【1418】 お姉さまは凄いな  (翠 2006-04-29 13:10:56)


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さすがに妹を二人も持つ事が認められるはずがないと思っていたのですが。
「可南子」
「はい」
私の首にロザリオが掛けられます。
「これで正式にあなたは私の妹よ」
祐巳さまは、わずか四日で全校生徒に認めさせました。
祐巳さまのあの涙と笑顔は本当にすばらしかった……。
たとえ作ったものだとしても。
ところで、気になる事が一つ。
反対した方々を次々と闇に葬ったあの隠行の技の使い手は?
かなりの手練だと思われます。
この私ですらその姿を見つける事ができませんでした。
確かにそこにいて、見えているはずなのに認識できないのです。
祐巳さまの知り合いの方らしいのですが……。
祐巳さまに対する謎は深まるばかりです。
祐巳さまの方を見ると、その隣にいる瞳子さんが複雑な表情を浮かべて私を見ていました。
「瞳子さん」
「お姉さまが決めた事ですから文句は言いません」
瞳子さんは強いわね。
「瞳子は多人数プレイが好きなだけよ」
…………瞳子さん?
「ですから、それは誤解です!お姉さまも可南子さんも、そんな目で私を見ないで下さい!」
「この間、私と可南子ちゃんに攻「わぁぁ!」動けなくな「言わないで下さいーー!」じゃない」
確かに祐巳さまの仰る通り、この間の瞳子さんは凄かった。
「ね?」
祐巳さまの技も凄かった。
「ですね」
瞳子さんがほんの数秒で……。
「違ーう!」



「昼間からなんて会話してるのよ!」
黄薔薇さまが私達を睨んでいます。
「対戦格闘ゲームの話」
「そういうオチか」
いえ、それ嘘です。
黄薔薇さまが祐巳さまにあっさりと騙されています。
それにしても祐巳さま、さらりと嘘を付かれますね。
あんなに純真だったのに、何があったのですか?
あ、もちろん今の祐巳さまも私は好きです。
「っていうか、お弁当食べながらロザリオ授受って、それでいいわけ?」
「私は別に構いませんが?」
そう答えると、黄薔薇さまが呆気に取られた表情をされました。
「由乃さん、ちゃんと私に考えがあるから」
「祐巳さんの考え?」
碌なモノじゃないんでしょ?と言いたげな黄薔薇さま。
「今夜、本番の儀式が待ち構えてるから」
隣にいる瞳子さんの目が輝いたのに私は気付いた。
やっぱり多人数……。
考えかけてやめる。
瞳子さんが私を睨んだのに気付いたから。
「祐巳さん、いったい何する気よ?」
「ナニする気よ?って……、もう、由乃さんのエッチ」
頬を桃色に染めて祐巳さま。
恥じらいの表情も素敵です。
「引っ叩くわよ」
それは許しません。
ねぇ、瞳子さん。
チラリと瞳子さんを見ると、瞳子さんが頷きました。
「別にナニもしないよ?」
「……何かおかしくない?」
きっと『何』が片仮名なところですね。
黄薔薇さまには分からないでしょう。
「ナニが?」
「なんだか腹立つのよね、その言い方」
「気のせいよ、由乃さん」
にっこりと笑いながら祐巳さま。
ああ、本当に素敵な笑顔。
「それよりも、早く食べないと時間がなくなっちゃうよ?」
「そうね」
黄薔薇さまは頷いて、視線を自分のお弁当に向けました。
「あの……、お姉さま」
「あーん」
ぱくっ。
んぐんぐ、ごっくん。
「祐巳さま、どうぞ」
「あーん」
ぱくっ。
んぐんぐ、ごっくん。
「うん、美味しい。さすが我が妹達」
祐巳さまにそう言われて、
「もう、お姉さまったら……」
瞳子さんが顔を赤らめて、
「照れますね……」
私も顔を赤らめる。
「お願いだから普通に食べてよ」
黄薔薇さまは邪魔しないで下さい。
瞳子さんも私と同じく黄薔薇さまを睨んでます。
「そういえば菜々ちゃんは?」
「今日はミルクホール」
それで、黄薔薇さま御一人なのですか。
寂しいですねぇ。
「可南子ちゃん。その目はなんだか不快だわ」
「そんな……、私がここにいるのが不快だなんて……」
泣き崩れる私。
「黄薔薇さま、可南子さんになんて事をっ!」
瞳子さんが叫ぶ。
「瞳子さん、ありがとう。こんな私にやさしくしてくれて」
「同じ祐巳さまの妹なんですもの。当然ですわ……」
見つめ合う私と瞳子さん。
「あんたたち、私にケンカ売ってるんでしょ?」
黄薔薇さまが目を吊り上げて言ってくる。
「違いますっ!私達、黄薔薇さまにケンカなんて」
「私達の存在が気に障ったのなら謝りますわ」
「ごめんなさい」を連呼して瞳子さんと抱き合う。
「あ、あんたら……」
怒りでプルプルと震えている黄薔薇さま。
と、その時、
「ごめんなさい由乃さん。私の妹達が迷惑かけて」
祐巳さまが頭を下げる。
「ゆ、祐巳さん!?」
黄薔薇さまが驚いている。
「お、お姉さまっ!?」
「祐巳さまっ!?」
私達も驚いた。
少し、悲しそうな表情で祐巳さま。
「あんまり由乃さんをからかわないで」
「祐巳さん……」
思わず涙する黄薔薇さま。
「私の玩具なんだから」
唇の端を吊り上げて祐巳さま。
黄薔薇さまがその場で固まってしまいました。
すごい!
これが祐巳さま!
私達のお姉さま!
す、素敵すぎる……。
「ゆ〜み〜さ〜ん〜?」
思ったよりも復活が早いですね。
さすがは黄薔薇さま。
少しだけ見直しました。
「どうしたの由乃さん?」
「玩具ってどういう事よ!」
「私の玩具、由乃さん。なんだか、こう言うとエッチな響きがするよね?」
赤くなりながら、両手で頬を押さえる祐巳さま。
あぁ、可愛すぎるぅ。
「怒るわよ!」
黄薔薇さま、親友から大切な玩具に変わっただけです。
「まぁまぁ、抑えて。親友としても玩具としても、どちらも大切な事に変わりはないんだから」
「それで納得できるかー!」
黄薔薇さまが叫びました。
「由乃さん」
「なによ?」
自分の腕時計を指差しながら祐巳さま。
「時間」
「え?」
祐巳さまの時計を覗き込む黄薔薇さま。
「あ、そろそろ戻らないと遅刻してしまいます」
と、私が追い討ちをかけます。
「瞳子、可南子、教室に戻るわよ」
「はいお姉さま」
「ええ」
空のお弁当箱を入れた袋を持って部屋から立ち去ろうとすると、
「って、私、まだ食べ終わってないんだけど?」
黄薔薇さまが言ってきます。
それは黄薔薇さまが余計な事をしているからです。
「なんで、三人とも食べ終わってるのよ?」
「由乃さんが遅いだけ。じゃ、ごきげんよう」
祐巳さまが部屋から出て行かれます。
「ごきげんよう黄薔薇さま」
瞳子さんが後を追います。
「ごきげんよう玩具」
私も二人の後を追います。
「ちょっと待て、細川可南子」
待ちません。
ここで待ったら、祐巳さまをお待たせする事になります。
そんな事、できませんもの。
部屋を出て合流したあと、私達は少し急ぎ足で館を出て、近くの茂みに隠れます。
少し待つと、黄薔薇さまが慌てながら館から出て行きました。
「由乃さんったら、はしたないわね」
「まったくですわ」
「しかし、見事です。祐巳さま」
祐巳さまを見ると、瞳子さんに時計を見せて貰いながら、進めていた自分の時計を直しています。
「由乃さんって、すぐに引っかかるから、からかうの止められないのよねぇ」
「気持ちは分かります」
確かに、あそこまで単純だとからかい甲斐があります。
隣で瞳子さんも頷いてます。
「教室まであのまま気付かないかな?」
「黄薔薇さまですからね」
「私もそう思います」
気付かないでしょう。
自分の教室に戻ったところで初めて気付くはずです。
まだ休み時間は十分にあることに。
「可南子、よく合わせてくれたわね」
「すばらしい連携でしたわ可南子さん」
「いえ、そんな……」
少し照れながら頬を掻く。
「ふふ、瞳子の言うとおりよ」
「ありがとうございます」
と、祐巳さまが立ち上がって、黄薔薇さまが去って行った方に視線を向けました。
「ちっ……、気付くのが早い」
「え?」
見ると、怒りを露にした黄薔薇さまの姿が……。
「あんたらっ!そこを動くなーー!!」
黄薔薇さまの怒鳴り声。
「あの様子じゃ話は聞いてくれそうにないわね。逃げるわよ」
「そうですわね」
「では、急ぎましょうか」


祐巳さまの背中を追いながら思います。
楽しい。
祐巳さまと一緒にいられるのも。
瞳子さんと仲良くできるのも。
黄薔薇さまをからかうのも。
本当に楽しい。


「動くなって言ってるでしょーーが!!」
二度目の黄薔薇さまの怒鳴り声が、晴れた空に響き渡りました。


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