【1241】 豪華絢爛威風堂々反山百合会活動の闘士  (六月 2006-03-10 22:45:33)


【No:1235】でのコメントキリ番にて、「SS書かなければならない権利」頂きましたのでどうかご笑納ください。
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お姉さま、令さまの卒業まであと一週間。
最近は三年生のお姉さまがたが登校されることも珍しく、今日は久しぶりに山百合会全員そろっての帰り道。
やっぱり令さまが居ると由乃さんが本当に嬉しそうに笑う。
私もお姉さまと一緒に居られると思うと、嬉しさで見えない尻尾をブンブン振ってしまう。
みんなで楽しく歓談しながらマリア様の前に差しかかった時、道の脇の茂みから数人の人影が飛び出して来た。

「「私達!山百合会に認めてもらい隊!!」」

・・・えーっと、もう春とは言え頭の中まで温かくなるには早いと思うのだけれど。というか、誰?

「失礼ね、あなた方山百合会の人達に『友人』と呼ばれつつも、フレームアウトした私達を忘れたとは言わせないわ!」
ごめんなさい、忘れました。
「ひどーーーーーい!絶対にあなた達に私達の存在を認めさせて上げるわ!」

「何をバカなことを」
「祥子さん、私が誰かわかりますか?」
何やら背の低い方がお姉さまの前に進み出た。
「・・・美冬さんでしょう?それがどうかしたの?」
「幼稚舎のころ、ブランコから落ちた女の子を覚えていますか?足を怪我して祥子さんが助けた女の子です」
「え?」
「あの時からずっと祥子さんに憧れて、一度は外の学校に行ったけれど、またリリアンに戻って来て再会できた感動といったら」
お姉さまはこめかみからつーっと一筋の汗を流していた。
「それなのに、祥子さんは私のことなどすっかり忘れて・・・短編にしか出番無いし、うぅぅ」
慕われるのは嬉しいけれど、これはある意味ストーカーと言うのではないだろうか。
目の前で急に泣き出してしまった美冬さまをお姉さまは慌てて抱き締めると。
「そ、それは悪かったわ。ごめんなさい」
「いえ、良いんです、思い出に縋っていた私もいけないんだし。でも、せめて卒業式くらいは出番が欲しいの」
って、おーい。妹の私の目の前で抱き合わないで頂けませんか?

「あの・・・野島さん?」
「憶えててくれたかしら?」
ポニーテールの方に睨まれて、令さまヘタレてる。
「憶えてるもなにも、剣道部の部長を忘れるわけないでしょ」
「でもね、私が登場出来たのって梅雨の時だけなのよね。体育祭も剣道部は一言触れられるだけ、秋の対抗戦も令さんが大将で私のことなんて一言も触れられなかったわ」
「えっと、それは神様の都合で・・・」
令さまどんどん逃げ腰になって追い詰められていってる。
「令さんは優秀だから練習に専念して欲しいし、山百合会があるから、部長なんて雑用は私が引き受けたんだけど・・・奇麗さっぱり忘れ去られるなんて酷いと思わない?」
「いや、あのね、野島さん」
「そう、それもよ!このリリアンで苗字で呼ばれてるなんて私くらいよ!あの、名前だけの彼女と一緒の扱いなのよ!」
と、びしっと指さした先の・・・誰だっけ?思い出さないとまずい気がするんだけど。
「そんなこと無いよ、野島さん。大丈夫、私はあなたに感謝しているわ。私を陰から支えてくれる貴方を」
おー、令さまの反撃。まるでどこかのホストのように野島部長さんの腰に手を回し、胸元に引き付けながら、そっと頬を撫でている。
「わ、わかってくれたならいいの・・・」
あのぉ、ミスターリリアンに抱き締められて頬を染めるのはいいんですが、由乃さんの嫉妬の矛先が・・・って、由乃さん?

「さて、ちさとさん?貴方までどういうこと?」
「わ、私だって出番が欲しいのよ!バレンタインの時と梅雨の由乃さんの入部の時だけ!私の出番はそれだけ!」
こちらもびしっと指さして、って相手は由乃さんだけど。
「山百合会以外での貴方の友達なんて私くらいなものじゃない!それなのに出番が無いってどういうことよ!」
「・・・はぁ。・・・分かって無いわね。貴方の出番はこれからじゃないの」
と、肩をすくめながら由乃さんがぽつりと漏らす。
「へ?これから?なんで?」
「貴方が言う通り、私には山百合会以外での友人は少ないわ。蔦子さんと真美さんとちさとさんくらいよ」
こくこくとちさとさんが首を振ってる。
「新学期になればマリア祭があるわ。そのとき、妹が居ない・・・居ても1年生だろうけど・・・私は誰かに手伝いを頼まなければいけないの」
更にちさとさんが首を振る。
「頼める友人は誰?蔦子さん?手伝うより写真撮ってるわね。真美さん?2年連続で頼むわけにもいかないわ。残るのは誰?貴方だけじゃない」
もう、ぶんぶんと首を振りまくり。
「貴方の出番はそこなのよ!」
「由乃さん!私待ってる!出番が来るまで待ってるわ!」
宙を指さす由乃さんの腰にしがみつきながら、ちさとさんが滂沱の涙を流してる。けど、神様そこまで考えてくれてるかなぁ・・・。

「かしらかしら」「私達を憶えているかしら?」
「なぜ敦子さんと美幸さんまでいらっしゃいますの?」
「・・・そうそう、敦子さんと美幸さん、なにやってんの?」
「「乃梨子さんはお忘れになっていらっしゃったのかしら?」」
「・・・ごめんなさい」
あっちゃー・・・乃梨子ちゃん、それは可哀相だよ。
「私達は瞳子さんと一緒に登場したはずですわ」「瞳子さんのお友達だったはずですわ」
「あぁ、それなのに」「なのに」「乃梨子さんや可南子さんとラブラブなのですわ」「ですわ」
奇妙なハーモニーの二人ね。姉として瞳子の友達としては心配だわ。
「それはそうよ、だってあなた達肝心な時に居ないんだもの、ねぇ瞳子」
「の、乃梨子さん!」
ちょっと乃梨子ちゃん!瞳子に抱き着くのは止めなさい!・・・白薔薇家が紅薔薇家に抱き着くのは宿命なのかしら。
「学園祭後、茶話会の頃のナイーブな瞳子を放っておいた、あなた達が友達?そんなの友情じゃ無いわ!」
「がーん、ですわ」「ですわ」
「友達なら悩み苦しんでる姿を見て放っておけるはずが無いじゃない!私は認めない!」
「・・・へなへなへな、しょんぼりですわ」「ですわ」
うーん、自分で効果音つけながら落ち込まれてもなぁ。
そんな二人を見下ろしながら、なんだか偉そうに無い胸を張ってる乃梨子ちゃんと、眉間をつまんでため息をついてる瞳子だった。

そして、私の前には・・・。
「・・・・・・えっと」
「桂よ、か・つ・ら!」
あー、そうだった。
「三枝さん」
「いらっしゃーぃ、って違うわよ!」
そうか、違うのか・・・あれ?苗字を思い出せないぞ。
「・・・・・・もういいわよ、余計に悲しくなるから」
「ん。で、何やってるの?」
あれ?桂さん、器用に顔面だけで倒立できるね。でも、そこは地面だから顔が汚れるよ。
「最初に言ったでしょう!『山百合会に認めてもらい隊』、忘れ去られた私達を思い出してもらいに来たのよ」
「はー。それで私のところには桂さんなのか〜。でもね、仕方ないんだよ桂さん達は」
「なにが?」
「特技が無いじゃない。ストーカーとか、盗撮魔とか、ガセネタ創作魔とか、隠密とか、美少女フライング中坊とか、個性が足りないのよ」
「それは可南子ちゃん、蔦子さん、三奈子さま、真美さん、笙子ちゃんね。山百合会に近づくにはあれだけの個性が必要なのね・・・」
桂さんががっくりと地面に膝をついて、_| ̄|○になってる。
「桂さんがテニスで全国大会優勝するくらいだったらよかったのにね」

「で、志摩子さんには誰が?」
「あ、それは誰も居なかったの。実は志摩子さんって友達居ないんじゃない」
桂さん、なにげに酷いこと言ってるよ。
「・・・桂さん。ここに一枚の葉書があります。ちょっと読みますね」
『拝啓、志摩子さん。
 ちょっとした噂を耳に挟んだのだけれど、リリアンで山百合会に縁のある人たちが集まって、自分たちの存在を主張する会を作っているらしいの。
 でもね、私は呼ばれて居ないのよね。何故かしら?
 まさか忘れられた人達にまで、私が忘れられたなんてことは無いわよね。
 ということで、そちらの卒業式のころ一度日本に帰ります。その会のリーダーを捕まえておいて下さらないかしら?色々とお聞きしたいので・・・。
 もしも私のことを忘れて居たなんてこと言ったら、椅子に縛り付けて耳元で私のアリア独唱フルボリュームをお聞かせします。と伝えておいてくれると助かるわ。
 それではまた。
 イタリアの空の下から。蟹名静』
「はい、桂さん」
にこやかに葉書を渡す志摩子さん。でもね、静さま。いくらすばらしい歌でもそれでは拷問ではないかと・・・。桂さんも顔面蒼白になって脂汗流してるよ。
「あら、その葉書、届くの遅れたみたいね」
って、静さま?いつの間に現れたんですか?
桂さんはその場で180度反転し、顔だけこちらに向け、右手を上げると。
「あ、私忙しいから。それじゃ祐巳さん新学期にお会いしませう。では、みなさんごきげんょう」
と逃げ出そうとしたところを、静さまにがっちりと肩を掴まれて引きずられていった。
「ふふふふ、お話、き・か・せ・て・ね」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」



その後、本当に新学期が始まるまで桂さんの姿を見た人は誰もいなかった。


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