【1520】 猫に教わる穏やかな放課後  (臣潟 2006-05-23 02:00:26)


【No:1492】【No:1500】【No:1511】と同じ世界でのお話……である必要はないのかな?


 頬を撫ぜる風に冷たさを感じるようになって久しい。
 色づいた葉も、気が早いものはその身を地に横たえはじめている。

 そらが、たかい。




 枯葉を踏む音が耳に楽しい。
 少しだけ浮かれながら、中庭を行く。
 秋深し、とはまだいかないけれど、世界が華やかに彩られるこの季節は嫌いではなかった。
 こころが軽い。
 まるで空に佇む雲のように。
 だから、薔薇の館はすぐそこにまで来ていた、けれど。
 少しだけ、ほんの少しだけ、より道してから行くことにした。


「お姉……さま?」
 まるで薔薇の館から隠れるように、太い木の根を枕にして寝息を立てていたのは、リリアンで誰よりも良く知る人だった。
 もう長いことそこにいるのか、たくさんの落ち葉で全身を飾っている。
 枯葉の合間を縫って、足音を立てないように近づく。
 その寝顔があまりにも穏やかで、その眠りを妨げるのは気が引けた。
 でも、風邪をひいてしまうかもしれない。
 手を伸ばしかけて、かさり、と音をたてて上げた顔と目が合った。
 ゴロンタ、と言っただろうか。
 お姉さまが助けたその猫は、少しの間私を見つめた後、そうすることに飽きたようにまたお姉さまの横に丸くなった。
 きっと、そこは彼女のための場所なのだろう。
 私のことを邪魔者とも思わなかったに違いない。これがあるべき姿なのだと、言っていたような気がした。


 お姉さまを起こしてもよかったし、そのままそっと立ち去ってもよかった。
 けど、少しだけ羨ましくて、少しだけ悔しかったから
 お姉さまをはさんで、彼女の反対側に腰をおろした。
 軟らかな土と葉の絨毯は思いのほかあたたかかった。
 彼女がまた顔を上げてこちらをのぞきこんできたので、今度は微笑み返してみた。
 私のほうがお姉さまに出会ったのは先なのよ、と。


 やっぱり彼女はすぐにその場に丸まってしまったけれど、それでいいのだと思った。
 マリア様のお庭の片隅で、私たちは一つの木の下に羽を下ろした。




あとがき
 もしかしたらいたかもしれないオチを望んでいた方、ごめんなさい。ほのぼの終わりました。
 私としてはこれまでの世界のお話のつもりで書いてたのですが、本編準拠でもまったく問題ないですね。
 ゴロンタ以外登場人物の名前が出てませんが……まあ、わかると思います。
 せっかく素敵なタイトルを得たのに、思い描いた情景の空気をうまく出せませんでした。
 精進あるのみ。


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