【1301】 恋に落ちた瞬間から真っ只中  (雪国カノ 2006-03-29 07:44:11)


まえがき。
少し書き直しました。百合なお話です…そして15禁かも(汗)削除対象になるようでしたらスパッとお願いします。その全てを含めて苦手な方は回避してください!それではどうぞ〜


(……どうしてこんなことになっちゃったんだろう?)

「どしたの?祐巳ちゃん」

頭のすぐ上から聞こえる聖の声。
祐巳は今、抱っこされるような形で聖の膝の上に乗っている。

「い、いえ!何でも…な…い…です」

聖と目が合った瞬間、頬が一段と熱くなるのを感じた。どこまでも見透かすようなその瞳に祐巳の心臓が早鐘を打ち出す。

(本当にどうして。確か今日は……)



「ごきげんよう…って誰も来てないのか」

元気よくビスケット扉を開けた祐巳だったがそこには誰一人としておらず少々拍子抜けした。しかし土曜日の午後である。誰もいなくて当然かもしれない。祐巳は授業が終わってすぐに家に帰る気にはなれなかったのだ。

「さ、寒い!とりあえず何か暖かいモノが欲しいよぉ」

2月に入ったばかりの冷たい空気に身震いを一つして紅茶を入れようと流しに向かった。ポットのお湯が沸くまでの間、考えるのは去年のクリスマスのこと。祐巳のロザリオを受け取ってくれなかったあの子のこと。そして…

「瞳子ちゃん……はぁ。会いたいなぁ」
「あれ?会いたいのは瞳子ちゃんだけ?」
「ひぇっ!!」

突然返された答えに祐巳は驚いて変な声を上げながら振り返る。そこに立っていたのは先代白薔薇さまの聖だった。

「聖さま!急に声かけないでくださいよ。びっくりしたじゃないですかッ!」

軽く睨みながら言ったのだが。

「ちゃんとドアから入ってきたんだから音はしたはずなんだけどね。いつもみたいに抱きついたほうが良かった?」

笑ってかわされた。それでも聖に会えた嬉しさからか、怒っていたはずなのに祐巳もいつのまにか笑ってしまっていた。

そうこうしている内にお湯が沸いたので、二人分の紅茶を入れて祐巳たちは向かい合わせに座った。

「で。祐巳ちゃんは周りが見えなくなるほどあの子のこと考えてたんだ……しばらく会えなかった恋人のことより?」
「…っ!!」

恋人――そう。聖は先代白薔薇さまで…そして祐巳の大事な恋人。去年の大晦日に告白され付き合い始めたのだ。しかし、ここ最近はお互いテストのため会えない日が続いていた。

「祐巳ちゃんは瞳子ちゃんのことで頭がいっぱいなんだね。私は祐巳ちゃんのことしか考えてなかったのにね」
「そんなっ!私だって聖さまのこと考えてましたよ!」
「でも会いたかったのは瞳子ちゃんでしょ?」

淡々と話す聖。だが聖が祐巳に会いたいと思ってくれているように、祐巳も聖に会いたかったのだ。

「違います!!」
「何が違うの?」
「確かにあの時、瞳子ちゃんの名前を言いましたけど、どうしてって思ってたんです。会いたいって思ったのは…聖さまです!」
「…本当?」

(まだ信じないんですか!?)

「本当です!私、聖さまに会いたくて会いたくて仕方なかったんですよ!」
「「………」」
「えへへ〜嬉しいなぁ」

顔を赤くして祐巳が答えると聖はでれっとした表情になる。祐巳は盛大にずっこけた。

(何だったのよぉ!!)

さっきまでとは一転、聖は上機嫌に鼻歌まで歌いだした。

(つ、疲れる…)

祐巳が憔悴しきっていると、そんなことお構いなしに話しかけてきた。

「祐巳ちゃん!チョコレートフォンデュって知ってる?」
「…はぁ。アレですよね?果物とかをチョコレートにつけて食べる…」
「そう!それそれ♪ね、やろうよ!」
「……は?」

内心、何を訳のわからんことを…と思っていた祐巳だったが聖の子供のようなキラキラした目を見ると何も言えなくなった。

「…やるって言ったって薔薇の館でどうやってですか?」
「じゃんじゃじゃ〜ん!」

祐巳の最もな疑問に聖は嬉々として紙袋からカセットコンロ、鍋、ボール、包丁、まな板、大量のチョコレートと果物を取り出した。

「………用意いいですね」

斯くして祐巳は聖とチョコレートフォンデュ大作戦を決行することとなった。

◆◆◆

(いきなり何でなのかわかんないけどチョコ好きだし、楽しまなくっちゃ!!)

祐巳は湯煎でチョコを溶かしているのを見ていると何だかワクワクしてきた。実はチョコレートフォンデュは初めてでかなり楽しみなのである。

果物を全部切り、チョコが全部溶けたのを確認した聖が高らかに宣言した。

「よし!食べよう」
「わーい♪」

バナナを一切れフォークに刺してチョコにちゃぽんッ!くるくるくる〜そしてそのまま口に運ぶ!

「ん〜!!」
「おいしい?」
「はいっ!!」

祐巳の反応に満足したのか聖はふわりと笑った。そして自分もチョコバナナを口に運ぶ。

「ホント。おいしいね」

そんな様子を見ていた祐巳だったが、聖の次の行動の意味がわからなかった。

「聖さま?」
「ん?はい、立って」

聖は祐巳の横に立って椅子から立つように促す。

(まだ食べ始めたばっかりなのに何で?)

戸惑う祐巳だったが言われた通りに立つと、聖は祐巳の椅子に座ったのだ。抗議しようとすると、急に抱き寄せられた。

「聖さ…きゃぁッ!」
「怪獣の声じゃないー」

不満そうな聖…祐巳は聖の膝の上に抱っこされてしまったのだった。



「…ちゃん。祐巳ちゃん!」
「は、はい!」
「さっきから何ぼーっとしてるの?」

回想に耽っていて聖に呆れられてしまった。

「だって…聖さま。あの!これは一体!?」
「お姫さま抱っこでしょ?」
「そう…って違います!どうして急に?じゃなくて降ります!重いですから!」
「いーの!祐巳ちゃんは黙って私に抱かれてなさい」

そこだけ聞いたら誤解を招くような言葉に祐巳は顔を赤くする。

そんな祐巳を見て聖はクスクス笑いながら片腕で祐巳を支え祐巳自身にも胸の前で皿を持たせた。もう片方の手でイチゴをフォークに刺してチョコにつける。チョコが滴れないようにしながら祐巳の前へ持ってきて。

「はい、あーん」
「えっ!?」
「ほら!早く口開けて。チョコが滴れちゃう!」
「は、はいっ」

慌てて口を開ける祐巳に聖は「あーん」と言いながらイチゴを食べさせ「おいしい?」とさっきと同じ質問を口にした。

「……は、い」

さらに顔を赤くして祐巳が小さく答えたのを見ると聖はにっこり笑った。

「じゃあ次は祐巳ちゃんの番ね」
「…へ?」
「あーん」

祐巳にフォークを持たせて目を閉じて口を開く聖。

「祐巳ちゃん」
「あ、はい」

催促されて祐巳はイチゴをチョコレートにつける。聖の前まで持ってきて…躊躇ってしまった。

「祐巳ちゃん?」

もう一度名前を呼ばれ、もうこれ以上ないってくらいに顔を真っ赤にさせながら、おずおずと口元に持っていく。

「あ、あーん」
「………」
「おいしい、ですか?」
「…うん。とっても」

聖の優しい笑顔に嬉しくなって祐巳も微笑んだ。

「あっ!!滴れちゃってるや、チョコ」

見ると自分の指にチョコが滴れている。祐巳が躊躇っている間にフォークを伝ってきたのだろう。そんなことを祐巳が考えていると、聖は徐に祐巳の指を口にくわえた。

「ひゃぁっ!!」

いきなりの刺激に思わず声を上げてしまった祐巳は体が熱くなるのを感じた。

「せ、い…んっ!んん」

指を離したと思ったら今度は深く口付けられた。逃げようと試みるが体からどんどん力が抜けていき、やがて抵抗できなくなる。

「んんんっ…ふ、はぁっ」

長い口付けから解放されて息の上がっている祐巳を聖は抱き締めて言った。

「…もうすぐバレンタインデーでしょ?少し早いけど…祐巳ちゃんの手でチョコ食べさせてもらいたかったんだ」
「チョコなんて、私がいつでも食べさせてあげますよ?」

祐巳は聖の頬をそっと撫でた。

「うん…そうだね。わかってるのに、祐巳ちゃんが私に気づかないくらい瞳子ちゃんのこと考えてるの見てさ…嫉妬しちゃったんだ。さっきはきついこと言ってごめんね」
「…聖さま」

聖も頬を赤らめてはいたが、しかし瞳は真剣に、揺れることのない色に染められていた。

「好きだよ。祐巳ちゃん」
「私も聖さまのこと、好きです…」

二人は見つめ合い、もう一度チョコレートのような甘く深い口付けを交わした。


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