初めまして。投稿は初めてです。
知り合いの紹介で、ランダムでタイトル決めて、SS書くってシステムが面白そうだったので本当に拙いながらも投稿します。
SS書くのは初めてなんですけど、何かしら感想頂けるとありがたいです。
あと、祐麒いじめって不健全なのしか浮かばなかったのでこれで勘弁を・・・
とりあず、夢オチですので前半は場面転換とか設定とか無茶苦茶です;
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「おい祐麒」
ごつい声に呼ばれて振り返ると、そこには花寺の踊る肉塊こと高田鉄が、なにやら穏やかでない笑みを浮かべて立っていた。
「なんだよ・・・つーかさりげなく胸の筋肉震わすの、脳の毒だからやめてくれ」
「おいおい、そんなこと言ってていいのかなあ?この高田鉄さまに向かって」
胸筋を更に高速で振るわせる肉塊。その内、ブーンとか音でも出るんじゃないのか。
「残念ながら、お前にさま付けするような恩なんて被せられた覚えは無い。さっさと仕事に戻れよ」
俺は忙しいんだ、と軽くあしらう。いつものことだ。だが、鉄は自信に満ちた顔で筋肉バイブレーションを続ける。
「ほう。用も聞かずに門前払いか。だが、もし俺がコレをお前にやる、と言ったら・・・」
そこまで言って鉄はその黒光りするボンレスハム(祐巳曰く)の如き腕の先にはめていたあるモノを外して
「どうかな?」
一際声のトーンを落として、言った。
チャラリと鉄の手からぶら下がっているのは紛れも無く腕時計。それも唯の腕時計ではない。
泣く子も黙るオメガ・シーマスターの新作である。その白く銀色に輝く姿は男気溢れるシンプルさと、形容のし難い艶やかな美しさを兼ね備えている。
オメガのラインナップの中では最上級クラスではないものの、一介の高校生が所持できるような代物では当然、無い。
「俺は知っている。お前が物心付いた時からオメガに並々ならぬ憧れを抱いているということを。そう、あれは父親の設計事務所に仕事の依頼で訪れた若き実業家の腕に輝いていたオメガを見たときだった。決して派手ではない、判る者だけに真の価値の判るその時計に、なぜ小学校に上がったばかりの少年の心が囚われたのか。いや、それは愚問である。言ってみれば、あれは運命の出会いであったのだ。歴史の中に定めれられた宿命。福沢祐麒はオメガと出会うべくして出会い、憧れるべくして憧れるようになったのだ」
勝手に重いナレーションを入れるなこの野郎。なんでそこまで知ってるんだよ。ああ、それにしても、いい。オメガ・シーマスター・・・。なんて美しくそして雄雄しいんだ・・・!
「そ・・・それを・・・」
あしらいかけた相手に今度はふらふらと無意識に近づいていく俺。目はもはやオメガに釘付けである。それも何本もの太い釘でがっちりと。
欲望の奴隷と化した俺は輝くその至高の芸術品に手を伸ばした。
しかし、その手は敢え無く空を掻く。
「おっと。予想以上の食いつきに不覚にもドン引きしてしまったが、ただでやるとは言ってないぜ」
オメガを上に持ち上げ、非常に憎たらしい顔で祐麒を見下ろす鉄。普段ならば一発腎臓に肘鉄をお見舞いしてやるところだが、今の俺にとってそんなのは些細なことでしかない。
高く掲げられたオメガは、天空から無力で愚かな人間達を見下ろす崇高ななんたら・・・とかそんな感じで、神々しささえ感じられた。そんな姿に、俺はますます悦る。
「物々交換だ。俺の要求を呑めば、これをお前にくれてやる」
「そ・・・その要求とは・・・?」
日ごろ頑張って生徒会長の威厳を作っている俺であるが、それさえも今は捨て置く。とにかく、あのオメガ様を畏れ多くも自らの手中に収めることができる千載一遇のチャンス。ここはどんな犠牲も、顧みまい。
そんな俺の決心であったが、次の肉塊の言葉に早くも崩れ去ることになる。
「祐巳ちゃんとの一日デートだ」
「・・・わかっ・・・ってなんだと!?」
惰性で一瞬頷きかけたが、頭の片隅になんとか残っていた理性がその言葉を理解すると、パブロフの犬ならぬオメガの犬と化していた俺の意識は一瞬にして呪縛から解き放たれる。
祐巳との一日デート・・・だと?
「どうだ。祐巳ちゃんと俺の間の恋のキューピット役をするだけで、このシーマスターはお前のものだ。悪い話じゃ」
「悪い!」
俯いて怒りに堪えていた俺であったが、ついに堪忍袋の緒が切れた。そして、あらん限りの声をもって鉄の言葉を遮った
「祐巳とお前の仲など、死んでも取り持ってやるものか!いや、お前に限らず、祐巳に良からぬ思惑を抱く不貞の輩はこの俺が、弟の名の下斬り捨ててくれる!」
「ちょ、ちょっと待てよ。ただ、俺は一日だけ一緒に過ごせるだけでいいんだよ。なにも本格的に付き合おうとは・・・」
怯む肉塊。先ほどまでの勢いは一気に死んだようだ。この期に及んで命乞いなど、武士が聞いて呆れるわ!
「見苦しいぞ高田鉄!この俺にかような話を持ちかけたのが運の尽きだったな!あの世でたっぷりと後悔するがいい!」
腰の物を引き抜くと、その白刃を一気に振り下ろした。
「ぎえー!」
断末魔とともに身を翻した肉弾は、右手を、そしてオメガを天にかざしながら、ズシャッと崩れ落ちた。
「またつまらぬものを斬ってしまった・・・」
刀の血を拭った半紙を、肉塊の亡き骸の上に放る。
とその時、背後の気配に気付いた。
「!!」
「祐麒・・・」
そこに居たのは紛れも無く、我が姉・祐巳であった。
「祐巳・・・。なぜここに?」
「祐麒の・・・怒鳴り声が聴こえたから、慌てて飛んできたんだけど・・・」
祐巳の頬は何故か赤かった。
ん?待てよ、怒鳴り声が聴こえてからってことは、その後の俺の台詞も・・・。
「祐麒」
再度呼びかけられて、悶々としていた俺はハッ、と我に帰る。
「な、なに?」
「・・・・ありがとね・・・」
そういうと、祐巳はサッと背を向けてしまった。夕日に染まる祐巳の後姿が何故かとてもいとおしく感じられた。そして、それ以上に切なかった。
「さ、帰ろう」
背を向けたまま、祐巳の明るい声が聞こえてきた。言わずもがな、俺はそれに応じる。
「あ・・・ああ、帰ろう」
その後、暫く二人は並んで無言で歩いた。二人の間の距離は、大きくはなかったけれど、近過ぎもしなかった。これが、姉弟の距離なのか。
そう思うと、ますます切なくなってしまい、つい目頭が・・・
「祐麒」
ふいに、名を呼ばれる。今度の声は、何かを決意した、微かだけれどそんな色が感じ取れた。だてに16年以上彼女の弟をやっていない。姉弟だからこそ解る感覚なんだろうと、それだけは素直に嬉しかった。
「今度、デートしようか」
祐巳が唐突なのは慣れっこだが、さっき思いの丈を聞かれてしまった気まずさが余計に、心をかき乱す。
「デデデデデデート!?」
(ほら、突発的な道路工事も、祐巳と一緒)
こんな時でさえ、どこかで冷静に満足している俺は本当に姉バカだ。
慌てふためく俺とは対照的に、祐巳は優しさを湛えた穏やかな顔をしていた。沈みかけた夕日に染まるその顔。こんな祐巳の顔は、16年間一緒に生きてきて、初めて見た。
こんな顔が出来るようになったのか。
ふと、祐巳がいつの間にかずっと先を歩いているような気がして、不安になるような、焦るような、複雑な感情に襲われた。
「冗談だって」
ふふふ、と満足げに微笑む祐巳の顔には、いつもの無邪気さが戻っていた。
俺の知ってる祐巳、俺の知らない祐巳。どちらも俺の大切な祐巳。だから、今のところはそれでいいだろう、と自分を説いた。
「なんだよ。言って良い冗談と、悪い冗談があるだろ」
照れ隠しにもなっていない言葉で受け答えする。思わず蹴飛ばした道端の小石は、数メートル転がって止まり、やがて歩いてきた祐巳と俺に追いつかれる。
そして、今度は蹴らない。
焦りとか不安とか、そういうのは考えるだけ馬鹿馬鹿しいことなんだと、今気付いた。これからも一緒に歩いていくであろうこの道で、俺はそういった雑念とさよならした。もう遥か後ろに遠くなった、さっきの小石のように。
俺は俺、祐巳は祐巳。大人になって、お互いの道を進み始めても、それらとは別の次元で、ずっと一緒の道は存在し続けるんだろう。姉弟なのだから。
「今度の日曜、俺暇なんだよな・・・」
あたかも一人ごちる様に、祐巳に向かって言う。
そして祐巳は
「私もだよ」
そう言って、いつの間にか辿り着いていた我が家の門を先にくぐっていった・・・。
『ズギャーン』
つんざく様な轟音に、祐麒はベットから飛び跳ねるように目覚めた。
ただでさえ寝覚めの頭なのに、どこからか鳴り響く爆音は脳を激しく揺さぶり、頭痛さえ覚えるようだった。
「うるせぇ!!」
音の原因はすぐにわかった。隣の部屋、祐巳の自室からである。
ふらつく足でなんとか祐巳の部屋のドアまでたどり着き、未だに鳴り響いている轟音に負けなくらい思いっきりドアをノックする、というか殴る。
「おい!祐巳!この音どうにかしろよバカ!」
反応なし。仮にむこうから応答があっても、この音の嵐の中では聞こえまい。雷鳴のようなエレキサウンドとドラムの底から突き上げるような重低音がドアの向こうから容赦なく襲ってくる。
思い切ってドアを乱暴に開けると同時に、ピタッと音は止んだ。まだ頭がガンガンしている。
「なによあんた!ノックぐらいしなさいって何度言ったら」
「したよ!大体あんな音量でステレオ鳴らしてたら聴こえるはずないだろ!」
祐巳はヘッドホンを首にかけてあからさまに不満そうな顔でこちらを睨みつけている。
しかし、そのヘッドホンから伸びる黒い線は本来ならばコンポに繋がっているはずであるが、プラグは差し込まれていない。よってあの音量で聴いていた最中にプラグが抜け落ちたことがこの騒動の原因であると容易に察することが出来た。
「ったく、折角いい気持ちで昼寝してたのに台無しだよ」
しかも一生に一度見れるかどうかの痛々しいくらい(後半が)幸せな夢だったのに・・・
「いい若者が日曜に昼寝なんて、爽やかじゃないよ」
「話を逸らすなよ。おまえ、よくあの音量で音楽聴けるな。耳に最凶に悪いぞ。あと頭にも。これ以上ボケたらどうすんだよ」
「大きなお世話!あんたジャックのギターとメグのドラムを馬鹿にするつもり!?」
最近、祐巳は聞いたこともない米国のロックバンドにはまっていた。
「わけがわからん。とりあえず、周りの迷惑にならないようにしてくれよ」
「早く出て行って」
そろそろ枕とかが飛んできそうだったので退散することにした。
やれやれと肩をすくめるジェスチャーをわざとらしくしたのが、聞き分けの悪い姉へのせめてもの反抗である。
にしても、夢と現実のこの落差はなんなのか。嘆いても仕方のないことだが、夢の内容が内容なだけに少々凹む。
鉄のキャラが無茶苦茶だし、大卒サラリーマンの平均初任給が一発で飛ぶ値段の腕時計をあのきんに君が持っていたり、いつの間にか戦国の世になっていたり、かと思うと俺が流浪の剣士になっていたり、途中でオメガが忘れ去られたり、人が死んだのに祐巳がそこにノータッチで話が進んだり、あっという間に家に着いたり。
あの理不尽さは、あれが所詮は夢だったことの証明だ。少し残念に思った。
夢の中の俺が悟ったこと。あれは、現実においても自分の気持ちを少なからず整理する材料にはなるはずだ。
「とんでもないおめでたさだな、俺」
そう呟いてから、再びベットに潜り込んだ。明日からまた忙しい1週間が始まるのだ。休養はとれるうちにとっておくのが身のため。
眠りに落ちる直前、さっきの夢の続きが見れることをかすかに期待した祐麒であったが、約30分後、再び隣の部屋からの爆音に眠りを遮られることになろうとは、知る由もなかった。
そして、その時彼が普通にマジギレしていたのは、夢の中で誰かとデートの真っ最中だったからなのかどうかは、定かではない。
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やばい。オチって難しいっすね。だらだらとお目汚し失礼いたしました(´д`;)