【1234】 すべてを燃やす寸止めの美学  (8人目 2006-03-08 07:19:56)


『がちゃSレイニー』

     †     †     †

「と、瞳子ちゃん……」
「祐巳さま?」

 マリア様の前で、驚愕の表情から一転、今は泣きそうな顔をして立ち尽くす祐巳さま。
(って貴女は何を考えているのですか!?)

「か、勘違いなさらないでくださいっ! “預かってほしい”と言ったんです。後で必ず返してもらいますから。私は祐巳さま(の妹)が嫌だと言っているのではありませんわ」
「ほんとう?」
「本当です、瞳子を信じてください。もう逃げないと誓ったんですから」
「……うん。わかった信じる」

 一転、笑顔になる祐巳さま。
 相変わらずお顔の表情が豊かです。

「はあ、先が思いやられますわ」
「ごめんね。でもまだ自分でも信じられなくて。ああ、お姉さまってこんな感じなんだなあって。妹のことがすごく心配で、大好きで。大丈夫かな? とか、嫌われたらどうしようとか、私のこと好きだと思ってくれているんだろうかとか。いろんなことを考えちゃうみたい」

 えへへ、と祐巳さまが笑う。
 まったくこのお方は。

「祐巳さま。全部口に出して仰らないでください。私の方が恥ずかしいです」
「ふふふ」

 恐らく自分の顔は耳まで真っ赤だろう。カーっと顔中に血が集まっているのを自覚している。
 その祐巳さまといえば“にへら”と微笑んでいらっしゃって、何を考えているのか想像もできませんが。
 いえ。くるくると変わる祐巳さまのお顔を眺めていると、想像したくなくなってきました……。

「話を戻します。よろしいですか? 私はまだ、白薔薇のつぼみということになっているんです。先日(【No:538】)、志摩子さまに自分の気持ちを伝えたあとロザリオを返そうとしました。ですが返しそびれてしまったんです」

「それから昨日(【No:742】)です。勢いで乃梨子さんに志摩子さまのロザリオを返してしまいました。本来なら志摩子さまに返すべきところなのにです」

「志摩子さまのロザリオを乃梨子さんから返してもらって志摩子さまに返すまで、祐巳さまの妹と公にする資格は瞳子には無いんです」

「最後に。祐巳さまが“妹はただ一人”と仰るのなら、私も“姉はただ一人”です。その辺りのけじめは、しっかりとつけなければなりません」

 瞳子が指を折り曲げて順番に説明すると。
 祐巳さまは少し考えてから、

「……ええと、自分の気持ちって?」

 変なところにツッコミを入れてくれる祐巳さま。
 あの時のことは志摩子さまと令さましか知らない、当人である祐巳さまにはとても言い難いこと。

「あ、の、それは……『ゆ、祐巳さま以外の方を……と呼ぶつもりは無い、と』」

 瞳子が小さな声でしどろもどろに答えていると、祐巳さまは「ん?」と首を傾げた。

「ですからっ! お姉さまと呼ぶのは祐巳さまだけだと言ったんですっ!!」

 って、ああだめ。顔が熱い。何で私がこんな……。
 瞳子が塞いでいると、祐巳さまが半歩近づいて瞳子の肩に手を添えた。瞳に涙が溜まってくる。

「祐巳さまが悪いんですよ? 志摩子さまにロザリオを返そうとした時、祐巳さまが倒れられたと聞かされて。それで心配になって、思わず駆け出して、慌てて保健室に……」

 目を閉じ祐巳さまの肩に額をコツンと付ける。
 祐巳さまの手に力が入る。

「……ごめんね、気付いてあげられなくて。それから。心配してくれて、ありがとう」
「もういいです。ですので私は、志摩子さまのロザリオを正式に志摩子さまにお返ししなければなりません。それまで祐巳さまのロザリオは祐巳さまに預けておきます」
「うん。わかった。それまで預かっているから。待っているから」
「祐巳さま……」
「瞳子ちゃん……」

 そう言って祐巳さまは瞳子を抱きしめてくれた。私もそろりと祐巳さまの背中に腕を回す。
 暖かい祐巳さま。ドキドキと二人の心音が重なる。
 祐巳さまが瞳子を信じてくれている。待つといってくれている。祐巳さまの傍にいてこんなに幸せと感じられるなんて、昨日まで考えられなかった。

「あのー、お二方。その辺で止めておかないと、大騒ぎになるわよ?」
「「え?」」

 せっかく良いムードだったのに。誰です? お邪魔をするのは。
(じゃなくてっ!)
 慌てて祐巳さまと離れて声のした方を見遣ると、そこには写真部のエースこと武嶋蔦子さまがあきれた顔で立っていらっしゃった。

「つ、蔦子さん、ごきげんよう」「ご、ごきげんよう蔦子さま」
「はい、ごきげんよう。で、アレなんだけど?」

 蔦子さまの指差すほうを祐巳さまと二人で見ると、そこには人だかりが……。
 って、またやってしまったんですわああああ。
 隣でカチコチに固まっている祐巳さまを揺する。

「ゆ、祐巳さま。は、早く行きましょうっ!!」
「う、うん」

 「ゴキゲンヨウ、ミナサマ」と引きつった笑顔で、二人そそくさと退散する。
 祐巳さまの妹として私はやっていけるのでしょうか?
 少し自信がなくなりました。


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