【1460】 祐巳は魔法使いでリリアン魔法女学園炎の魔女が  (クゥ〜 2006-05-10 21:04:47)


 そこは真っ暗な闇。
 「祐巳さん、右!!」
 「了解!志摩子さん、支援して!!」
 「ええ、分かっているわ!!――幻影!!」
 志摩子さんの言葉で周囲に霧が生まれ、祐巳、由乃さん、志摩子さんの姿が霧の中にいくつも浮かび上がる。
 「よし!!――氷結!!」
 由乃さんの言葉で一帯が凍りついた。
 「「祐巳さん!!」」
 「了解!!――矢の雨!!」
 祐巳の一言でいくつもの矢が降り注ぐ。
 「やった?!」
 そう思った瞬間。
 ギュロロロロロ!!!!!!
 激しい機械音と共に降り注いだ矢が弾け飛び、氷は砕け。霧は霧散する。
 ゆっくりと四散していく霧の中から現れたその姿。
 真っ赤な瞳。
 口は鋭い歯が並び。
 炎を纏い。
 その頭には本体の数倍するドリルが炎を絡ませていた。
 炎の魔女にして、ダンジョン・紅薔薇の魔人『瞳子』
 「さ、流石ね『瞳子』」
 「でも、この試練を通らないとあの方たちの元にはいけないわ」
 「うん、そうだね」
 祐巳たち三人は頷き『瞳子』を見る。
 炎を纏ったドリルが唸りを上げている。
 「でも、ちょっと怖いかな?」
 「祐巳さん……」
 「まったく、恐れをなしてどうするのよ!!そんなことで薔薇の称号が貰えるとでも思って?」
 「わかってるって、でも、具体的にどうするの?」
 祐巳の言葉に押し黙る由乃さん、志摩子さん。
 三人の力と『瞳子』の力はどう見ても開きがある。
 「アレ、やってみる?」
 「でも、アレは!!」
 「三分の一の確率」
 「私たちがこのダンジョンの挑戦を許された理由」
 「ダメもと」
 「それではやってみる?」
 志摩子さんの言葉に頷く、祐巳と由乃さん。
 「「「魔人召喚!!『可南子』!!」」」
 祐巳、由乃さん、志摩子さんは手にした杖を合わせ呪文を叫んだ。
 一帯に巨大な竜巻が出現。
 「よし!!上手くいった!!」
 由乃さんが、喜びの声を上げた瞬間。
 竜巻は突然旋風になり。
 「よしのー!!」
 コロボックル『令ちゃん』が現れた。コロボックル『令ちゃん』は間違って呼び出して以来、由乃さんを気に入りたまに出てくるように成った。
 何時もなら、久しぶりと歓迎するところだが……。
 「……」
 「……」
 「ぶわかぁぁぁぁ!!!!!」
 ポッコーーーーン!!!
 「また呼んでねー」
 由乃さんに蹴られ闇の中に消えていくコロボックル『令ちゃん』
 「はぁはぁ、この大事なときに……」
 コロボックル『令ちゃん』を蹴り飛ばした由乃さんはゆっくりと後ろを向く。
 ギュロロロロロロロ!!!!!!!!
 そこには炎を纏った『瞳子』がいた。
 「「「!!!!!!!!!!!!」」」


 「あ〜ぁ、失敗かぁ」
 「でも、一年生でダンジョンに下りる許可が出ただけでも私は凄いと思うな」
 「それじゃぁ、ダメなのよ」
 由乃さんは桂さんの慰めの言葉に不満を漏らす。実を言えば祐巳も不満だった。
 ここは魔女を育てる学園。
 海と空の狭間にある小さな世界。
 ここには三つのダンジョンと一つの迷宮がある。
 一つは祐巳たちが挑戦した魔人『瞳子』のいる『紅薔薇』
 一つは白き仏と呼ばれる魔人『乃梨子』がいる『白薔薇』
 一つは閃光の狂人の名を持つ魔人『菜々』がいる『黄薔薇』
 それらの試練を超えた者はダンジョンの名である薔薇の名を名乗ることが出来、今その名を持つのは。
 「あっ、薔薇さま方!!」
 「えっ?」
 桂さんの一言に慌ててそちらを見る祐巳たち。
 そこには『紅薔薇』を名乗る蓉子さま。
 『黄薔薇』を名乗る江利子さま。
 そして『白薔薇』を名乗る聖さまがいた。
 三人は祐巳たちの方に歩いてきて、祐巳の前に蓉子さま。
 由乃さんの前に江利子さま。
 志摩子さんの前に聖さまが立った。
 「ダンジョン、紅薔薇。失敗したそうね」
 「だから、まだ無理だと言ったでしょう?」
 「まぁ、大怪我はしなかったみたいだから良しというところね」
 蓉子さまは少し残念そうに、江利子さまは楽しそうに、聖さまはニコニコと笑っていた。
 「つ、次は負けません!!」
 由乃さんの言葉に頷く祐巳と志摩子さん。
 「そう?でも、そうでないと困るわ。だって、この学園最大の試練、迷宮『薔薇の館』があるのだもの、ここでつまずいてもらってもねぇ」
 由乃さんの言葉に笑いながら言い返す江利子さま。二人はそのまま睨み合う。
 「でも、ほどほどにしておきなよ。まぁ、無理に止めないけどね」
 少し、ぶっきらぼうに言いながら志摩子さんを見る聖さま。
 「祐巳ちゃん、魔人に心を開いてはダメよ。貴女は私のモノなのだから」
 そう言って祐巳を抱きしめる蓉子さま。
 「特に、迷宮『薔薇の館』の主。魔人『祥子』にはね」
 蓉子さまの言葉が祐巳の心を締め付ける。蓉子さまは知っているのだ、祐巳が禁忌である魔人に恋心を持ってしまったことを。
 祐巳は、蓉子さまに分からないようにそっと魔人『祥子』から貰ったロザリオを握り締める。
 「貴女はいずれ紅薔薇の名を次ぐのだから」
 「はい、蓉子お姉さま」
 祐巳は小さく頷いた。
 自分の夢は優秀な魔法使いになること、魔人は使役する存在で、魔法使いが心許す存在ではない。
 たとえどんなに美しく、強くても。
 ……でも、あの方は。
 美しく、強く、悲しい。
 何百年も迷宮『薔薇の館』に一人っきりの魔人。
 祐巳は蓉子さまの胸の中で静かに目を閉じる。でも、思うのは偶然の出会いをした魔人『祥子』のことだった。


 ここはリリアン魔法女学院。
 一人前の魔法使いを育てる場所。
 祐巳の夢はりっぱな魔法使いに成ること。
 それはより強く、より強大な魔人を使役し、強力な魔法を操ること。
 祐巳はその教えと自分の夢に今戸惑いを覚えていた。





 Key挑戦SS第二弾。
 今回、魔法関係で三つそろったので書いてみましたが、最初、ギャグを考えていたのにこうなってしまって困ったものです。失敗、でも、聞いてみたいと言うことで。
                          『クゥ〜』


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