【1517】 バラの花嫁  (sarasa 2006-05-22 22:23:59)


(ゴーン…ゴーン)

ウェディング・ベルがまだ遠くに聞こえる所で祐巳の足は止まり、小林君の肘
に絡めていた腕を解いた。

「よく我慢したね、祐巳ちゃん。」
「ありがとう。ごめんね、こんなこと頼んで。」
「いいってことさ。それより俺、高校時代から祐巳ちゃんのこと…。」
「ごめん。その先は言わないで。やっぱり私は…。」
「女の子しか愛せないか。」
「ええ。」

祥子様と柏木さんの結婚式の帰り道。一度婚約を解消して白紙に戻った二人は
素直な気持ちで改めてお互いに好きであることを確認した。そして今日の晴れ
の日がある。祐巳は心から祝福したかったし、祥子様には心配をかけないよう
に、一点の心の曇りのないままで旅立って欲しかった。だから祐麒の親友であ
る小林君に頼んで彼氏の振りをしてもらったのであるけれど。

「祐巳ちゃんの妹のド、じゃなかった瞳子ちゃんはどうなの?。」
「彼女は駄目よ。人目を引くというか人に見られるのが商売なんだから。私の
存在なんて足を引っ張るだけだもの。それにやっぱり私は…。」
「一途だね、祐巳ちゃんは。」
「ふふ。まったく諦めが悪いわよね。」

「そんなことだろうと思っていたよ。」
「せ、聖様。」

ふいに会話に割り込んでくる存在があった。」

「やあ祐巳ちゃん。」
「ごきげんよう、聖様。」
「こんにちは。」
「こんにちは。祐麒の友達?。」
「はい。」

「きゃっ。」
「うーん、久しぶりの抱きごこち。」

聖様は相変わらず聖様だった。

「それじゃ、俺はこれで。」
「気を使うことないのに。」
「いや約束があるから。」
「ごめんね。ありがとう小林君。祐麒によろしく。」
「うん。じゃあね、祐巳ちゃん。」
「可愛い彼女見つけなよ。」
「はい、ありがとうございます。」

小林君は振り返らずに手だけ振って去って行った。

「良さそうな子じゃないの。いいの?、祐巳ちゃん。」
「ええ。どんなに素敵な人でも男の人じゃ駄目なんです。聖様には分かるでしょう?。」
「まあね。でも祐巳ちゃんがそうなっちゃうとは思わなかったな。」
「ええ、高等部の頃は私は全然子供でしたから。」
「そうだね。」
「あれ、否定してくださらないんですか?。」
「否定して欲しかったの?。」
「いいです、もう。」
「あはは、可愛いなあ祐巳ちゃんは。…いっそ、私のものにならない?。」
「ごめんなさい。それは嬉しい申し出ですがもうしばらく時間をください。」
「時間か、失恋旅行にでも行くとか。」
「えっ、どうしてご存知なんですか?。」
「いや、あてずっぽうなんだけど。分かりやすいね君は。」
「どうせ単純ですよ。」
「あはは。何処に行くの?。」
「ヨーロッパを少し回ってこようかと。」
「私も行こうかな。」
「え?。」
「いや、冗談。」
「聖様、今付き合っている方は?。」
「いないよ。」
「あの。」
「カトーさんとは友達だし、栞とは二度と会わないって決めたからね。」
「じゃあ。」
「うん、今の私には祐巳ちゃんだけ。」
「またあ。あ、タクシー来たのでもう行きます。ごきげんよう聖様。」
「ごきげんよう祐巳ちゃん。待ってるから、待ってるからね。」
「はいはい、ちゃんとお土産買ってきますよ。」


遠ざかる祐巳の乗ったタクシーを見送りながら聖は呟いた。

「やれやれ、本気なんだけどな。」


タクシーの中で祐巳はハンカチで目を拭いた。

(ごめんなさい、聖様。やっぱり気持ちの整理がつかないうちは甘えるわけに
はいきません。)

飛行機の音が聞こえた様な気がして窓から空を見上げる。

(お幸せに。お姉様。)




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こんな良いタイトル、もらっちゃって良いのだろうかと思いつつ。
無謀にもまた来てしまいました。ぺこり。


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