「それでは不肖、二条乃梨子。瞳子と上手に付き合う講座を始めさせて頂きます」
「おおー」
ぱちぱちぱち、と拍手をして下さるのは、言わずと知れた紅薔薇のつぼみこと福沢祐巳さま。
ちょっと寂しい反応だけど、急遽開かれた『瞳子と上手に付き合う講座』とやらの受講者は、その祐巳さま一人なのだから仕方ない。
事の発端は、今日も今日とて瞳子にちょっかいを出そうとして失敗した祐巳さまが、一応瞳子と親友やってる乃梨子に白羽の矢を立てておっしゃったことにある。
「ねぇ、乃梨子ちゃん。どうやったら瞳子ちゃんとうまく付き合えるかな?」――と。
かくして薔薇の館は講師・乃梨子が祐巳さまに、瞳子とうまく付き合う方法を教えると言う、即席講座の場と化した。
「まず最初に把握しておく必要があるポイントとして、瞳子はツンデレ属性だということです」
きゅっきゅっとペンを鳴らして、乃梨子はホワイトボードに『ツンデレ』と書いて丸で囲んだ。ホワイトボードがなんであるんだろう、なんて考えたら負けだと思ってる。
「つんでれ?」
「そうです、普段はツンツンしている瞳子ですが、うまくやればデレデレします」
「なるほど」
祐巳さまが真剣に頷く。
「それで、その方法は?」
「瞳子はアレで意外と常識派です」
きゅっきゅっと『じょーしき派』と書く。
「そして意外と逆境に弱い。そこを衝く方法の一つが『バックアタック』と呼ばれる手法です」
「ばっくあたっく?」
「背後から強襲――というのが本来の意味ですが、要は不意を衝くということですね。無関係の話題から、瞳子が苦手とする話題へ急に変更すると、結構おろおろします」
「なるほどー」
「他にも横入り攻撃『サイドアタック』や肩透かし攻撃『フェイント』などのテクニックがあります」
「ふむふむ」
「これらのテクニックを駆使すれば、瞳子などイチコロでございます!」
「お、おおー!」
ぱちぱちぱち、と祐巳さまがスタンディングオベーションしてくれる。
「凄いよ、乃梨子ちゃん! 私、今度頑張ってみる!」
「はい。何事も実践あるのみです!」
かくしてその日の『瞳子と上手に付き合う講座』は盛況の内に幕を閉じた。
――そして、数日。
「乃梨子ちゃん……」
「はい、なんですか?」
「ダメだったよ。背後から襲い掛かったら、瞳子ちゃんにこっぴどく叱られたよ……」
しゅん、となる祐巳さまに、乃梨子は慈愛の微笑を浮かべると、そっと肩に手を乗せた。
「祐巳さま、それでいいのです」
「――え?」
「そうやって怒った姿を堪能するのもまた、ツンデレを味わう上でのマナーですから」
「――な、なるほど……さすが、乃梨子ちゃん」
かくして『瞳子と上手に付き合う講座』は、めでたく第二回を迎えるのだった。
ちなみにこの講座は、決して「間違いだらけ」ではないと、個人的には思っている。