【1331】 猪突猛進want you!明日はどっちだ?  (雪国カノ 2006-04-11 14:35:23)


まえがき。
ごめんなさい!!笑顔の力もっと素直になれば?きっと幸せ【No:1312】の瞳子sideなんですが…思いっきり壊れました。翠さんごめんなさぃ〜前作のイメージを壊したくない方は是非スルーを!!構わないという方だけどうぞ…

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RRR―TRRR―TR、ガチャッ
「はい、松平でございます」

金曜の夜9時過ぎ。突然鳴った電話に、一番近くにいた瞳子が出た。

「………」

しかし、なぜか無言。

(一体何なのですの?)

「…あの?どちら様でしょうか?」

少し警戒したような声音で誰かと問う。

「も、もしもし。瞳子ちゃん?私、祐…」
「ゆ、祐巳さま!?」

瞳子は相手が名乗るよりも早く彼の人の名前を叫んでいた。

祐巳さま。祥子お姉さまの妹で紅薔薇のつぼみ(今はまだ春休みだからそう呼んでいるのであって、事実上は紅薔薇さま)で――そして瞳子のお姉さま。名前を聞かなくとも声を聞けばすぐにわかってしまう。

(だって大好きだから…)

「う、うん。あ…今更だけど、ごきげんよう」
「ごきげんよう…あの、どうかなさったんですか?」

祐巳さまからの電話なんて…考えてもいなかった。本当に、全く。

「えっと…あのね!明後日の日曜日、空いてる?」

鼓動が早くなっていくのが自分でもわかった。だが、平然を装いながら話す。

「日曜日?ええ。私は空いてますけど…?」
「じゃあ、お花見しよ!」

瞳子が返事すると祐巳さまはかなり勢い込んで言った。

(緊張…していたのかしら?ちょっと可愛いですわね)

「お花見ですか?それはこの間、山百合会の皆さんとご一緒にしたではありませんか…もうお忘れになったんですか?」

しかし、心とは裏腹にかなり冷めた口調で言ってしまう。

「うっ…そーなんだけど。でも…したいんだもん、お花見」
「……」

(もんって…もんって!か、可愛すぎですっ祐巳さま!!)

祐巳さまのあまりの可愛らしさに言葉を失ってしまった。

「瞳子ちゃん…ね、ダメ?」

その声に上目遣いで『ダメ?』と首を傾げる祐巳さまを想像してしまった…

(は、鼻血が出そうですわ)

「別にダメなことは…ですが一度してしまっていますし…あまり楽しくないのではありませんか?」

内心の動揺を悟られたくなかった為に、またもきつい言い方になってしまった。瞳子は素直になれない自分が恨めしい。

「そんなことないよ!瞳子ちゃんと一緒なら絶対楽しいはずだよ!!」
「……」

瞳子、フリーズ。

「ど、どうしたの?」
「いえ。祐巳さまは気になさらないで下さい」

怪訝に思ったのか祐巳さまが声をかけてくる。その声で瞳子は正気に戻った。

「でも…」

まだ祐巳さまは食い下がってくる。瞳子は断ち切るかのように少し語気を強めて言った。

「とにかく!祐巳さまがそこまで仰るのなら…仕方がありませんね。お付き合い致しますわ」
「えっ!本当に!?」

(予想通りさっきのことは忘れてくれましたわね。でも本当におめでたい方)

本当はそんなこと少しも思っていないのに、思わず毒づいてしまう。またつっけんどんな物言いになってしまった…

「と、瞳子で宜しければ」
「嬉しい!私は瞳子ちゃんがいいんだよ」
「………っ」

瞳子、再びフリーズ。

(……そ、それって)

瞳子の脳内を妄想が駆け抜けていく。

(デートの後で…シャワーを浴びた湯上がりピチピチな祐巳さまが『瞳子ちゃん。私、初めてはあなたがいいの。優しくして…ね?』…ということですのねっ!?)

「あの…瞳子、ちゃん?」

(はっ!!まだ電話中でしたわ)

流石に変だと思ったのか探るような祐巳の声に瞳子は慌てて元の世界に帰ってきた。

「…何でもありませんわ」

抑揚を押さえたような声で答えた。そう、何事もなかったかのように。

しかし、瞳子の頭の中ではあーんなことやこーんなこと、そして祐巳さまのあられもないお姿が壊れたレコードよろしく永遠にエンドレス!!!

何かを感じ取ったのか祐巳さまは話を変えてきた。どうやら時間のことらしいが瞳子は強い口調で遮った。

「祐巳さま!」
「は、はい」

突然のことに祐巳さまはかなり驚いたようだ。

(正座でもしていそうですわね)

「11時…時間は11時で宜しいですわね?」
「え?あ、うん」
「場所は―「待って!」」

続けて場所も指定しようとすると今度は祐巳さまに遮られた。

「場所はS駅。改札前で待ち合わせね」
「…わかりました」

早口で捲し立てる祐巳さま。何かS駅に拘りがあるようだ。

(まぁ!S駅にはそんなに良いお宿があるのでしょうか?)

「それではまた明後日に。ごきげんよう」
「うん、ごきげんよう」

瞳子は挨拶もそこそこに電話を切った。もう少し話をしたかったが頭の中の妄想が言葉になる前に電話は切っておかねばならなかったのだ。

「うふふふ…二人でデート。そして……まさに青春!ブルー・スプリングですわっ!祥子お姉さま。祐巳さまの純潔は私が頂きますっ」


後日聞いた話なのだが『瞳子…青春はユース(youth)だよ。それと鼻血は拭いたほうがいいんじゃないかな』と、お父さまが瞳子の部屋の前で呟いていたそうだ。


***


運命の日曜日。瞳子はS駅の改札前に向かっていた。

(少し張り切りすぎでしょうか?)

ただ今10時半。約束の時間までまだ30分もあるのだが、瞳子は居ても立ってもいられずに家を飛び出してきたのだ。

まだ祐巳さまは来ていないだろうと思っていたが、予想外なことに改札前に立っていた。

「祐巳さま」

呼びかけると瞳子が現われたことに驚いた様子。

「瞳子ちゃん!どうして…まだこんな時間なのに?」「祐巳さまこそ…」

(『まだこんな時間なのに』いるではありませんか)

「え?」
「いえ、ただ単に早く目が覚めただけです。そんなことより行きましょう」

小さな呟きは聞こえなかったようだが、瞳子はこれ幸いと素っ気なく言った。









祐巳さまに見られていることには気付いていた。

(ゆ、祐巳さま!そんなに見られたら瞳子っ……でも『ちょっとだけよw』ですわっ)

そんなことを考えているなんておくびにも出さずに幾つか言葉を交わして、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。

「…祐巳さま」
「なぁに?」
「どうしてまたお花見を?それとどちらへ行かれるおつもりですか?」

祐巳さまは笑顔で答えた。

「確かにお花見は山百合会の皆でやったよね…でもね。私は瞳子ちゃんと二人っきりでお花見がしたかったんだ。あ、でも行き先はまだ内緒だけどね」

最後の言葉とともに舌を出して笑う祐巳さま。瞳子は頬が赤く染まるのを意識しながらプイッと横を向いた。どうしてもっと素直になれないのか…

そうして暫く歩くと目的地に辿り着いた。時計を見ると10時50分過ぎ。どうやらS駅から20分近くかかったようだ。

「神社…ですか?」

瞳子は色のくすんだ赤い鳥居に目を留めて聞いた。

「うん。こっちだよ」

祐巳さまに連れられて神社の裏手へと回る。

「―――っ」

目の前に広がった光景、それは――桜、桜、桜。

小さな池があった。桜たちはまるで子供を優しく胸に抱き込んでいるかのように、ぐるっとその池の周りに静かに穏やかに佇んでいる。


「すごい…」
「綺麗でしょ?」

瞳子は、視界いっぱいに広がる満開の桜たちに、はらはらと舞い散る無数の花びらに見惚れていた。まるで桜に心までも奪われたように。

「ここね。中等部のときに偶然見つけたんだ」
「そ…なんですか」

ふわふわとした夢見心地からはっと祐巳さまを振り返って言ったが、言葉は弱々しい。

「私の大好きなこの場所を瞳子ちゃんに見せたかったの。お姉さまでも他の誰でもない、瞳子ちゃんだけに」
「ゆ、み…さま」
「あなたに出会えて良かった」

真っ直ぐに瞳子の目を見据えて祐巳さまは言った。

「わ、私こそっ…祐巳さまに出会えてよかっ…」

瞳子の目にはどうしようもないくらい涙が溢れている。

「ぃつも…いつもっ…素直に…な…れ…くて…ごめ…なさっ…」
「瞳子ちゃん…」

途切れ途切れになりながら本当の気持ちを告げると、祐巳さまは瞳子の頬に流れた涙を掬いながら微笑んで言った。

「ね、笑って?私、瞳子ちゃんの笑った顔が好きなの」
「ゆ…」

名前を呼ぼうとした瞳子を遮って祐巳さまは笑顔のまま言葉を継いだ。

「だから笑って?瞳子」

瞳子――初めて祐巳さまにそう呼ばれた。瞳子――祐巳さま以外誰もこうは呼べない。祐巳さましか。

「はい……お姉さま」

だから瞳子も祐巳さまに応えるように言った。

お姉さま――なんて甘い響きなのだろうか。もっと早くこう呼べば良かった。お姉さま――瞳子以外誰もこうは呼べない。瞳子しか。

風が一陣吹いて、花びらが高く高く舞い上がっていく。その身を踊らせるようにどこまでも…




(今日はこの時間を大切にします……ですが、いつか必ず。レッツ!メイク・ラブなのですわ〜ビバ!ブルー・スプリングっ!!)

瞳子の理性とともに…

Fin

修正しました(06/11/09)


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