じゃばー!きー、ぱたん。ぱちゃぱちゃ。
「るん♪るるーん♪るるるん♪るーるるるんるーるん♪」
もうすぐ卒業式という小春日和のある日。
なんとなくウキウキして鼻歌を歌いながらお手洗いを後にする。
快眠快食快・・・こほんこほん、今日も一日よい日でありますように。
「そこの貴女!お待ちなさい!」
「は、はいっ!」
呼び止められて顔だけ振り向くなんてことはリリアンの淑女としてあってはならない。
優雅に全身で振り返り・・・え?ロサ・カニーナ?蟹名静さま?
「今、鼻歌を歌っていたのは貴女ね?」
「は、はい、そうです」
うわっ!変なの歌ってたっけ?
リリアンの歌姫静さまには変な音程の歌とか気になるのかな?怒られるの嫌だな。
そう思って俯いていると、静さまは私の両肩に手を置いて。
「奇麗な音ね。ねぇ、合唱部に入らない?」
はい?
「私は今学期一杯で留学するけれど、それまでみっちり鍛えてあげる。貴女、スジは良いもの」
えぇーー?私に歌の才能なんて無いですよー!
「む、無理、無理です!合唱部なんて畏れ多いこと出来ません」
「いいえ、大丈夫。貴女なら出来るわ」
うわぁ、他人の話聞いて無いよこの人。私の両肩を掴む手に力が入り、指が食い込んできてますよ。
こんな時はどうしたら良いんだろう?焦っちゃって何も思いつかないよー!
と、パニックになっているところに救いの女神が。
「あれ?静さま?どうかされたんですか?」
「あら、祐巳さん、志摩子さん」
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!祐巳さん!お願い、あなたの親友を助けて!!
「祐巳さん、よかった・・・」
「あら?祐巳さんのお友達?それなら話は早いわ。ねぇ、一緒に彼女を説得してちょうだい。合唱部に入って欲しいのよ」
静さまの言葉を聞いて、祐巳さんは首を傾げてる。
「えーっと、静さま?合唱部にですか?でも・・・」
「でも?」
「音楽の成績は私と同じくらいで、ごく平均ですよ。合唱部にというのは無理があると思いますけど」
そう、そう言ってあげて祐巳さん!
「それにテニス部と合唱部の掛け持ちは大変かと」
そ、それだわ。そう言えば良かったのね。さすが祐巳さん、紅薔薇のつぼみの妹ね。
「そんな・・・私の跡を継いでくれる逸材だと思ったのに・・・」
「ほ、本当に無理なんです。えーっと、そうそう、私が得意なのは鼻歌だけ、鼻歌だけですから」
静さま、本気で落ち込んでる。悪い事したかなぁ。
「わかったわ。あー、それにしても残念だわー」
とりあえず諦めてもらえたようで、でも頭抱えて歩いて行かれた。
「ふぅ、助かった。あんな有名人に声かけられたこと無いから緊張しちゃった」
「あははは、大変だったね」
「もう、祐巳さんてば他人事だと思って、私みたいな小心者には大事件なんだからね」
と、それまで話に加わらずににこにこと見てるだけだった志摩子さんが私達の会話に参加してきた。
「あのね、祐巳さん。こちらの方は祐巳さんのお友達なの?紹介してくださらない?」
って・・・・・・・・・。涙が込み上げてきて、私はその場から走り去るのだった。
「うわぁぁぁぁん!クラスメートを忘れるなんて酷いよ、志摩子さぁぁぁぁん!!」
「クラスメート?」
「志摩子さん、桂さん忘れちゃったの?」