★祐巳の代が3年生のお話です。祐巳の妹が瞳子です。瞳子には妹
がいますが、乃梨子には妹がいない設定となっております。
それをご了承のうえでご覧ください。
季節は冬。私の身体に冷たい風が容赦なく吹き付ける。
山百合会での仕事も終わったし、さっさと家に帰ろうと
駆け出そうとした時、後ろから声をかけられた。
「乃梨子さん。今日は瞳子と一緒に帰りませんこと?」
「そうだね。」
「もう3年生もあんまり薔薇の館に来なくなりましたわね。」
「うん・・・・。」
「乃梨子さん?」
私の反応が良くないと思ったのか瞳子は顔を覗き込んできた。
身体はいったって健康なんだけど。
「どこか具合が悪いんですの?」
「いや、そうゆう訳じゃないよ。」
「わかった。白薔薇さまのことでしょ。」
図星だ。受験で忙しいなんてことはわかってる。私だって子供じゃないし、
最近会える日が減ってるけどそれは「当たり前」だと納得してるはず。
それなのに、胸の中から不安が消えることはない。そんな私に構わずに
瞳子はゆっくりと歩き出した。慌てて瞳子を追いかける。
「お姉さまのために我慢してるのはスゴいと思いますわ。
でも・・・・。」
「でも?」
「たまにはご自分の気持ちに素直になってもいいじゃありません?」
「瞳子・・・・・。」
そう言って瞳子はニッコリと微笑んだ。そうだ。何を悩んでいたんだろう。
明日の休み時間にお姉さまの教室へ行ってみよう。
ーーーー次の日ーーーー
休み時間にお姉さまの教室へとやってきた。ちょうどお姉さまの
クラスメイトが教室から出てきたので声をかける。
「すいません。」
「ごきげんよう。白薔薇のつぼみ。」
「ごきげんよう。」
聞くとお姉さまは教室にいるとのこと。私は思い切って扉を開ける。
お姉さまは自分の席で窓の外を眺めている。ドキドキしているのが
顔に出ないようにゆっくりと教室内を進む。
「お姉さまっ。」
「乃梨子・・・。教室まで来るなんて珍しいわね。」
「もしよかったらですけど、今日一緒に帰りませんか?」
「今日?そうね。最近一緒に帰ってなかったわね。」
「じゃ、放課後に待ってます。」
「それじゃ、放課後にね。」
放課後が来るのがこれほど待ち遠しかったことはない。帰りのHRが終わると
一番で教室から飛び出した。少しでも早くお姉さまに会いたいから。下校してゆく
生徒をしばらく眺めているとお姉さまがいらっしゃった。
「ごめんね。帰りのHRが長引いてしまったの。」
「いえ、構いません。今日は私のワガママで誘ったのですし。」
「乃梨子。ちょっと歩きましょうか。」
「はいっ。」
お姉さまと並んで歩く。久しぶりに2人きりになったというのに
なかなか言葉が出てこない。それでもその空気は気まずいものじゃない。
こうしてお姉さまと一緒にいられるだけで私は幸せだった。お姉さまの
足を止める。私とお姉さまが出会った桜の木の下だった。お姉さまが
振り返り話し始めた。
「乃梨子。最近あなたと一緒にいる時間が減ったのは
私もわかってたの。今日誘ってもらえたのは
嬉しかったわ。」
「お姉さま・・・・。」
「貴女と一緒に居られるのもあと少し。冬が終われば
私はリリアンを去る。でもね、終わりは決して
悲しいことばかりではないわ。」
「お姉さまがいなくなったら私・・・!」
「春になれば、この桜もまた美しい花を咲かせる。
そして、貴女にも出会いがあるはずよ。乃梨子。」
お姉さまはゆっくりと私を抱きしめてくれた。大好きなお姉さま。
ここで一緒に過ごせる残り少ない時間を後悔しないように、一生懸命
過ごそう。お姉さまの温もりを感じながら、私はそう思った。
(終わり)