「ただいま、戻りました」
その声と共にビスケット扉が開き、 カメラちゃんを捜していた祐巳ちゃんが祥子と一緒に戻っていた。
「祥子さま、美しいです………」
うっとりとした声を上げて、ぱしゃりと言う音と主にフラッシュを光らせたのは。
祐巳ちゃんが捜していたカメラちゃんだ。
祥子はいつもの長い髪を黒いリボンでまとめていた。
その姿は、どこから見ても気高く美しかった。カメラちゃんの食指が動くのも当然と言えた。
祥子の表情はいつもと違い、その表情はとても柔らかかった。
でも、そんなリボンをどこで手にいれたのだろう?
さっきあった時は、リボンなんかしていなかったのに。
隣に立っている祐巳ちゃんを見ると、祐巳ちゃんはいつものツインテールじゃなく、ポニーテールになっていた。
手には包装紙に包まれたなにかを持っていて、祐巳ちゃんは心から嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
私はそのことから、全てを推測できた。
「祐巳ちゃん、祥子にもらったの?」
「はい! クリスマスプレゼントにいただいたんです」
満面の笑み浮かべて、嬉しそうに報告してくれる祐巳ちゃん。
「そう、よかったわね」
そう言ってから、私は祥子の方をじっとみつめた。
「あ」
次の瞬間、祥子はほんとに小さく、呟き、顔を引きつらせた。
「私は、あなたのピアノで良いわ」
私は祥子に近づくと、祥子だけに聞こえる声でそう言った。
祥子はほっとした表情を浮かべると直ぐに、嬉しそうな表情をして頷いた。
そんな祥子を見ながら、私は内心ため息をつく。
最近祥子は祐巳ちゃんを猫かわいがりで、私のことをないがしろにしている。
私も祥子が妹になった当初は、そんな状態だった覚えがあるから、何も言えないけど。
これで、祐巳ちゃんが憎たらしい子なら、怒りの矛先を祐巳ちゃんにぶつけることもできるのだけども。
でも、少しくらい、この気持ちを祐巳ちゃんにぶつけても問題ないだろう。
そう思って祐巳ちゃんに話しかける。
「ゆーみちゃん。私からもプレゼントあげるわ」
そういって、祐巳ちゃんの前に立つ。
「紅薔薇さまからも、いただけるですか? ありがとうございます」
「じゃあ、目をつぶって、両手を出して」
私の言葉に、祐巳ちゃんはわくわくと言ったオーラを存分に出しながら、両手を前に出して目をつぶった。
私はそっと祐巳ちゃんの前髪をあげ、おでこを全開にするとしばらくそのおでこを見つめた。
「紅薔薇さま?」
祐巳ちゃんの不安げな声を聞いた私は、私は全開になっているおでこに、ピシリとでこピンをくらわせた。
「いたっ」
突然襲った衝撃に、祐巳ちゃんがびっくりして、目を開ける。
「紅薔薇さま、今一体何を?」
私はいたずらっぽい笑みを浮かべて、でこピンよクリスマスプレゼントにね、とさらりと言った。
「でこ……ぴ、ん………」
私が急にそんなことをしたのが信じられないのか、祐巳ちゃんは目をまん丸くして私の方をじっと見つめた。
「祐巳ちゃんからの、お返しはこれで良いわ」
そんな祐巳ちゃんを見てくすりと笑うと、髪を縛っている黒いリボンをほどいた。
「えっと………」
祐巳ちゃんの表情がくるりと変わる。
今はでこピンされてリボンまで取られるのはあんまりだと言う表情だ。
本当に感情が顔に表れる娘だ。百面相と言う言葉はこの娘のためにあるのではないかと思う。
「冗談よ。あとで祐巳ちゃんには私が焼いてきたクッキーをあげる。令ほど上手じゃないから味は保証しないけどね」
そう言ったとたん、少し不満そうだった表情はまたくるりと変わり、クッキー楽しみーといったうきうきとした顔になる。
それを見た私は思わず目尻が下がった。
祥子が取られて少し寂しいけれど、祐巳ちゃんのことが嫌いな訳じゃないのだ。
だって、祐巳ちゃんは私のかわいい孫でもあるのだから。