑する。
そもそも、ちさとが由乃さんの頼みを聞いてあげる義理は無い。令さまをめぐるライバルなのだし、助けてやる義理なんかこれっぽっちもないのだが………。
「……時間のある時だけだからね」
「えっ?」
きょとんとした由乃さんの顔は、意外と幼く見えた。
「時間のある時だけでいいって、自分で言ったんでしょうが!」
だからというわけではないが、ちさとはわざと怒ったように言った。
「あ、うん。うん!」
嬉しそうにニパッと笑いながら頷いた由乃さんは、すぐにハッとしたようにそっぽをむいた。
「別に、無理しなくてもいいのよ。部活大変だろうし」
「だから時間のある時だけって言ってるでしょうが。それより由乃さん、早く着替えないと」
先に着替えを終えたちさとは由乃に背を向けた。「部活に遅れるわよ」の言葉に慌てて着替えを再開した由乃さんは、こちらに背を向けたままの状態で言った。
「ありがとう。他に頼めそうな人、いなかったのよ」
「……どういたしまして」
そっぽを向いたままお礼を言う由乃さんの背中を見て、ちさとは令さまの気持ちが少しだけわかったような気がした。