【1516】 くせっけ無敵!あるかそんなもん!  (砂森 月 2006-05-22 21:16:12)


勝手に始めてみた未使用キー限定タイトル1発決めキャンペーン第1弾。
いきなりこんなの出ちゃいました。
全てはキーのせいです。ええ、そうですとも(何)。



 祐巳さんの髪はくせっ毛だ。
授業のノートを取りながら、ふとそんなことが頭に浮かんだ由乃は、
今開いているノートのページと下敷きの間にメモ帳を挟み込ませてちょっとした妄想に耽っていった。


(例えば)

 祐巳さんのくせっ毛がものすごく長かったら。祥子さまみたいにストレートにはならないんだろうな。
やっぱり2つにくくって、でも長いとそれでもはねてそうだから根元だけじゃなくて先の方でもくくっているかもしれない。
あるいは何カ所かでくくられててほうきみたいになっていたり……。

(ほうき?)

 頭の両サイドから2房の長い髪を垂らしている祐巳さん。ひとたび掃除の時間になればその髪の毛が大活躍。
他の人の倍のスピードでさっさか床を掃いてまわってあっという間に掃除終了。
まさに無敵のくせっ毛。

「ぷっ」
「どうしたの、由乃さん?」
「あ、なんでもない」
「そう」

 そこまで想像して思わず軽く吹き出してしまった。
隣の席の祐巳さんが小声で心配してくれたのを悪いなと思いつつ、由乃は再び妄想の世界に入っていった。


 というかさっきのはありえない。ほうきみたいな髪の毛ってどんなのだ。
そんなに長いと歩く時にもひきずるし、そもそもその長さで先に行くほど太くなっていたら不気味なことこの上ない。

(でも、例えば)

 そこまでじゃなくても祐巳さんの髪が長かったら。リボンは根元に1つずつ。長い髪が微妙にはねていて、
祐巳さんが教室を歩くと座っている人の鼻を絶妙に刺激して教室中でくしゃみの大合唱。
まさに恐怖のくせっ毛。

「ぶっ」
「ねえ、由乃さん大丈夫?」
「え? うん、大丈夫よ」
「そう」

 またしても吹き出して祐巳さんを心配させてしまったけれど、もう由乃の妄想は止まらない。
悪いなと思いつつ三度妄想の世界へ突入する。


 というかさっきのも多分ありえない。
祐巳さんはちょっと天然だけど普通の女の子だから髪の毛がはねているのを放っておくわけないし。

(でも、例えば)

 祐巳さんの髪が伸縮自在だったら。もうこの時点でありえないけれど妄想だから許して欲しい。
とにかく、もしも伸縮自在だったら。
床に消しゴムを落とした時なんかはかがまずに髪の毛でひょいと拾って、掃除で急ぐ時なんかは髪の毛も同時に使ってほうきを数本同時にとか。
寂しい時には祥子さまに抱きつくに留まらず髪の毛まで巻き付いたり、怒った時には髪が伸びて鞭のようになったり、
逃げようとしたら追いかけてきて巻き付いてきたり……。

「ねえ、由乃さん」

 またしても祐巳さんに声をかけられる。

「ああ祐巳さん、なんでもないよ」
「そうじゃなくて、さっきから何を描いているのかなって」

 あれ、さっきより声が近いような。それに聞こえてくる場所も違うし。
 隣の席を見ると祐巳さんはいなくて、それだけじゃなくて授業はいつの間にか終わっていて。
後ろを見ると祐巳さんがいつもの3割増しくらいの笑顔で由乃の机の上を覗いていた。
由乃の机の上には妄想しながら描いた祐巳さんの絵があるわけで、ということは……見られたーっ!?

「ねえ、何を描いていたの?」
「え、えっとね、その……」

 どっどどどどうしよう。祐巳さん顔は笑っているけど絶対怒ってるし、いつの間にかクラスメイトは遠巻きに眺めているし、
真美さんと蔦子さんは仕事道具片手におもしろそうにながめているし。

「あ、あのさ。こんな所でリリアン瓦版にネタを提供しなくても良いかなーって……」
「ねえ、何を描いていたの? 私とっても気になるんだけど……」

 駄目だ聞いてないーっ。令ちゃんに助けを求めようにもここには居ないし(居てもダメだろうし)、
こういうときは、こういうときは……。

「え、えーっと。江利子さま直伝の妄想、かな?」
「そんなわけあるかーっ」

 いや、江利子さまならありえるじゃないと思いながら。


 えーと、この後どうなったかは、祐巳さんの許可がないと話せません。とりあえずリリアン瓦版に載ることはありませんでした。
これ以上は訊かないで下さい、いや訊いたらダメです、本当に。だから訊かないで下さいよぉー。

(とりあえず強制終了)


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