【1233】 桜の木の下で花は幻想のままに絡み合う  (篠原 2006-03-07 21:30:41)


 沙貴さんの【No:1163】『見上げる狂い咲き』のラストをちょっといじってみるテスト。


 若菜はなんとはなしに振り返った。
 昔を思い出したせいだろうか。あの桜の木に呼ばれたような気がして。
 風が、吹いた。ざぁと音を立てて、あたりが桜色に染まる。
「え?」
 その満開の桜の木の下に。
 舞い散る花びらの中に。
 あの時の彼女が。
 あの時のように微笑んで。
 静かに佇んでいた。

「若ちゃんってばっ!!!」
「え?」
 我に返る。もちろん桜には花はおろか葉の一枚も残っていないし、彼女がそこにいるわけもない。
 それでも……
「もう、ホントにっ……」
 目の前まで来た紫苑が驚いた表情を見せて絶句する。
 若菜は頬に暖かいものが流れていることに気がついた。
 馬鹿げた話かもしれない。
 それでも、確かに見たのだ。
 その存在を感じたのだ。
 ああ、彼女はその名のとおり、桜の精になったのだ。
 涙が、止まらなかった。

 ここに居たんだね。
 今まで気付かなくて、ごめんね。

 一回りも年下の少女の前で、とめどなく流れ落ちる涙を拭いもせずに、若菜はただ静かな笑みを浮かべて佇んでいた。





「っていうのはどうだろう、若ちゃん」
「あのねえ……」

 こうして、伝説は増え続けていくのである。


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