これはKey挑戦第二弾で書いた【祐巳が魔法使い】の続きです。
この手のSSは好みが大きく分かれると思うので、嫌いな方は許してくださいますよう。
『クゥ〜』
「ふぅ」
眠れない。
志摩子さんと由乃さんと祐巳の三人で、紅薔薇のダンジョンに挑戦して数日。
このところ祐巳は眠れない夜を過ごしていた。別に蒸し暑いとか寒いなどの理由ではなく。精神的な理由だとは分かっている。
祐巳はベッドから降りると、同室の蓉子さまを起こさないように部屋を出る。
魔法使いを養成するこの学園の寮は、上級生と下級生の二人一部屋。
下級生が上級生のお世話をするかわり、上級生は下級生の教育を任されていて、同室の下級生が問題を起こした場合。責任を問われもする。
祐巳の同室は、学園中の憧れを受ける紅薔薇の称号をもつ水野蓉子さま。
祐巳にとって蓉子さまは、憧れの魔法使いであるとともに、落ちこぼれだった祐巳に魔法の技術を教え。現一年生中で最強クラスまで上げてくれた恩人でもある。
そんな蓉子さまに、祐巳は逆らうことはしない。
逆らう気もない。
ただ、最近の蓉子さまは少しおかしい。いや、過保護すぎると言った方がいいかもしれない。
……やっぱり、アレが原因かな?
祐巳は誰もいない暗く冷たい廊下を歩き、行き止まりのテラスに出る。
そこから見えるもの、それはこの学園最大の試練、魔人『祥子』の住む。迷宮『薔薇の館』。
「『祥子』さま」
魔法使いの禁忌――魔人を愛しては成らない。
祐巳と魔人『祥子』の出会いはほんの偶然。
「……はぁ」
「月夜の下で、溜め息をつく乙女が一人」
「せ、聖さま!!」
いつの間にか、祐巳の後ろには、祐巳のトリオ(トリオとは大掛かりな魔法を使うとき相性がいいものが三人一組で組む小グループ)を組む志摩子さんの同室の上級生にして、白薔薇の称号を持つ佐藤聖さまが立っていた。
「ごきげんよう、祐巳ちゃん。一瞬、魔人『祥子』が迷宮から抜け出てきたかと思ったよ」
「ごきげんよう、聖さま。残念ながら、魔人『祥子』と似ているのはこの長い髪くらいですが、似ていますか?」
祐巳の髪は長く、腰の下まで伸びていて、いつもはそれを左右に結んでツインテールにしている。
「こうして話すのは久しぶりだね」
「そうですね。紅薔薇のダンジョンへの挑戦とかあってそれどころじゃぁ、なかったですから」
「そうね。せっかく学園初の一年で薔薇の称号を持つ生徒が誕生するかと思っていたけど、残念だったわね」
「それは、すみません。ご期待に応えられなくって」
「あはは、いいよ。そんなの私らには関係ないし」
聖さまは笑って祐巳を見る。
「そんなことよりも、祐巳ちゃんと話できなかった最大の理由は蓉子にあるでしょう?」
聖さまの突然の言葉、だが、それは真実でもある。
蓉子さまは、祐巳が志摩子さんや由乃さんと話しているときも常に側に居る。そして、蓉子さまのトリオである、聖さまや江利子さまが近づくと祐巳に用事を言いつけ近寄らせないようにしていた。
「そ、そうですか?」
だが、祐巳に蓉子さまを悪く言うことは出来ない。
「祐巳ちゃん、良い子だね。だからこそ言っておかないといけないことがあるの」
「言っておくこと?」
「そう、蓉子が祐巳ちゃんに過保護になる理由。それが私の責任だから」
そう言って聖さまは静かに話し始めた。
「時期はほんの一年前。祐巳ちゃんが入学してくる前のこと、私はトリオを組む蓉子と江利子の三人だけで、学園からの依頼を受けて、この空間から外の世界に出かけたことがあるの」
祐巳はその話を聞いて驚く、去年といったら聖さまたちは二年生。確かに、学園のお仕事で外の世界に出かけることはあるが、それは一般的に三年に成ってからがほとんどで二年のとき、それも聖さまたちだけで仕事に出るなんて信じられない話だ。
「それで北の方に行ったんだけどね。私はそこで犯してはならない禁忌を、犯してしまったの……そう、魔人を愛してしまった」
祐巳は言葉を失う、それは今の祐巳そのものだから。
「相手は氷の魔人『栞』……綺麗な。そう、綺麗で純粋な魔人だった。私と彼女は確かに愛し合っていたと思う、私が更なる禁忌に触れようとするまでは……祐巳ちゃん」
「はい?」
「祐巳ちゃんは、どうして魔人に魔法使いが恋してはいけないか分かる?」
「はぁ、魔人とは使役するもので、使役する魔法使いが心を許してはいけないということですか?」
「う〜ん、模範的な回答だね。魔人というのは知っての通り、強大な力を持ちそう簡単に魔法使いに使役されない。でもね、魔人はもともとは人……魔法使いの成れの果てなんだよ。ゆえに魔人」
祐巳は聖さまの言葉に黙る。なぜなら、その言葉さえ禁忌なのだから。
「そして、更なる禁忌。魔法使いから、魔人に変わる事」
祐巳の視線が今まで以上に厳しいものに変わる。今の祐巳でさえ、それは考えてもいない……いや、考えることさえ許されないことだからだ。
「でも、実際にそんなことが出来るのですか?」
祐巳の声はとても冷たい。
「祐巳ちゃんたら、ふぅ、そうね。魔法使いから魔人になる方法はただ一つ、魔神を呼び出し同化する事だからね。でも、私は『栞』の側にいたくって魔神を呼び出そうとして見事失敗」
「当然です。魔神とは自然そのもの力が具現化したもの、そんなもの呼び出そうとするなんて制御できなければ大災害を引き起こしますよ」
「うん、それでも呼び出そうとしたの、でも、蓉子と江利子に止められてね。挙句の果てに『栞』は魔人の聖域から姿を消してしまったのよ」
「魔人が聖域から姿を消した!?」
魔人とは、その姿や力が強大なゆえそのままでは安定しない。それゆえダンジョンや迷宮を作り結界を設け、力を安定させているのだ。そして、聖域と呼ばれるそこから出ることは、最終的に魔人の消滅を意味する。
だから、魔人を呼び出す魔法使いは、聖域の変わりに魔人に魔力を与えることで、魔人の強大な力を使うのだ。
「それで」
「それで?それで終わりだよ。私はまたこの学園に戻ってきて、『栞』はもうどこに行ったのかさえわからない」
そういう聖さまの顔は笑っていた。
「ただ、蓉子と江利子はこのことを知っているから、蓉子は祐巳ちゃんが心配なのよ。私と同じことにならないか。だから、あんなに過保護に成って蓉子らしくないけどね」
聖さまはそう言ってテラスの出入り口に向かう。
「だから、祐巳ちゃん。蓉子のこと嫌いに成らないでね」
「き、嫌いになんか、成りません!!」
「そう、よかった」
聖さまは笑ってテラスを出て行った。
祐巳はゆっくりと振り返り、迷宮『薔薇の館』を見つめていた。
聖さまと夜のテラスで話して数日。
「おまちなさいませ!!」
「はい?」
祐巳が、夕暮れの校舎を寮の方に向かっていたときだった。
不意に後ろから声をかけられたので振り返ると、赤いドレスの少女が立っていた。
「久しぶりね」
「はぁ」
少女は祐巳のことを知っているようだが、祐巳は少女を知らない。
「ちょっと貴女、私のこと覚えていないようね」
「はぁ」
「私ですわ」
「私さんですか?」
「て、天然は嫌いですわ!!」
少女が怒った瞬間、少女の縦ロールの髪が炎を纏ったドリルに変わり、祐巳を襲撃する!!
「ちょ!!ちょっと!!」
ズゴゴゴゴ!!!!グォォォゴォォ!!!
「きゃぁぁぁ!!!!」
爆音をともない土煙が上がる。
「貴女!!魔人『瞳子』!!」
「あたりですわ」
『瞳子』は、少女の姿のまま凶悪な炎のドリルを出現させる。
「ど、どうやってダンジョンから!?」
「どうやって?当然、歩いてですわ。別に聖域から抜け出たところですぐに消滅するわけではありませんから」
ニッコリと笑う瞳子。だが、その頭には炎を纏ったドリルが唸りを上げていた。
「じゃぁ、どうして私を?この前の仕返し?」
「この前?おほほ、そんなつまらない事ではないですわ」
「つ、つまらない?じゃぁ!!どうして?」
「貴女が、『祥子』さまに色目なんか使うからですわ!!」
再び『瞳子』のドリルが祐巳を襲う。
バッシィーーー!!!
だが、それが祐巳に届きことはなかった。
「「祐巳さん!!」」
「由乃さん!!志摩子さん!!」
「祐巳ちゃん!!」
「蓉子さま!?」
祐巳の危険に駆けつけてきたのは、祐巳とトリオの由乃さんと志摩子さん。そして、蓉子さま。
「あら、蓉子、久しぶり」
「貴女、『瞳子』!!」
「「えっぇぇ!!」」
蓉子さまの言葉に流石に驚く由乃さんと志摩子さん。
「まったく、これからだというのに」
「『瞳子』これはどういうことなの、今すぐやめなさい!!」
「勿論、分かっておりますわ。蓉子さま。私も契約を交わした相手の命令とあれば引きますわよ」
そう言って笑って帰ろうとする『瞳子』に、由乃さんがキレた。
「ちょっと!!待ちなさいよ!!祐巳さんを突然襲っておいて、逃げるつもり!!」
「逃げる?私が?」
「そうよ」
睨み合う由乃さんと『瞳子』。
「そこまで言うなら、少し遊んであげましょう!!」
「祐巳さん!!志摩子さん!!」
突然、その姿を変えていく『瞳子』。由乃さんは祐巳と志摩子さんを呼び杖を合わせ、叫ぶ。
「「「魔人召喚!!『可南子』!!」」」
「や、やめなさい!!『瞳子』!!三人とも!!」
蓉子さまの声が響くが遅かった。
巨大な竜巻が出現。その中から、魔人の中でもっとも巨大とされる魔人『可南子』が出現する。
「なっ!!『可南子』ですって!!」
驚く『瞳子』に、『可南子』はその巨体から鉄拳を振り下ろす。
魔人『可南子』の巨大な鉄拳が、炎を纏った『瞳子』のドリルと激突した。
魔人同士の激突。
爆炎と爆音が周囲に広がる。
「ど、どうなったの?」
土埃が収まっていく。とっさに自分の身を守った蓉子さまはの目に、二つの魔人が姿を現す。
「まったく、こんな未熟者たちにしてやられるなんて、中途半端に出てきてしまったのが間違いだったようですわね」
『瞳子』の声が周囲に響く。
「蓉子さま、この子なら、確かに貴女が求めた『祥子』さまを手に出来るかもしれませんわね。貴女がそれを望むならですが?」
「『瞳子』」
「本当に未熟者ですが見込みは大きいですわね。ですから、その者たちには紅薔薇の蕾の称号を与えますわ。伝えておいてくださいませ……それでは、ごきげんよう」
そう言って『瞳子』は姿を消し、『可南子』もその姿を消した。
「……そうそう、言い忘れておりましたが、その祐巳って子。『祥子』さまに魅了されていましてよ。おほほほ!!!」
「くっ!!」
『瞳子』の声に、蓉子さまは顔をしかめ。土煙の中に祐巳たちを見つけ急いで駆け寄る。
「祐巳ちゃん!!祐巳ちゃん!!」
蓉子さまは祐巳たちを調べ、ただの魔力不足で気を失っているだけだと安心すると、迷宮『薔薇の館』を見つめる。
「『祥子』……祐巳ちゃんに手を出さないで」
蓉子さまは小さく呟くのだった。
この事件の後、祐巳が正式に魔人『瞳子』から与えられた紅薔薇の蕾称号を、由乃さん、志摩子さんの同意を受け。名乗ることと成った。
なんでしょうねぇ……コレ?書いていて上手くまとまらないし。
続きを希望してくださった方々、こんなものですがいいですか?
『クゥ〜』