がちゃSレイニーシリーズ。前回(【No:1234】)までのあらすじ
公衆の面前でいちゃいちゃしていた祐巳と瞳子は、蔦子さんに注意されてそそくさとその場を立ち去るのだった。(<たぶん嘘は言ってない)
ぎくしゃくしながら立ち去る二人の後姿を最後にカメラに収めて、蔦子は満足そうな笑みを浮かべた。
そう、最後にだ。もちろん、これ以上は大騒ぎになるかなと思われる直前まで写真を撮りまくっていたのは言うまでもない。それはあの二人だけでなく、興味深々に成り行きを見ていた観衆に対しても同様だ。
「なかなか貴重な写真が撮れたわ」
鼻歌交じりに呟く。なにせ紅薔薇のつぼみとその妹(仮)の抱擁シーン。鼻歌の一つも出ようというものだ。
「ご機嫌ね」
「それはもう。真美さんだって同じじゃないの?」
突然背後からかけられた声に、蔦子は驚く様子も見せずに応じてゆっくりと振り返る。
真美さんは苦笑して手を振った。
「私は今回の件からは手を引くから」
「おや? これまたらしくないことを」
「自粛と反省の意味も兼ねて、私は今回の件に関するリリアン瓦版にはタッチしないことにした、という意味よ」
「ああ、まあ、アレだけの騒ぎになっちゃったものね」
「言わないでよ」
号外騒ぎで相当に懲りたらしい。基本は真面目な真美さんのことだから、三奈子さまと違って本当に懲りているのだろう。
「でも、それじゃあ瓦版はどうするの?」
「日出実にでも任せるわ」
「ほほう」
「ほほうって、何よ?」
蔦子は笑った。たぶんそのあたりは予定通りなのだろう。途中経過はともかくとして。そして新聞部としては動かないということは、個人としては自由に動けるということでもあるが、さて。
「……まあ、いいけどね。でも、真美さんはここにいるのよね」
「瓦版に関わらなければ問題無いし」
「でも見たいと」
二人は顔を見合わせて笑った。
「ごきげんよう、蔦子さま。真美さま」
蔦子さん二人で話しているところに声をかけてきたのは笙子ちゃんだった。
このコも物怖じしないというか、真美と蔦子さんの二人が一緒にいるところに平気で声をかけてくる1年生はそうそういない。たぶん自覚は無いんだろうけど。
さらには、時々どこかへ逝ってしまいがちな蔦子さんを引き止める(呼び戻す?)役割を担っているらしくもある。意識してかどうかは知らないけれど、ひょっとするとそれができるのは笙子ちゃんくらいではないだろうか。
さすがは蔦子さんの妹候補No1というべきか。この二人の関係も実はかなり気になっている真美である。
「ああ、もうそんな時間か。じゃあ真美さん、私は部室に寄っていくのでこれで」
「ええ、また後で」
最後にごきげんようの言葉を残して、蔦子さんは笙子ちゃんと一緒に立ち去った。それを見送って、真美は後ろに声をかける。
「さてと。日出実、ちゃんと見てたわね」
「はい。勿論です」
メモを片手にひょっこり背後から現れる日出実の様子は、なんだかちょっとかわいかった。
「蔦子さんには気付かれてたわよ」
「……やっぱりそうなんでしょうか」
「最後の挨拶、あなたにだもの。まあ、蔦子さんが相手じゃしょうがないけど」
「はあ」
「とにかく、私はリリアン瓦版には口出しできないんだから、頑張ってよね」
「はい」
それはそれとして、今のお姉さまと蔦子さまのことも記事にしてみたいなどと思ったりしたことはおくびにも出さず、とりあえず素直に頷いて見せる日出実だった。