沙貴さんの【No:1163】『見上げる狂い咲き』のラストをちょっといじってみるテスト。
若菜はなんとはなしに振り返った。
昔を思い出したせいだろうか。あの桜の木に呼ばれたような気がして。
風が、吹いた。ざぁと音を立てて、あたりが桜色に染まる。
「え?」
その満開の桜の木の下に。
舞い散る花びらの中に。
あの時の彼女が。
あの時のように微笑んで。
静かに佇んでいた。
「若ちゃんってばっ!!!」
「え?」
我に返る。もちろん桜には花はおろか葉の一枚も残っていないし、彼女がそこにいるわけもない。
それでも……
「もう、ホントにっ……」
目の前まで来た紫苑が驚いた表情を見せて絶句する。
若菜は頬に暖かいものが流れていることに気がついた。
馬鹿げた話かもしれない。
それでも、確かに見たのだ。
その存在を感じたのだ。
ああ、彼女はその名のとおり、桜の精になったのだ。
涙が、止まらなかった。
ここに居たんだね。
今まで気付かなくて、ごめんね。
一回りも年下の少女の前で、とめどなく流れ落ちる涙を拭いもせずに、若菜はただ静かな笑みを浮かべて佇んでいた。
「っていうのはどうだろう、若ちゃん」
「あのねえ……」
こうして、伝説は増え続けていくのである。