あれから、もう2年。
私は今でも彼女の夢を見る。
回数こそ減ったものの、その想い・記憶は決して色褪せる事はない。
今では、私の隣には大好きな友人がいて、それを幸せに思うし。
彼女との別れすら、決して間違いではなかったとも思うのだ。
それでも、私は夢を見る。
彼女の声。彼女のぬくもり。彼女の眼差し。
夢の中の彼女はいつも、儚げに微笑んでいる。
私は彼女に触れたくて、夢中で手を伸ばす。
けれど、その手は空を掴むばかりで、決して彼女には届かない。
私は叫び声をあげ、必死に彼女に近づこうとする。一歩。もう一歩と。
彼女が目前に迫り、やっと触れられると思った刹那。彼女は悲しそうな顔を見せ、涙を流す。
そして・・・
私は目を覚ます。
きっと私は泣いているんだろうな。
水が欲しいけれど、体がだるくて立ち上がる気力もない。
しばらくの間、その気だるさに身を任せていると。ドアノブが静かな音を立てて回った。
「大丈夫?聖。」
相変わらず気が利く。蓉子の右手には水の入ったグラスが見えた。
「うなされていたけれど、何か夢でも見ていたの?」
コップを渡しつつ問い掛ける蓉子に、私は無言で首を振る。
「何でもない。」
蓉子は不満気に、まだ何か問いたい様子を見せるが、思い直したのだろうか私を黙って見つめる。
「・・・蓉子。」
「何?」
「・・・愛してるよ。」
軽口に真っ赤になった蓉子が無言で枕を投げつけてくる。そのままプリプリと怒りながら自分の布団に入り私に背をむける。
私は笑い声をあげ「ごめんごめん」と繰り返し自分の布団に戻る。
それからしばらくして、隣から蓉子の寝息が聞こえ始めた頃、私は一つ寝返りを打ち窓を見やる。
満月から少し欠けた月が、ぼんやりとした光を部屋に投げかける。
そして私はまた思い出すのだ。”月”という希望すら射すことのなかった、けれど泣きたい位に幸せだった日々の事を。
もしもマリア様が願いを叶えてくれるのならば、一日だけあの日々に私を戻して欲しい。
そして彼女に伝えるのだ。
『愛してるよ、栞。あなたに逢えて、私は本当に幸せだった。』と。