【1275】 召喚宇宙一  (いぬいぬ 2006-03-20 22:25:38)


 ※このSSは、【No:1189】の続きとなっております。できればそちらを先にお読み下さい。 



 暦が2月に変わる頃、島津由乃はいらだっていた。
 1月の生徒会役員選挙を勝ち抜き、晴れて黄薔薇さまになったというのに。
 最近、剣道部でも、やっと基礎トレーニングの成果が出始め、1年生相手ではあるが、かかり稽古にも参加できるようになったというのに。
 島津由乃は、とてもいらだっていた。

 薔薇の館では、生徒からの苦情や陳情を受け付ける『目安箱』を議題に、会議が開かれていた。
 実はこの目安箱、由乃が薔薇さまになったと同時に設置したものである。蓉子達、先々代の薔薇さまの時代。いや、それ以前からの念願である、開かれた山百合会への布石として。
 目安箱設置の結果は上々で、普段は恐れ多くて山百合会に直接意見など言えない生徒でも気軽に匿名で投書できるとあって、たくさんの投書が寄せられている。
 本来なら、目安箱を考案した由乃は自分のアイデアの成果をほこり、上機嫌であってもおかしくはなかったのだが・・・
 島津由乃は、見るからにいらだっていた。
 そんな由乃の横で、瞳子が先程から、目安箱の中から折りたたまれた紙を1枚づつ取り出し、読み上げていた。
「・・・1年、匿名希望。最近、ミルクホールでお弁当を残すと、何やら白い布をかぶった不思議な生き物に『もったいねぇ〜』と言いながら追いかけられるので、何とかして下さい」
 ピクリと由乃の眉がしかめられる。
「2年、匿名希望。下校時刻に月が出ていたので見ていたら、臼と杵を持ったウサギが自由落下してきて、大量のお餅をついた挙句、そのお餅を私に押し付けて消えてしまいました。このお餅の処分に困っています。山百合会で何とか処分していただけないでしょうか」
 ピクピクと、由乃の口元が引きつる。良く見れば、その背後には人が余裕で寝られるほどの巨大なノシ餅が置かれている。
「匿名希望。教師。宿直室の和室に、おかっぱ頭で和服を着た小さな女の子が頻繁に出入りしているようです。話を聞いたところ、紅薔薇さまの知り合いとの事。あまり学校関係者でない人間を校内には入れないようにお願いしますね」
 
 ば ん !!

 由乃は机を叩き、立ち上がった。そして祐巳を指差し叫ぶ。
「全部祐巳さんがらみじゃないのよ!! 」
「いやぁ・・・ あははは」
「笑って誤魔化さない!! 」
 笑うしかない祐巳と、尚も詰め寄ろうとする由乃の間に、瞳子があわてて割って入る。
「落ち着いて下さい、由乃さま。全部という訳でもありませんわ。ほら、これなんか・・・ 匿名希望。トイレの使用許可を・・・下さい? 」
「トイレ? そんなもの別に、好きに使えば良いじゃない」
「・・・・・・奥から3番目の個室希望。ついでに・・・永住許可希望? 」
「花子さんかよ! ・・・って、やっぱり祐巳さんがらみじゃない!! 」
「まあ、いやですわね。ヲホホホホ・・・ 」
「姉妹そろって笑って誤魔化すなぁ!! そんな妖しいヤツの永住許可なんて、不許可よ不許可! 」
「でも由乃さん、花子さんて意外に良い人で・・・ 」
「そんなこと知るかぁぁぁぁぁぁ!!! 」
 祐巳の余計なフォローにブチ切れた由乃は、窓の外へと力いっぱい目安箱を投げ捨てた。そのまま窓枠に手をつき、ぜぇぜぇと息をつく。
「・・・・・・最近じゃあ、バレンタインを目前に、聖ヴァレンチーヌスが校内をうろついて愛を説いてまわるし! 」
 メキメキと窓枠を砕けんばかりに握り締める由乃。その肩は怒りで震えている。
「なんか豆の入ったマスが置いてあると思ったら、物影から貧相な鬼が豆を投げて欲しそうにこっち見てるし!! 」
 由乃は振り向きざま、祐巳に指を突きつけて叫ぶ。
「なんなのよ! この百鬼夜行状態は! ・・・・・・って、あれ? 」
 突きつけた指の先に、さっきまで座っていた祐巳の姿が無い。由乃が会議室を見渡すと、何やら部屋の隅で、祐巳が白薔薇姉妹に囲まれていた。
「祐巳さま。大日如来って知ってますか? 」
「祐巳さん。アラジンの魔法のランプって知ってるわよね? 」
 どうやら祐巳に、自分のお好みの召還をさせる気らしい。
「こらぁ! そこの“黒いのに白薔薇”姉妹! なに、自分の欲望のままに祐巳さんたぶらかしてんのよ!! 」
 由乃のツッコミに、白薔薇姉妹がそろって抗議する。
「失礼な。黒いとは何ですか、黒いとは」
「そうよ。聞き捨てならないわ、由乃さん」
「“私は”黒くなんかありません」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・“私は”? 」
自分だけ身の潔白を宣言した乃梨子を、志摩子が静かに見据える。
「乃梨子、それは私だけが腹黒いって事かしら? 」
「・・・・・・・・・いや・・・その・・・・・・」
 思わず本音が口に出た乃梨子は、志摩子から目をそらす。
「呪うわよ? 」
「呪うって・・・ 志摩子さんホントにシスター志望? 」
「ええ、もちろん。異教徒を制圧して地上に君臨した世界最強の宗教、キリスト教のシスター志望よ」
「いや・・・ そんなこと真顔で言われても・・・ って、その右手に持った黒い十字架は何? 」
「・・・・・・・・・知りたい? 」
「いえ、できれば一生知りたくありません」
「だぁぁぁぁ!! そんな事はどうでも良いわよ! ・・・ 祐巳さん!」
「うぉわ! な、何?由乃さん」
 なにやら呪的な粛清の始まりそうな白薔薇姉妹を押しのけ、由乃は祐巳の肩をがっちりと捕まえる。
 目を白黒させている祐巳を真正面からにらみつけ、そのまま祐巳を問い詰める。
「いくら何でも異常よ! 最近のリリアンの風景は! ついこの間までは、こんな事は無かったじゃない! どういう事よ! 」
「おちつ・・・ い・・・ て・・・ よ・・・ しの・・・ さ・・・んがっふ! 」
 由乃にがっくんがっくん揺さぶられ、しゃべる事もままならない祐巳。そんな祐巳を救ったのは、瞳子だった。
「やめて下さい! 由乃さま! ・・・お姉さまは悪く無いんです。と言うより、お姉さまにもどうにもならないんです」
 そう叫びつつ、祐巳と由乃の間に割って入る。
「・・・どういう事? 」
 ようやく祐巳を揺さぶるのをやめた由乃から祐巳を奪い返しつつ、瞳子は静かに語り出す。
「お姉さまが異世界の住人を召還するのには、一定の条件があります」
「条件? 」
「お姉さまに召還されるのは、お姉さまが良く知っているような、日常会話で思わず口に出してしまう一般的な存在だけに限られるようなのですけれど・・・」
 言われて由乃は思い出す。ミルクホールに出没するもったいないオバケ。この間出会った冬将軍。確かにどちらも祐巳の口からその名が出てきてもおかしくないような、世間的にもスタンダードな存在だ。
「 そんな異世界の存在を、お姉さまがつい会話の中で口にすると、むこうは呼ばれたと思って勝手にこちらに来てしまうのです」
「勝手にって・・・ 何てはた迷惑な」
 さすがに由乃もあぜんとする。
「お姉さまも、好きこのんで異世界の住人を召還している訳ではないのです。ある意味、お姉さまも被害者ですわ。 ・・・という訳で、大日如来なんてマニアックすぎてお姉さまの日常会話には決して出て来ないような存在は、間違っても召還されませんから」
 瞳子はさりげなく乃梨子に釘を刺す。
 かすかに「ちっ」という舌打ちの音が乃梨子の口から聞こえてきた。
「そうなんだ・・・・・・ じゃあ、最近そんな召還士みたいな能力が目覚めちゃったって事なのね? 」
 気の毒そうに祐巳を見る由乃に、祐巳は「違うよ?」と何気なく答える。
「え? 違うって何が? 」
 由乃の疑問に、祐巳は「召還し始めちゃったのは、2年生になった頃からかな? 」と返す。
「ええ?! じゃあ、何で今まではほとんど見かけなかったの? 異世界の住人達」
「えっとね・・・ 去年の春先だったっけな? 満月の夜に、狼男さんをうっかり呼び出しちゃったんだけど・・・ 」
「またずいぶん凶暴そうなのを“うっかり”呼び出したわね・・・ 」
「その時、いっしょにいたお姉さまが 」
「祥子さまが? 」
「その・・・ 驚きのあまり錯乱して・・・ 」
「錯乱して? 」
「ハイキック一発で撃退しちゃったの」
「狼男を?! 」
「うん。 狼男さん、側頭部にキレイに一撃もらって、膝から崩れ落ちてた。腰から回転が始まって、後から蹴り足がついて来る、見事なムエタイ式の上段前まわし蹴りだったよ」
「うわぁ・・・ 」
 衝撃の事実に戦慄する由乃。
「 私のそばにはお姉さまがいる事が多かったから、みんなお姉さまの攻撃を恐れて、ほとんど出てこなくなったの」
「恐るべし・・・ 祥子さま」
 素直に祥子に驚愕する由乃。
「しかし、良く反撃されなかったわね。運の良いこと」
 由乃がしみじみ呟くと、またしても祐巳は「違うの」と言い出す。
「え? 違うって何が? 」
「この間、お正月に寿老人さまに聞いたんだけど・・・」
「そんなのまで呼び出してたんかい・・・ 」
 七福神の一柱の名を聞き、乃梨子の目が輝くが、すかさず瞳子が目で威嚇する。
「なんかね? あっちの人達は、こっちの住人に怪我とかさせたらいけないんだって。因果律がどうとか難しい事言ってたんで、話の中身は半分も解からなかったけど」
 祐巳のそんな一言に、今度は由乃の目が輝く。
「・・・つまり、こっちが攻撃しても、むこうは反撃できないって事? 」
「うん。逃げるしかないって言ってた」
「じゃあ、祥子さまみたいに、追い返す事も可能なのね? 」
「たぶん・・・ 」
 祐巳の消極的な肯定に、由乃は興奮していた。
「善し!! それなら話は早いわ。片っ端から竹刀でメッタ斬りにしてくれるわ! 」
「・・・あんまり酷いことはしないでね? みんな基本的には良い人達だから」
 急に元気になった由乃に、祐巳が苦笑いで注文をつける。
「わかってるわよ。そうだ! 来年度は菜々も入学してくるから、二人で怪異討伐隊を結成しよう! 」
 早くも菜々を巻き込む算段を立てる由乃。まあ、自称アドベンチャー好きの菜々ならば、ほっといても参加してくるだろう。
 ようやくいつもの青信号ぶりが復活した由乃に、祐巳も思わず笑ってツッコミを入れる。
「もう、由乃さんたら気が早いなぁ。“来年の話をしたら鬼が笑う”よ? 」
 祐巳の一言に、由乃が凍りつく。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ」
 祐巳も自分の失言に気付いた。
 その瞬間、室内に湧き出る圧倒的な存在感。
志摩子、乃梨子、瞳子の3人は、そろって由乃の背後を見上げ、そのまま素早く後ずさる。
 背後に生まれた巨大な存在感に、由乃が恐る恐る振り向くと、そこには壁があった。
「・・・・・・え? 」
 壁は、赤、青、黒の3色だった。
 由乃が視線を上にずらすと、壁の上、部屋の天上すれすれに、角の生えた恐ろしい顔が3つあった。
 1本角の赤鬼。2本角の青鬼。3本角の黒鬼であった。全員、おとぎ話に出てくる鬼そのままに、虎皮のパンツをはき、手には由乃の身長よりもデカイ棍棒を持っている。
(・・・・・・・・・・・・・無理!! こんなの無理だってば!! )
 先程までの闘志はどこへやら。あまりにも質量の違う存在に、由乃は冷や汗を垂らしながら、瞬時に心の中でギブアップ宣言をする。
 それはそうだろう。なんせ相手は、腕1本が由乃の全身と同じくらいの大きさなのだ。仮に由乃が竹刀で攻撃したところで、ハエ叩きで象を倒そうとするようなものだ。
 由乃があぜんと鬼を見上げていると、3匹の鬼と目が合った。
(うわ、ヤバイ!? )
 身構える由乃。そして、目が合った直後・・・
「だーっはっはっはっは!! 」
「うっひゃっひゃっひゃっひゃ!! 」
「うははははははは!! 」
 3匹の鬼は、同時に爆笑しだした。由乃を指差して。
「来年て! 来年てぇ!! だっはっはっはっはっは!!」
「気が早すぎるってばよ! うっひゃっひゃっひゃっ!!」
「うははははは!はーっ、はーっ、げふっ! は、腹イテェ・・・ 」
 そろって由乃を指差し、涙まで流しながら爆笑している。黒鬼にいたっては、むせるまで笑っていた。
「はっはっはっはっ! いやお嬢ちゃん、久々に笑かしてもらったよ」
「うひゃひゃひゃひゃ! まさか今どき来年の話するヤツがいるなんて・・・ うっひゃっひゃっひゃげほ!げっほ!うおっほ!! 」
「はは・・・は・・・ 腹イテェ・・・ ちょ、そこのお嬢さん、ごほっ! 水一杯もらえる? わ、笑いすぎて喉痛くて・・・ 」
 どうやら鬼達は、かなりご満悦のようだ。
 黒鬼は祐巳からコップに入った水をもらい、一息に飲み干すと、やたら幸せそうに溜息をついていた。
「・・・・・・・・・・・・・・なんなのよアンタら」
 指をさされて、おもいっきり笑いものにされるという屈辱を受け、先程までの恐怖がウソのように、由乃は怒りにプルプルと震えだした。
「何がそんなにおかしいのよ!! 」
 キレた由乃の一喝に、3匹の鬼がそろって由乃のほうを見る。無表情に。
(・・・・・・あれ? ヤバかったかな? )
 先程までの爆笑ぶりがウソのように、鬼達が無表情になったのを見て、由乃が啖呵を切った事を後悔し始めたとき、青鬼が腰にぶら下げた皮袋から何かを取り出した。
(何? こっちの住人には危害を加えないんじゃなかったの?! )
 青鬼が袋から取り出したモノを由乃の頭上にかざしたため、由乃は恐怖のあまり目をつぶって首をすくめた。
 熊の頭ですら握り潰せそうな青鬼の手が、ゆっくりと由乃の頭上で開かれる。
(やだ! なんなの?! )
 そっと青鬼の手が離れると、由乃の頭にはミカンが一つ乗っていた。
「だっはっはっはっはっはっ!! はっ・・・ げっほ!げっほ! 」
「うひゃひゃひゃひゃ!! 似合う! 似合いすぎる!! 」
「うははははは!! は・・・ ごっほ! か・・・鏡餅かよ! もう正月終わってるっつーの!! 」
なんのことはない、青鬼は新たなネタを由乃に加え、3匹はさらに爆笑したのだった。
今度こそ本気で由乃はキレた。
「帰れ!! 」
 叫びつつ、一番近くにいた黒鬼の足にローキックを放つ。
 が、鬼達は意に介さず笑い続ける。ローキックを放ったにもかかわらず、由乃の頭にちょこんと乗ったミカンがまだ落ちずに居座り続けているのがツボに入ったらしく、「おいおい、まだ乗ってるよ! 」「ありえねー! 」などと、指を差して大喜びだ。逆に由乃は蹴りこんだときに『ごっ! 』と鈍い音のした足を、めちゃめちゃ痛そうにさすっている。
 そして、今度は赤鬼がそっと由乃の頭に手を伸ばす。
 再び硬直する由乃から赤鬼が手を放すと、由乃の三つ編みが鼻の前で結ばれていた。
「だっはっはっはっはっ!! 似合う! やっぱ、ミカンと注連飾りはつき物だよな! 」
「うっひゃっひゃっひゃっひゃっ!! マジで鏡餅だよ! つーかいつまで正月気分だよ! 」
「うはははははははは!! は・・・げっほ、赤! オマエやるじゃねぇか! 」
 ミカン&注連飾りで人間鏡餅と化し、さらに鬼達の笑いを誘う由乃。
 しかし、あまりにもくだらないことで大爆笑する鬼達である。レベル的には、道端に転がる犬のウ○コを指差してはしゃぐ小学生と同レベルと言える。
「だっはっはっはっは。いや〜、笑った笑った」
「久々のヒットだったな」
「あ〜、おかしかった。お嬢ちゃん、アンタ良い芸人になれるよ」
「やかましい!! 」
 せっかく黒鬼が賞賛してくれたのに、由乃はお気に召さなかったようだ。
 今度は赤鬼のボディに右ストレートを叩き込んだ由乃だったが、鋼のような腹筋に阻まれて、逆に手首から“こきっ”とイヤな音がした。思わず右手を押さえてうずくまる由乃。
 その頭には、いまだにミカンが鎮座していた。
 先程、由乃と祐巳のやり取りで、「撃退できるのか? 」と問うた由乃に祐巳が「たぶん」と答えたのは、こういう意味だったのだ。すなわち、攻撃しても逆襲は受けないが、攻撃が効くとも限らない、と。
「ふぅ・・・ 腹筋がイテェぜ」
「殴られたからか? 」
「だっはっはっは!! そんな訳ねえだろ! 」
「どうする? もう帰るか? 」
「せっかくだから、THUTAYAでお笑いのビデオ借りてこうぜ」
「鬼が会員になれるかよ! バカじゃねーの? お前! 」
「なんだよ! やってみなけりゃ解かんねーじゃねーかよ! 」
「無理! 松崎しげるが美白コンテストで優勝するより無理! 」
「うははははははは! そりゃあ無理だ! 」
 そんなやり取りをして、またも豪快にガハハと笑いながら、鬼達は何故か律儀にビスケット扉から窮屈そうに出ていった。
 由乃をいじり倒したあげく笑い倒したせいか、鬼たちは、ヤケに晴れやかな顔で去って行った。なみだ目でうずくまる由乃と、その頭上のミカンを残して。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 祐巳はうずくまる由乃のそばに駆け寄る。
「大丈夫? 由乃さん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あいつらぁ。覚えときなさいよ」
 またも怒りにプルプルと震え出す由乃。
 ・・・ついでに鼻の前で結ばれた三つ編みと、頭上のミカンもプルプル。
 そんな鏡餅な由乃を見て、祐巳も思わず「ぶふっ! 」と吹きだしてしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん! 」
 祐巳にまで笑われ、とうとう泣き出す由乃。
「な・・・ ぷっ! 泣かないで下さい、由乃さま」
「そうですわ。あんな鬼達のした事なんか・・・ ぶふっ! き、気にしてはいけませんわ」
「笑うかなぐさめるかハッキリしろぉぉぉぉ!! 」
 乃梨子と瞳子のなぐさめだか追い討ちだか解からないセリフに、泣きながらキレる由乃。
 そんな由乃に、ひとり真剣な表情の志摩子がよりそう。
「泣いてはダメよ、由乃さん」
「・・・・・・志摩子さん」
 そっと由乃を抱きしめる志摩子に、思わずしがみつく由乃。
「うっく・・・志摩子さぁん」
「大丈夫。大丈夫よ」
 優しく微笑みながら、志摩子は由乃の背中をぽんぽんと叩き、こう励ました。
「とても良く似合っているから」
「オマエらみんな敵だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」
 志摩子にトドメを刺され、絶叫と共に泣きながら立ち上がる由乃。
「くっそ〜! こうなったら菜々を連れてきてホントに討伐部隊結成してやる〜!! 」
 そう叫びながら、中等部の方向へ走り去る由乃だった。


 この時、由乃はまだ知らなかった。
 菜々こそが、祐巳の能力を研究し、さらに開花させる引鉄となる事を。
 菜々こそが、この事態を修復不可能なまでに追い込む元凶となる未来を。









「・・・・・・・・・・・・どうするんですの? お姉さま。由乃さま、行ってしまわれましたわよ?」
「紅白の飾りが無かったのが気に入らなかったのかなぁ・・・ 」
「・・・そんなもの用意すれば、その場で殴りあいになると思いますが。それはともかく、校内に来てしまった異世界の住人達も、結局野放しのままですし」
「・・・・・・こんな時、あの人がいてくれたらなぁ」
「あの人? 」
「ぱっと、ポケットから何か役に立つアイテムをくれるんだろうけどなぁ・・・ 」
「お姉さま、もしかしてそれは・・・ 」
 その頃、青いボディのイカすロボットが、はるか22世紀から時空を超えて祐巳の元に向かいつつあった。



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