放課後の薔薇の館。
一足先にやってきた祐巳と由乃が、たわいもない話に興じている。
「ほえでね…ひのうの授業ははい爆笑だったわへよ」
もぐもぐ。
「ほやーすごひわー」
もぐもぐもぐ。
今のセリフを訳すと、次のようになる。
「それでね…昨日の授業は大爆笑だったわけよ」
「そりゃーすごいわー」
実はこの2人、祐巳が持ち込んだビーフジャーキーを食べながら話をしている。
昨日父親に頼まれて、コンビニで多めに買っておいたものだが、少し余ったのでお茶請けにと持ってきたのだ。
口の中に入った状態で話をしているから、多少日本語におかしな部分が出てくるが、そんなことはおかまいなし。
2人はなおも会話に興じている。
もぐもぐ。
もぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。
そこへ入ってきた祥子と令が、妹たちのあまりの行儀の悪さにキレた。
「由乃!食べるか話すかどっちかにしなさい!」
「え〜、令ちゃんのケチ〜」
ふくれっ面になる由乃。
祐巳もまた祥子に怒られていた。
「まったくあなたという人は…!」
「す、すみません、お姉さま」
このあと祥子はおもむろに携帯を取り出した。
「あ、もしもし、祥子ですけれど。あのね、ビーフジャーキーを10箱、大至急送ってくれないかしら?…ええ、本気よ。妹があまりにもおいしそうに食べているから…そうなのよ、よほど好きなのね…送り先?薔薇の館でいいわよ。いいこと、大至急ね。それじゃあ」
祥子はそういって電話を切った。
「そんなにビーフジャーキーが食べたいなら、どうして私に言わないの…今うちの系列メーカーに10箱発注しておいたから、明日には届くわよ。だから今日は我慢しなさいね…それにしても、おいしそうね、これ」
祥子はビーフジャーキーをひとかけら口に運んだ。
固まる祐巳と由乃。
(ねえ、祥子さまが怒ってないよ…)
(あんまり気にしないで。世の中知らないほうがいいこともあるんだから)
「さすがね…祐巳が夢中になるだけあって、おいしいわ」
「そんならおともにビールはどう?」
いったいどこで仕入れたか、ビールの入った袋を持って聖がやってきた。
「「わっ、すごーい」」
「ちょっと聖さま、やめてください…ほら2人ともダメだよ」
令がいくらとめても、祥子たちは聞こうとしなかった。
そして4人はビーフジャーキーとビールで大宴会を始めてしまった。
(不条理だ、あまりに不条理すぎる…)
令は心中、独りごちた。
次の日。
薔薇の館に運び込まれた大量のダンボールの前に、蓉子が仁王立ちしていた。
その目線の下には、祥子、聖、祐巳、由乃が正座させられている。
「まったくあなたたちという人は…!薔薇の館は居酒屋じゃないのよ!何を考えているの!」
「も、申し訳ありません!祐巳があまりにも美味しそうに食べていたから…」
「だからってこんなに大量に発注することないでしょう!?限度ってものを考えなさい!だいたい祐巳ちゃんも祐巳ちゃんよ、どうして祥子を止めないの!?」
「あうう…」
蓉子がついにキレた。
「聖、あなたも同罪よ…よりによって学校にビールを持ち込むなんて!」
「ご、ごめん蓉子…別に酒盛りしようとしたわけではなくて…」
「なら、なあに?」
聖、撃沈。
「令…あなたももう少し、自分の妹をちゃんと見張ってなさいな」
「申し訳ありません…何度も止めたのですが」
「由乃ちゃん、ワガママにもほどがあるわよ!していいことと悪いことの区別ぐらい付けなさい!」
「も、申し訳ありません、蓉子さま〜」
その日の説教は、夕日が沈んでお星さまがごきげんようと姿を現すまで続いた。
え?あの大量のビーフジャーキーはどうしたのかって?
ええ、蓉子さまのことですから、全部返品させましたとも…。
「祥子もなかなかやるじゃない…ねえ志摩子」
「あら江利子さま、私名古屋近郊の某農家にギンナン大量発注したんですけど。
それもダンボールにして約20箱…」
「し、志摩子、それだけはやめたほうが…」
史上最凶の白い悪魔、ここに降臨(ウソ)
(あとがきという名の言い訳)
ごきげんよう、こちらでは初めましての若杉です。
実は私、ビーフジャーキー大好きなんですよ…。
コンビニで売ってたりすると、つい買いたくなってしまうのです。
そしてミネラルウォーターを飲みつつ、ネットやりながら食べるのが幸せ(オイ
それでは失礼致します。