『クゥ〜』です。書きます!!王道シリーズ←かってに命名
「まずいですわ!!」
それが薔薇の館に響いた第一声だった。
瞳子は薔薇の館に入るなりそう叫んだ。
「あ〜、そろそろ来る頃だと思った」
黄薔薇さまこと島津由乃は、手にしたティーカップを見ながら怒っている瞳子に視線を移す。
「まぁ、落ち着いてね。瞳子ちゃん」
白薔薇さまこと藤堂志摩子は微笑みながら瞳子を見る。
「これが落ち着いていられますか!!」
瞳子の態度は明らかに上級生、しかも、薔薇さま二人に対して取って良い態度ではない。それだけ瞳子が周りが見えないほど怒っているのだ。だが、由乃さまも志摩子さまも慣れたもので気にしている様子はない。
「はぁはぁ、それで、お姉さまはどちらに?」
「逃がした」
「はい?」
「だから、逃がしたの」
「誰から?」
「勿論、瞳子ちゃんから」
「なんでですかぁぁぁぁぁ!!!!!!」
瞳子は怒りのあまり手に持っていた雑誌をテーブルに叩きつけた。
「あっ?」
テーブルには由乃さまと志摩子さまの前に瞳子が持っていた雑誌と同じ本が同じページを開いた状態で置かれていた。
「もしかしてお二人とも、その雑誌を?」
「そうよ」
瞳子は開かれたページに視線を向ける。
そこには白いワンピース姿で見開きいっぱいの写真に写る祐巳さまがいた。
この雑誌はごく普通の十代少女向けの少し漫画も載っている普通の雑誌だが、紹介される服や小物類がリリアン生の好みに合うものが多く。大学から初等部まで以外に幅広く読まれている。ただ、通常は学校の帰りに買い家で読むものだ。
瞳子も昨日雑誌を買って、就寝前に少し見ておこうとパラパラと雑誌を開き固まった。
そこには大好きなお姉さまである。紅薔薇さまこと福沢祐巳が載っていたのだ。
しかも、優しく微笑んだ姿は白いワンピースに栄え。後ろに移った白い外車とマッチして、どこのお嬢様だ!!と言いたい感じで映っている。
「まったく、お姉さまも困った人ですわ。こんな雑誌に載ってしまって、学園から呼び出されても知りませんのに!!」
「まぁまぁ、瞳子ちゃん落ち着いて、その件に関しては学校側は問題ないと教育指導のシスターから聞いているから大丈夫よ」
「そうそう、私服だし撮られたのが休日だからね。学校側もそこまでは問題にしないというか祐巳さんだから問題にも成らないというのが本当のところね」
「そ、そうですか」
由乃さま、志摩子さまのあまりに速い対応に瞳子はなんだか毒気を抜かれてしまった。
「それでは、祐巳さまのことは、本当に瞳子から逃がすためですのね」
「あー、違う違う」
「……えっ?」
お二人が本当に瞳子から祐巳さまを遠ざけたと感じた瞳子は少しくらい顔をする。が、由乃さまはすぐさま否定なされた。
「今のは冗談よ」
「冗談?」
「そう、小さな悪戯よ。でも、祐巳さんを逃がしたのは本当よ。乃梨子と菜々ちゃんが護衛についているわ」
「……?」
瞳子は思わずお二人が何を言っているのか分からず、由乃さま、志摩子さまを交互に見つめてしまう。
「あれ?瞳子ちゃん分からない?でも、さっき言っていたよね……まずいですわ……って」
「あれは祥子お姉さまがあんな記事を眼にしたら、祐巳さまがどれだけ叱られるかと心配して……」
「ははぁ〜ん、なるほどね。そっちだったか」
「そっち?」
「そう、で、こっちの心配は」
そう言って由乃さまは窓の外を指差す。
「?」
瞳子は何に?と思いつつ窓に近づき、固まった。
薔薇の館から見える中庭に、黒山の人だかりが出来ていた。
「あ、がぁ」
黒山の人だかりは、高等部だけでなくどう見ても中等部の生徒や初等部に大学部のお姉さまの姿も見え。驚いたことに幼稚舎の園児を連れたお母さんまでいて、その手にはあの雑誌が。
「あ、ぎぎ、がが」
「瞳子ちゃんが壊れたわ」
「うむー、想像以上ね。一応、祥子さまの警告に従って逃がしたのは正解だったようね」
「乃梨子たち上手く祥子さまに祐巳さんを届けたかしら?」
……祥子さま?
「どうしてそこで祥子さまが!?」
瞳子は今一番聞きたくない人の名を聞いて我に返る。
「えっ、そういえばそうねぇ」
「う〜ん、祐巳さんのことだから当たり前と思っていた。祥子さまもそれが一番安全だからと言っておられたし」
「あぁぁ、もう!!この方たちは!!」
瞳子は祥子さまに叱られる祐巳さまを心配し、鞄の奥から携帯を取り出すと急いでスイッチをいれ祥子さまに携帯をかける。
「あ〜、瞳子ちゃん、学園で携帯使ったらいけないのよ」
「そうそう、本当は持ち込みも不可」
携帯をかける瞳子の横で茶々をいれる由乃さまと志摩子さま。だが、瞳子は無視することに決めた。
今は大事なお姉さまの危機を回避するのが先だった。
「あっ!祥子さまですか?」
『あら、その声は瞳子ちゃん?』
「はい、私です。あの、そちらにお姉さまは」
『えぇ、隣にいるわよ。代わりましょうか?』
「いえ、あの、祥子さまに、お願いが、お姉さまを怒らないで欲しいのです」
『えっ?』
「お姉さまが雑誌に載ってしまったのは、お姉さまが人がよすぎるのが原因で、その、お姉さまは」
『ぷっ!!あははは、可笑しいわ、瞳子ちゃん』
「あ、あの、祥子さま?」
まさか笑われるとは思わなかった瞳子は、携帯を持ったまま顔を真っ赤にしていた。それを見て由乃さま、志摩子さまがからかってくる。
『瞳子ちゃん、貴女、あの雑誌持っている?』
「あっ、はい」
『それじゃぁ、祐巳の後ろに写っている白い車はどう思う?』
「白い車ですか?高級そうで、外車の……よう……まさか」
『はい、正解。私の車よ』
「「「えっぇぇぇぇぇ!!!!!!」」」
「て、いつの間に聞いているんですか?お二人とも!!」
いつの間にか、瞳子の携帯の側に来て聞いていたらしい由乃さまも志摩子さまも驚愕している。
『ふふふふ、この前、祐巳とドライブデートに行ったときにね。雑誌のカメラマンが行った先にいてその時に撮ったのよ』
「お、お姉さまと祥子さまがデート?それって祥子さま抜け駆けですわ!!」
『そうかしら?でも、今からまたデートに行くのよ、ねっ祐巳』
『あははは、ごめんね瞳子』
笑って誤魔化すお姉さま。
「キィィィ!!!今からそちらに行きますから、祥子さま!お姉さま!!そこで待っていてください!!」
『そこで待っていてって瞳子ちゃん、私たちの居場所がわかるのかしら?いえ、それ以前に……薔薇の館から出られるの?』
「……えっ?」
祥子さまからの携帯はそこで切れてしまい。瞳子は恐る恐る窓の外を見た。
薔薇の館は黒い人の波に浮かぶノアの箱舟のようだった。
きっとお姉さま目当ての人だかりだろう。なんだか暴動でも起きそうな感じだ。いや、お姉さまがいない事が知れたら本当に……。
「祥子さま!!お姉さま!!!!これの収拾をどうするおつもりですか!!」
祥子さまに先を越された瞳子のむなしい叫び声が黒い海に響いていった。
「て、私たちも帰れないじゃない」
「由乃さん、今日泊めてくれないかしら?」
「やだ」
「はぁ、由乃さん、冷たいわ。乃梨子たち無事かしら?」
怒りに燃える瞳子の後ろで完全にトバッチリの由乃さまと志摩子さまであった。
「そうかぁ……祐巳さまを弄るとこうなるのかぁ」
「な、菜々ちゃん?」
「ふふふふふふ」
王道かな?一応『クゥ〜』