卒業式のあと。黄昏に包まれた部室に戻ると人影があった。
この方はちょっと苦手。かつて私はこの方からの妹の申し出を断り……そして今、この先輩は見送られるべき妹を持たぬまま卒業される。
「蔦子ちゃん。そんなに済まなそうな顔をしないで頂戴」
「これは失礼しました。ご卒業おめでとうございます」
「そう、いい笑顔よ。それでこそ写真部のエース」
逆光が夕焼け空を真っ黒く切り取っているため、表情は判らない。でもきっとこの方は、笑いながら涙を流しているに違いない。鋭くて優しくて強くて、どことなく祐巳さんを彷彿とさせる人。
「お邪魔しました。もう一回りしてくるので、ゆっくりしてってください」
私はカラッカラの笑顔で言えたと思う。写真部を名残惜しむ先輩の邪魔はしたくなくて、もう人気のないであろう校舎に飛び出そうとする。そんな私を先輩は大げさに溜息をついて引き留めた。
「はあ……私ってば気付くのいつも遅いのよね。今になって、蔦子ちゃんが姉向きって気付くんだもの。……でも、蔦子ちゃんは手遅れになっちゃ駄目よ」
振り返ると、先輩は妹と孫のことを案じる姉の顔をしてくれていた。ファインダー越しになら同じ表情を幾度となく見たはずなのに、はいと頷いた私の声は涙で掠れていた。