このごろ乃梨子の様子が変。
表情も暗いし、私と目を合わせようとしない。
どこか私を避けているようにも思える。
どうしたらいいのかしら・・・。
私、変だ。
どう考えても変だ。
それもこれもあの映画のせい。
キスシーンを見て、なんとなく志摩子さんの唇を連想してしまった。
翌日からもう、志摩子さんに会うたびについつい唇に目がいってしまって。
きれいな唇、やわらかそうだな。触れたい。キス・・・したい・・・かも。
ああもう目が合わせられない。
私、いやらしいのかな。
祐巳さんと由乃さんに相談してみた。
「そりゃあもう、直接聞くしかないでしょ」
「うん、乃梨子ちゃんの話を聞いてみるべきだと思うよ」
「今日放課後、会議なしにしてもらおうよ。令ちゃんに頼んでみるから。祐巳さんも祥子さまに事情を話して」
「そうだよ、薔薇の館で2人で話せば?」
「ごきげんよう・・・あれ?」
「ごきげんよう、乃梨子」
「あの、みなさんは?」
「みなさんご用事があるようなの。今日は2人だけよ。お座りなさいな」
「そ、そうなんだ・・・」
椅子に腰をおろすと、やっぱり目を伏せてしまう乃梨子。
その前にいつものカップで紅茶を置く。
「あ、私気が付かなくて」
「いいのよ。どうぞ」
「あ、ありがとう」
「乃梨子?」
「え?あ、はい」
「話して?私、何かあなたの気に障るような事をした?」
ただ首を横に振る乃梨子。
「じゃあどうしたの?話してくれなきゃ私、わからないわ」
「乃梨子?」
「私、いやらしいのかな」
「え?」
「映画でね。キスシーンを見たんだ」
「ええ。それで?」
「なぜだか分からないんだけど、志摩子さんの唇を連想してしまって。
それから私、志摩子さんと会うたびに唇に目がいっちゃうの。
柔らかそうだし、きれいだし。触れたいな、とか、その、キ、キスしたいな、なんて思っちゃって。
そうしたらもう、私、どうしていいのか分からなくて。
だから志摩子さんは悪くないの!ただ私が、その、いやらしいから、だから!」
・・・ちゅっ。
「ひ、ひまこひゃん?」
「これであなたは救われる?」
「・・・(絶句)」
「どうして早く話してくれなかったの?相談してくれなかったの?
私はあなたの姉なのよ。あなたの気持ちならいくらでも受け止めるわ。
それに大好きな人に触れたいと思うのは自然な気持ちではないの?あなたは全然いやらしくなんてない。
私だって、その、ときどき乃梨子に触れたいと思うし」
「ご、ごめんなさい。私・・・」
言葉が続かなくなってしまった私を、志摩子さんはやさしく抱きしめてくれた。
この人と姉妹になれてよかった。
心の底からそう思った。
「反省した?」
「はい」
「まだ反省が足りないわ」
「え?」
「罰として、乃梨子からキスして」
「はいいいい?」
あわてて体を離すと、ちょっと頬を染めた志摩子さんの顔。
「乃梨子?」
「ううううう」
「乃梨子」
「あああああ」
「乃梨子」
「わかりました!罰を受けます。キスさせていただきます!」
・・・本当に柔らかかったです。志摩子さんの唇。はい。
頭に血が昇って調子に乗った私は、志摩子さんの額やほっぺ、首筋にまでキスの雨を降らせてしまい、志摩子さんからこつんとゲンコツをもらってしまいました。
耳まで真っ赤にしてちょっとふくれた志摩子さんは。
そりゃあもう、殺人的にかわいかったのでした。
後日白薔薇姉妹のあまりのラブラブぶりにあてられた祥子さま。
「私も祐巳といちゃいちゃしたい!」とは当然言い出せず、悶々としていたのはまた別の話。