【1217】 凸さま肉球あたーっく背後からの攻撃!!  (朝生行幸 2006-03-03 02:11:21)


「ニャー!」
 ドゴシ。
 まるで猫のような鳴声を発しながら、黄薔薇のつぼみこと支倉令の後頭部を容赦なくドついたのは、黄薔薇さまこと鳥居江利子だった。
 ネコミミネコパンチを装備して、トレードマークのデコはフルオープン。
 オマケにスカートの中から尻尾まで覗いており、何故か先端が左右にフラフラ揺れている。
「黄薔薇さま!?」
 驚いたのは、令の隣にいた紅薔薇のつぼみ小笠原祥子。
 地面に顔面をめり込ませた令は、そのままサッパリほっぽったままで。
「ニャー?」
 不思議そうな顔で祥子を見る江利子は、まるで本物の猫のようだ。
 なんじゃコイツ頭沸いてんのか?とでも言わんばかりに、嫌そうに口の端を歪め、眉を顰めた祥子。
 しかし、そんな表情なぞものともせず、祥子の頭の上でユラユラ揺れているアホ毛を見た江利子は、キラリンと瞳を輝かせると、
「フギャー!」
 ネズミを見つけた時のように、祥子に飛び掛った。
 普通の猫なら、ちょっと引っ掻かれるだけで済んだだろうが、なにせ相手は人間サイズのエセ猫。
 しかも、手加減なんてしない(出来ない?)。
「あきゃー!」
 体当たりアンド引っ掻きアンド脳天への一撃を喰らった祥子は、その場で空しく地に伏した。
 動かなくなった標的にはすぐに興味を失い、素敵な江利子スマイルを浮かべながら立ち去るネコ黄薔薇だった。

「わー!」
「ぎゃー!」
「きゃー!」
 三者三様の悲鳴を上げて、猫の格好しているくせに猿の如く飛び回るネコ黄薔薇の猛攻を避けているのは、白薔薇のつぼみ藤堂志摩子、紅薔薇のつぼみの妹福沢祐巳、黄薔薇のつぼみの妹島津由乃の三人だった。
 順番に祐巳、由乃、志摩子で、それぞれを象徴するような悲鳴が辺りに響き渡る。
「ちょっと黄薔薇さま!なんですかそのカッコは!?」
 同じ黄薔薇姉妹としては、なんだかちょっと恥ずかしいその格好に、イヤーな気分の由乃。
 しかし由乃の気分とは裏腹に、心底楽しそうな江利子は、祐巳のツインテール、由乃の三つ編み、志摩子の巻き毛を相手に、あっちこっちと飛びまくる。
 祐巳はあたふたと、由乃はおたおたと、志摩子はひらひらと。
 今はまだ避けられているが、ネコパンチの餌食になるのは時間の問題だった。
 特に由乃の場合、意識しているのかいないのか執拗に狙われているし、しかも彼女は体力がない上、身体の動かし方を知らない。
 おそらく一番最初に沈むのは由乃であろう。
 証拠に、ほとんど息が切れている。
「もう、こんな、時に、限って、令ちゃんは、何、やってるのよ!」
 切れ切れで悪態を吐くも、残念ながら令は、向こうで一番最初に伸びている。
「フニャ!」
 ズゴシ。
「みぎゃー!」
『由乃さん!?』
 やっぱり一番に沈んだ由乃だった。
 うつぶせになって伸びている由乃の頭を片足で踏みつけながら、ニヤリと笑みを浮かべ、祐巳と志摩子に向き直るネコ江利子。
 新たに目標を志摩子に定め、飛び掛るネコ江利子だが、ひょいひょいと紙一重でかわされ、まるで捕らえることが出来ない。
 猫らしくあっさりと諦めた(飽きた?)ネコ江利子、今度はもっと手軽で与し易い祐巳に目標を定めると、人知を超えたスピードで襲い掛かった。
 その圧倒的なスピードに逆らえるわけでもない祐巳、目を瞑って衝撃に耐えるため踏ん張ったその時。
 ガキーン!
 あり得ない効果音が響く。
 予想していた衝撃が来なかった祐巳が、そっと目を開いてみればそこには、唯一ネコ江利子に対抗できるであろう人物、
「紅薔薇さま!?」
 水野蓉子が立っていた。
「祐巳ちゃん大丈夫?」
「あ、はい。ありがとうございます」
 強敵を前にしたネコ江利子は、ポンとトンボを切って間を取った。
 やはり人間業ではない動きだ。
「や、志摩子」
「お姉さま、ごきげんよう」
 脇から現れ、お気楽な顔で志摩子に声をかける白薔薇さまこと佐藤聖。
「いやぁ、それにしても変なことになったねぇ」
「そうですね」
 大の字になって、今尚伏している由乃に目もくれず、他人事のような態度の白薔薇姉妹。
「ってオイ!いい加減にしろよバカデコ!?」
 突然ガバチョと起き上がり、ネコ江利子に指を突きつける由乃。
「おや、生きてた」
「そうですね」
 やっぱり他人事のような態度の白薔薇姉妹。
「生きてますよ!?ったく、令ちゃんは未だ来ないの?」
「あー、令なら向こうで伸びてたよ」
「ンだとう!?」
 二年先輩でさらには薔薇さまの聖に対しても、怒りですでに礼儀もクソもない。
「くっそう、大概目ぇ覚ませコンニャロー!」
「フニャー!」
 突然始まった『エセ猫対よしニャ』の戦い。
「何?私の出番はこれで終わり?」
 せっかく格好良く祐巳を助けたのに、ぶち壊されたような形になった蓉子、心底つまんなさそうな顔をしていた。
「あのう、ほっておいて良いんですか?」
「いいのよ。じゃれあってるだけだから」
「とてもそうは見えないんですけど…」
「ほっとけほっとけ。さ、薔薇の館に行こうよ祐巳ちゃーん」
「ぎゃう」
 血みどろの戦いを繰り広げる江利子と由乃はそのままで、その場を立ち去る四人だった。

「ところで、祥子さまはどうなさったのかしら?」
「あー、祥子なら令の隣で伸びてたよ」
「早く言いなさいよ!行くわよ祐巳ちゃん」
「はい!」
 慌てて薔薇の館を後にする蓉子と祐巳。
「それにしても、江利子さま、なんだったんでしょう?」
「さーねー。もともと気紛れなヤツだから」
 結局理由は聖も知らなかったが、その一言で、それ以上追求することもなく納得する志摩子だった。
 
 黄薔薇姉妹がいない薔薇の館で、お茶を楽しむ紅薔薇姉妹と白薔薇姉妹。
 窓からは、未だ激闘を続ける江利子と由乃の姿。
 そして遠くには、未だ気を失った令の姿がかろうじて見えるのだった…。


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