【143】 笙子がいつでもカメラ目線  (素晴 2005-07-02 14:14:28)


「うーん、最近不調なのかしら」
隣の蔦子さまは、カメラのレンズを磨いていたクロスで、自分のめがねのレンズも
磨きながらぼやいた。
「このところ、笙子ちゃんのいい写真が、なかなか撮れないのよね。
 この間の相互撮影会の時も、笙子ちゃんに関しては他の部員に惨敗だったし」

相互撮影会。写真部内でのちょっとしたお遊び。
校内を歩き回って互いに他の部員を撮影し、得点を競うのだ。
写真技術も一応点数には加味されるのだけれど、それはほとんど誤差の範囲。
重要なのは、相手の自然な表情を写すこと。
だから、後姿は得点が低いし、表情が良くわかるほど高得点となる。
写真につけられた点数を撮影者ごとに合計した「撮影ポイント」、
被写体ごとに合計した「獲物ポイント」で集計し、撮影ポイントの最低点2人、
獲物ポイントの最高点2人が備品の買出しの際の荷物運びなどの雑務に
駆り出されることになる。それぞれ2人なのは両者が重なることも多いため。

しかし、ここに相互撮影会ならではのルール、「カメラ目線は0点」があるのだ。
まだまだ駆け出しの笙子だから撮影ポイントは多くを望めないが、獲物ポイントは
このルールによって、全部員で3番目に低い得点に抑えたのだった。ちなみに、
2番目が蔦子さまで1位が部長。特に部長は「カメラ目線は0点」ルールなしでも
断然の1位だったという。その隠形の術は透明人間なみだという話もあるから
さもありなん。

「すみません、私がついカメラを意識してしまうせいで」
「いいのよ、単に私の隠れ方が下手なだけだし、それに笙子ちゃんこのごろ
 カメラを意識してるときでも大分いい表情するようになってきてるじゃない。
 そっちのほうが、私はうれしい」
「そんな、―――」
だから、笙子は言えなかった。笙子が意識してしまうのはカメラではなくて、
蔦子さまなのだということを。

―――それとも、気付いているのかしら?


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