【1463】 素敵に無敵な祐巳ただいま五歳!  (クゥ〜 2006-05-11 21:59:24)


 祐巳が五歳児でリリアン高等部に編入している設定です。
 詳しくはこちら→【No:1442】




 「ふぅ、つまらないわね」
 今日は差し迫った文化祭を目前にして、最近お手伝いとして薔薇の館に来てくれている祐巳ちゃん。山百合会主催シンデレラに参加が決まり。日曜日にも練習と成ったのだが、祐巳ちゃんを姉Bの役にしたのが不味かった。
 似合わないというか、それ以前の話に成ってしまい。なかなか練習が進まないのだ。
 「いっそのこと、シンデレラにしてしまう?」
 そんな話も出たが、何時までも話は平行線をたどっていき。決まらない。最初こそ、祐巳ちゃんの話に乗っていた江利子も白薔薇対紅薔薇の紛争になってくると飽きてきた。
 「う〜ん。お腹が少し空いたわね」
 「あっ、それでしたら外に行ってコンビニで何か買ってきますか?」
 「そうね……あぁ、いいわ。私が行ってくる。祐巳ちゃんも一緒に行く?」
 「うん!えりこおねえちゃん」
 祐巳ちゃんが笑顔で江利子の手を取ってくる。ちなみに、祐巳ちゃんは姉Bのドレスを着ている。手芸部が誰よりも先に祐巳ちゃんのドレスを仕上げてしまったことも問題を複雑にしてしまったのだが、紅いドレス姿の祐巳ちゃんは本当に可愛くこのままお持ち帰りしたいほどだ。
 「江利子さま、そのまま祐巳ちゃんと帰らないでくださいね」
 由乃ちゃんが、祐巳ちゃんの手を引いて出て行こうとする、江利子を睨んでいる。なかなか先を読んでいるようだ。
 「はいはい、大丈夫よ。飲み物と何か後いるものある?」
 「あっ、それでは簡単なデザートかなにか」
 「OK、わかったわ」


 ……由乃お姉ちゃんが言った「デザート」この一言が、この後、山百合会を地獄に落とすことに成ってしまうの。


 姉B姿の祐巳ちゃんを連れ薔薇の館を出て、銀杏並木を抜けて校門の方に向かう。その道すがら、祐巳ちゃんを見た部活生たちが集まってくる。
 はっきり言って、祐巳ちゃんのこの格好は犯罪寸前。
 しかも祐巳ちゃん、心得たもので首を少し傾け笑ったり、その姿で走ったりと愛嬌を忘れない。当然、周囲に集まった生徒たちからは黄色い声援が上がる。
 「祐巳ちゃん、そろそろ行こうか?」
 「うん!!」
 祐巳ちゃんは大きな返事をして江利子に抱きついてくる。
 きゃぁぁぁぁ〜〜〜〜〜。
 「なかなか楽しませてくれるわ」
 黄色い悲鳴を聞きながら江利子が囁くと、祐巳ちゃんは江利子にしか分からないように小さく舌を出して笑う。
 「えへへへ、少しやり過ぎちゃった」
 祐巳ちゃんの正体は分かっていても、怒る気にはなれない。もしかしたら、ある意味、祐巳ちゃんは天然なのかもしれない。
 いや子供らしい一面か?
 「……」
 「……なに?」
 フッと気がつくと祐巳ちゃんが江利子を覗いている。
 「江利子お姉ちゃん、もしかして子供っぽいとか思ってる?」
 「流石、祐巳ちゃん鋭い」
 本当に鋭い。まぁ、紅薔薇さまなら大人の顔色を伺って育ってきたと言うだろう。そして、言い当てられた場合は誤魔化さないのが祐巳ちゃんは好きらしい。
 「もぅ!!」
 少し膨れ顔の祐巳ちゃんを連れ校門を出て、すぐ近くのコンビニに向かう。
 コンビニには数人のリリアン生の姿があった。
 江利子と祐巳ちゃんはごきげんようと挨拶を交わす。
 「あら、江利子さん。ごきげんよう」
 「ごきげんよう、良さん」
 「ごきげんよう、りょうおねえちゃん」
 「ごきげんよう、祐巳ちゃん。素敵な格好をしているのね」
 江利子のクラスメイトの良さん。たしか運動系の部活に入っていて引退した今でも後輩の指導をしていると聞いたことがある。今日もそうなのだろう。
 「今日は二人してどうしたの?」
 「山百合会の劇の練習よ。それでちょっと休憩がてら買い物にね」
 「そう」
 「そういう良さんは?」
 「まぁ、似たようなものかな。それで何を買いに来たの?」
 「お茶とかデザート関係をね」
 「デザート……」
 江利子の話を聞いて少し考え込む良さん、その顔がニヤリと笑う。
 「それならお薦めがあるわよ」
 「お薦め?」
 良さんがそう言って江利子と祐巳ちゃんを連れて行ったのはお弁当のコーナーだった。
 「あった、あった。これよ」
 そう言って良さんは一個のおにぎりを取って見せる。
 「新製品!!デザート系!!チョコレートおにぎり!!」
 それを見て流石の江利子も言葉を失った。
 「他にもあるのよ、蜂蜜コーヒーゼリーに、あとこれなんかお薦め、プリン!!」
 それを見て江利子の顔に笑いが浮かぶ。
 結局、江利子は複数個のデザート系おにぎりを買った。祐巳ちゃんは嬉々としてレジを済ませる江利子を見ながら、新製品の札の横に、コンビニの店員さんが書いたであろうコメントを見ていた。
 『レジャーシーズン!!イベントの小さなアクセントにどうぞ。注、昼食には向きません』
 「江利子さま……」
 祐巳ちゃんは江利子に分からないように、自分に被害が及ばない方法を考えていた。



 薔薇の館に戻ると喧騒は終わっていた。というよりも、江利子が祐巳ちゃんを連れて出たことでそちらが気になり。話し合いが止まってしまったらしい。
 「まぁ、ちょうどよかったわ」
 江利子は買ってきたコンビニの袋からジュースとおにぎりを取り出す。
 「なんでおにぎ……り、なにコレ?」
 テーブルに置かれたおにぎりを取った紅薔薇さまが固まる。
 令たちも気がついたのか、それぞれ動かない。
 「な、なんですか!!コレ?!」
 「何って、由乃ちゃんが言っていたデザートよ」
 「デ、デザートって」
 「これ、食えるの?」
 「私は遠慮したい……」
 「はい、せいおねえちゃん!!」
 白薔薇さまが手に持ったプリンおにぎりを、テーブルに置こうとした瞬間。祐巳ちゃんが極上の笑顔でおにぎりを差し出す。しかも、姉Bのドレス姿で迫る。
 「うっ、まぁ、コンビの製品だしね。ねっ、令」
 「そ、そうですね」
 白薔薇さまは何を思ったか隣の令を見て、令も何故か頷いてしまう。
 「はい、れいおねえちゃんも!!」
 祐巳ちゃんがこの好機を見逃すことはなく、白薔薇さまの言葉をつなげるようにプリンおにぎりを令に手渡した。


 白薔薇さまアンド令VSプリンおにぎり。
 二人の口にプリンおにぎりが入った。
 もぐもぐも。
 最初は海苔とご飯の味、噛み続けるとプリンの味が舌に伝わる。徐々に混ざっていくプリン。プリンは溶けていくので食感は悪くない。そう感じた瞬間、プリンのシロップが一気にご飯に混ざっていく。
 甘い。
 シロップの甘味だけが強調され、二人の口が止まった。
 キョロキョロとお茶を探すがそこにあるのはジュース。グレープとオレンジ。炭酸なし。
 二人ともオレンジを選択。
 一気に流し込もうとする作戦のようだ。
 が、オレンジとシロップが混ざった瞬間感じたのはオレンジの嫌な苦味。
 それでも流し込むことに成功。
 「「はぁはぁ、あぁぁぁぁ」」
 「まだ、のこっているよ?のこすと、わるいこ、なんだよ!!」
 「「えぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜!!!!」」

 結果、全部食べきった二人は今部屋の隅でのの字を書いている。なんだか、精神的なトラウマになったようだ。


 二人の結果を見て紅薔薇さまやその他は当然怖気づく。まぁ、仕方ない。江利子はそこでやめようとした……が、祐巳ちゃんはそうではなかった。
 今度は紅薔薇さまと由乃ちゃんに標的を向けた。
 差し出したおにぎりは蜂蜜コーヒーゼリー。
 「あの、祐巳ちゃん」
 「私は、ほら、ねぇ祐巳ちゃん」
 「たべて」
 祐巳ちゃんは泥団子を差し出す園児のように二人に笑顔を向ける。
 「「はい」」
 泥団子のほうがどれだけ平和か、今、二人はそう思っているに違いない。
 なぜなら笑った笑顔が引きつっているから……。


 紅薔薇さまアンド由乃ちゃんVS蜂蜜コーヒーゼリーおにぎり。
 さっきの二人とは違い小さく頬張る二人。具が出ないのでただのおにぎりと思った。が、溶けた蜂蜜の甘味が既にご飯に絡んでいた。
 ご飯の味はなく。ただ、蜂蜜を嘗めている甘味。ただ、ご飯粒の食感が悪い程度。
 これならいけると思ったのか二人は二口目へと向かう。
 二口目、だが、二人の口は動かない。歯に当たる奇妙な食感。このまま噛んではいけないと本能が叫ぶ。
 「たべて」
 祐巳ちゃんのダメ押し。
 二人は意を決して二口目を食べる。
 ご飯がゼリーを通さないうちに流し込むのが危険回避の方法だが、目の前にはグレープジュース。
 だが、二人は忘れていた。蜂蜜を!!そして、グレープと蜂蜜が混ざり合った。
 「ぜんぶ、たべてね」
 祐巳ちゃんの微笑み。二人は震えながら頷いた。


 結果、二人はテーブルの下で痙攣中。大丈夫だろうか?


 残るはチョコレートおにぎりのみ!!
 ここまで来たらと、江利子は祐巳ちゃんに視線で合図を送る。
 祐巳ちゃんは小さく頷いた。それを見て、祥子と志摩子の表情が引きつていた。
 「はい、おねえさま、しまこおねえちゃん!!」
 差し出されたチョコおにぎり。
 「祐巳、私、これの食べ方が分からないのよ」
 「祐巳ちゃん、私もコンビ二はあまり行かないから」
 祥子も志摩子も同じように逃げようとする。が、祐巳ちゃんは小さな手でおにぎりの袋をはずすと両手で一つずつ持ち。祥子と志摩子の前に差し出した。
 「はい、あ〜ん」
 笑顔でおにぎりを差し出す祐巳ちゃん。
 これには祥子も志摩子も逃げられなかった。


 祥子アンド志摩子VSチョコレートおにぎり。
 祐巳ちゃんの「あ〜ん」でチョコレートおにぎりを食べる二人。だが、おにぎりの味しかしない。二人は少し安心したとき、ついに具であるチョコレートが口に入った。
 この瞬間、飲み込めばよかったものの、固形のチョコを噛み砕く二人。口の中に広がるチョコの甘み。だが、これならいける。二人はそう思った。
 だが、砕けていくチョコが徐々に食感を悪くしていく。それでも食べられる。
 そう思っていた、海苔が絡むまでは。海苔とチョコとご飯が混ざり。口の中に広がるのはカカオの香り。甘みは消え。
 チョコと海苔の香りが口の中で混ざり合う。
 祥子と志摩子の動きが止まった。
 これ以上噛んではいけない。そう思っているのだろうが、今、問題は香りなのだ。
 「おねえさま、しまこおねえちゃん。だいじょうぶ?かわいそうだから、のこりは、ゆみがたべてあげるね」
 そう言って、二人の残りのおにぎりを食べてしまう祐巳ちゃん。勿論、祐巳ちゃんの食べたおにぎりにはチョコは入ってはいなかった。そして、噛むのを我慢していた二人は限界に来たのか。ジュースで流し込む。
 「「!!!!!!!!!!」」


 結果、胃もたれを起こしたらしい二人はテーブルに倒れていた。


 「はぁ、面白かったわね。祐巳ちゃん」
 「うん、でも」
 「でも?」
 「えりこおねえちゃんは、なにもたべていないよ?」
 「あぁ、私はいいのよ」
 祐巳ちゃんの言葉に背筋に冷たいものを感じた江利子だったが、遅かった。
 「ゆみが、たべようとおもってかったけど、いま、ゆみ、おねえさまと、しまこおねえちゃんののこりたべたからあげるね」
 そう言って祐巳ちゃんが差し出したのは、オカズ系シュールストロレミングおにぎりだった。
 「たべて」
 祐巳ちゃんの背中の後ろに、六つの紅い瞳が輝いていた。



 「ふぅ、美味しい」
 祐巳は一人、薔薇の館から離れ、古びた温室でオレンジジュースを飲んでいた。
 外からは悲鳴が聞こえるが、聞こえない、聞こえないと呪文のように呟き。
 溜め息を一つついて呟く。
 「……あんな物、売るなよ」


 その後しばらく薔薇の館は悪臭の館の異名を囁かれていた。





 良さま、砂森 月さま。こんなところでどうでしょう?良さまは、江利子をそそのかす役にしましたが、勿論、本人とは関係ありませんので許してください。あと、苗字は流石に決められないのですみません。


 また、今回食べたのはチョコおにぎりとプリンおにぎりのみです。この二つは『クゥ〜』の感想で書いてありますのでご了承ください。

 一応【五歳】の番外になります。
                                  『クゥ〜』


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