【No:1054】、【No:1179】、【No:1194】の続きです。
第一印象は、何処にでも居る様な娘、だった。
(…つまらない)
自分がこの校舎で学んでいた頃から何度となく思ったこと。
リリアン女子学園中等部。
今日はその、中等部の学園祭。
高等部の学園祭と違って形式に凝り固まった、つまらない事この上ない行事。
リリアン中等部は何かと規則にうるさく、学園祭も派手なことはできないのだ。
それでも、私はこの学園祭を見て周らなければならない。
それが、高等部の生徒会長としての義務だから。
そう、このつまらない学園祭。
厄介な事に伝統がある。
何せリリアン女子学園は歴史が長い。
何時始めたのか判らないほど昔から、伝統という名の鎖があるのだ。
その伝統のひとつ。
高等部の山百合会の三薔薇様の訪問って言うのがあったりする。
ロサ・キネンシスはいいだろう。
彼女自身、結構な堅物だからこういう行事にも慣れている。
ロサ・フェティダもいい。
彼女はどんな暇なことにも幸せを見つけれる天然さんだから。
でも私は…白薔薇である私は、ちょっと違う。
暇なのは嫌いだし、反対に面倒なのも嫌い。
我侭だと、言うなら言え。
上の二人みたいに相当の変人でなければ、心の中では私と同じ考えを持っているはずだから。
その上、今私の身近では、ものすごく厄介なことも起こっている。
自分が認めた、物凄く可愛い(外には出していないつもりだけど、可愛がっているつもり)妹。
妹といっても、実際に血がつながっているわけではない。
まぁ、その辺は原作でも読めばわかると思うから、言わない(おぃ)。
その妹が、少し頭の痛い問題を抱えてるもんだから…
「はぁ……」
と、ついつい溜息を吐いてしまっても、誰も咎めはしないんじゃないかなぁ…と、思わないでもない。
「退屈ですか?」
と、ちょっと苦笑気味に、案内をしてくれてる娘が話しかけてきた。
ツインテールに髪の毛を束ねた、少し童顔の女の子。
初めに案内役として紹介された時には、何処にでも居るような娘だという感想にいたったけど。
なかなかどうして、肝が据わっている…というか、気後れという物は無いんだろうか?
私も押し付けられたから判るけど、薔薇様方の案内役は数ある仕事の中でも最も嫌な部類に入る。
中等部の娘にとって、高等部の山百合会、ひいては薔薇様は、憧れの対象であると共に畏怖の対象でもある。
高等部に入ってからもそのきらいはある物の、やはり中等部のほうがその程度は強い。
……幼稚舎、初等部では逆に、年齢が低すぎてそう言った物は無くなるのだけど。
私ですら、三年前にロサ・キネンシスを案内した時には多少緊張していたものだ。
でも、この娘には…なんていうか、そう言った物はまったく感じない。
異常なほどに堂々と。
学園祭を周る中の要所要所で的確な説明を入れてくれる。
それで居て淡々とした説明でもなく、たまに冗談も言いながらゆったりとした時間を提供してくれていた。
だからこそ、色々考えてしまうのだけど……
「ん〜……いや、退屈ではないよ?」
少なくとも、この娘の話を聞いている間は。
聞いた話を纏める時間を与えるためか、説明には絶妙な『間』が作られている。
でも、その『間』はやっぱり、興味の無いことより自分に関わる問題を考える時間となってしまう。
もし、この学園祭が今でなく、私の周りで問題が起き始める前や、問題が終わった後であれば……
この娘と周る学園祭はそれなりに楽しいものとなっただろう。
学園祭の内容自体はそうでもないのだけど。
何せ私たちがやっていた事と殆ど変わらないのだから。
「そうですか……」
私の答えに対して少し考え込むように、したのもつかの間で。
「結構長い時間歩いたから、少し疲れましたね。
少しゆっくりできる所へ行きましょうか?」
と、言って次のクラスへ私を導いていった。
そのクラスの出し物は、少し特殊だった。
簡単に言うと、貼り絵。
色紙を切って細かくしたものをドット絵の要領で張り合わせた、マリア様。
少し歪な出来ではあるけど、なかなか面白い出し物ではないだろうか?
正面の黒板一面に張ってあるマリア様の前には、2〜3人で座れるテーブルがいくつか置いてある。
なるほど。
校舎の隅に近い場所だけあって、このクラスには人は少ない。
テーブルについてゆっくり絵を眺めるような物好きは、それこそ一握り。
でもだからこそ、休憩にはもってこいの場所であるとも言える。
「どうぞ」
袋に入れてあった水筒から、紙コップにお茶を注いで、私の前に置く。
「ありがとう」
こういう状況も想定していたのか。
その心遣いに感心しながら、一口啜る。
うん。
「おいしい」
「ありがとうございます」
本当に、何処がと言うわけでなく、素直においしい。
今年入ってきた黄薔薇さん所の令ちゃんよりは劣るかもしれない。
でも、十分においしいといえる味だった。
おいしい紅茶を飲んで、しばらくまったりとした時間が過ぎる。
その間にも、数人の生徒が入ってきたり、出て行ったり。
基本的に外からの客が無いのが中等部の学園祭だから、やっぱり見に来るのは他クラス、他学年の生徒ということになる。
殆どの中学生に、絵を長時間見て楽しむなんて趣味を持つ人は居ないから、入ってきても一分もたたずに出て行く。
そんな時間の中で、私の対面に座って同じお茶を飲んでいた彼女が、ふと、声を上げる。
「そういえば」
言葉を少し区切り。
「聞いて良い事かどうか判らないですけど……何か悩み事でも在りますか?」
「え?」
少し驚いて、マリア様に向けていた視線を、彼女に向ける。
彼女は依然マリア様を見たまま。
「たいした事じゃないですけど」
何か、悩むような…いや、迷うような…かな?
そんな感じがしたんです、と。
やはり依然マリア様を見たまま。
「え……っと」
「もし、何か思い当たる事があるなら、少し話してみませんか?」
一人で抱え込むより、誰かに話したほうが楽になる事もありますよ?
マリア様を見たままの彼女の目が、そう訴えかけてくる。
「所詮、私はたまたま案内役に選ばれただけの中学生ですから。
何の力にもなれないし、何かをする事もできません」
でも。
「何も知らない、何も出来ない相手だから。
事情を知っている、頼ってくれる事をまっている人たちに話せないような事も、話せるような気がしませんか?」
といっても、本当に聞くだけしか出来ないですけどね、と。
また苦笑するように私の方に顔を向けた。
自分でも不思議な事だけど。
彼女自身言っていたように、何も知らない、何も出来ない筈の彼女。
三つも年下であるはずの彼女に。
私はぽつぽつと。
今自分の周りで起きている、自分が抱えている問題を話し始めていた。
妹と、その想いの人の話を。
その問題を。
何も知らないはずの彼女は、ただ私の方を黙ってみたまま。
それでも、なぜか話したくなる雰囲気で。
そう。
強要されているわけではない。
かといって、聞き流しているわけでもない。
ただ、聴く姿勢で。
私の話を聴いてくれていた。
そして。
全てのことを話し終わって。
「私には、どうしようもない事で、やっぱり関係ない話ですけど」
という前置きを置いて。
「私に話してくれた事は、本当は、向かう相手は違いますよね?」
この話を聴くべき人は他に居て、貴女もそれが判っている。でも、と。
「ただ、ひとつだけ。
人は、一人ではないんですよ?
もし、また迷う事があったら、私に話してくれても良いですよ。
もし、また悩む事があったら、私に話してくれても良いです」
だから、抱え込まないでください、と。
たったそれだけなのに、心の中で固まっていた何かがすっ…と解けていった。
そうだ。
そうだった。
私たちは、いつも支えあってきたんだ。
これは自分の問題だと、そう決め付けていたのは私だけ。
判っていたはずの答えなのに。
今までずっと正解を出していた答えなのに。
待ってくれている人たちが居るのに。
頼ってほしい人から頼って貰えないのは、迷惑をかけられるよりつらいのに。
今の今まで、完全に忘れていた。
「それでは、随分と長いことここに居たみたいですし、次に行きましょうか、白薔薇様?」
彼女は、その前までの話題が無かったかのように、自然に元の仕事に戻っている。
それが、何よりありがたかった。
自分が、その話題の中心に居るのではない、と。
自分が、ただの部外者に過ぎないと。
それは無責任のようで、でも、もう大丈夫だと。
そう私が思えるくらいに。
私の中の不安を全部、どこかへ持って行ってくれた。
後になって思う。
彼女は何もしてくれなかった、と。
ただ、誰もが知っている、誰も簡単には出来ない事が普通に出来ているだけだと。
彼女の名前を、私は覚えていない。
でも、それでもいい。
今は不思議な中等部の娘、それで良いと思う。
いつか、そう遠くない未来。
そう、たとえば…私の妹に妹が出来た時。
もう一度、会える様な気がするから。
だから、その時にもう一度、自己紹介から始めましょう?
後書き
お久しぶりです。
誰か覚えてる人居るかな?
今回は祐巳視点じゃないです
うーん…
ぐだぐだだなぁ…
言い訳するなら、パソが逝ったりして忙しかったから。
データ全部飛んだしねぇ…