【1594】 姉貴出動二条祐巳  (タイヨーカ 2006-06-07 17:14:26)


 【No:1592】の続編。
 祐巳と乃梨子が実の姉妹という、超パラレルワールドでお送りします。








 祐巳姉ぇが菫子さんの家に来てから、早いことで2週間が経った。
 祐巳姉ぇは思ったよりもおとなしく、学園内でも今まで通りにあまり会わない。
実はリリアン女子大に行ってるのは嘘なのでは?と思うほどだったりする。

 …まぁ、大人しい。といってもそれは初日からの相対的な事で、
実際はそれはもうそれはすごいくらいに『祐巳姉ぇ』だった。
 一緒に住んでいた頃みたいに、百面相で、お姉さんっぽく振舞おうとする奮起っぷりもたまに見えて、
可愛いもの好きで、女の子も好きな、そんな祐巳姉ぇだった。

「ねぇねぇ、乃梨子さん」
「……なに、瞳子」
 そしてあの一件以来、瞳子がこれでもかと言う位に話しかけてくる。
やれ趣味はなんだとか、やれ彼氏はいるの?だとか。そんなの私が知るか!


「はぁ……」
「あら、どうしたの乃梨子。最近溜息が多いわよ?」
 そんな回想を繰り広げていると、志摩子さんが心配そうに私を覗き込んできた。
 そうだった。今は志摩子さんと桜の木下でお弁当を食べているんだった。今だけは祐巳姉ぇのことは忘れよう。
私には、志摩子さんがいるんだしね。実の姉より姉らしいとはこれいかに。

「ううん。なんでもないよ志摩子さん」
「……ふふ。もしかして、祐巳さまのことかしら?」
 ドクッ!っと、鼓動が少しだけ早まった。
志摩子さんはエスパーだったのか?超能力者?むしろ私がサ○ラレ?
「な、なんで分かったの?」
「それは、乃梨子のことだもの。見れば分かるわ」
 うわぁ、志摩子さんってば今日はどうしちゃったんだ!
もしかして志摩子さんってば祐巳姉ぇに激しい嫉妬感を…
「顔が、考え事してるときの祐巳さまそっくりだったもの。
そういう時の祐巳さまも、乃梨子の事を考えてる時だったわ」
 ……うん、だよね。ちょっと気が早いよね。
 というか、今聞き捨てなら無い言葉があったような。
志摩子さんって、祐巳姉ぇのそういうところちゃんと見てるのか……なんか意外と言うか、ちょっとだけ……なんだろう。
「(ショック?志摩子さんに?祐巳姉ぇに?)」
 なんて考えながら、私は何を考えてるんだと頭をポカリと一度叩いた。
 とりあえず、目の前の弁当を処理することにしよう。



「…あ」
「あら、どうしましたの乃梨子さん」
 昼食も終えて、さて次の授業は体育だ。って時に……
「た、体操服忘れた……」
「え?だ、大丈夫ですの?私の貸しましょうか?」
 …それだけは遠慮しよう。瞳子じゃいろいろと違いすぎる。
と、口に出すと瞳子がちょっと不機嫌になるのでそこは極力抑えておく。
「でも、どうしましょうか……」
「しょうがないよ。先生に言って今日は見が…」
「ノ―――――リィ―――――!!」

 教室中に、悪魔の声が響き渡った。
 なぜ、今なんだ!?よりによって、初めてがなんでこういう場面なんだ!?
混乱する頭を抑えながら、私は出入り口に佇むあの歳に会わないツインテールをした悪魔を睨みつけるのだった。
「ゆ、祐巳姉ぇ!なにしにきてんだ!!」
「な、なによ。そんなに怒らなくても…ノリが忘れ物したから届けに来たのに」
 いや、確かに怒鳴りつけたのは流石に悪いと思ってるけど、クラス中の人が睨みつけることはないだろうに。
というか、瞳子が一番殺気付いた睨み方をしてくるんだけど……

「もぅ…怒鳴って悪かったから、体操服ちょうだい」
「はいはい。困った妹を持つとつらいなー」
 そんな心のソコから面白がってる笑みはやめて欲しい。
「あの、祐巳さま。ごきげんよう」
「あらあら瞳子ちゃん。ごきげんよー」
 ちゃっかり会話に参加しに来たか松平。
「今日は学校はいいんですの?」
「え?うん。もう終わってるからさ。ついでにノリの運動姿でも見ようかなーって」
「やめてよ。ホンットに」
 マジで。切実に。
「いいもーん。じゃあ瞳子ちゃんの体操服姿でも目に焼き付けておくんだから」
「まぁ!それくらいお安い御用ですわ!祐巳さま!」
 あぁもう!本当にどうしたんだ瞳子!!
 まぁ、どうせ先生が許可しないだろう。なんて甘い考えを浮かべた私は、「もう勝手にしなよ」と言い残して、
体操服へと着替えた。



 ……本当に、なんなのだろうか今日と言う日は。
 先生は、あっさり祐巳姉ぇの見学の許可を下すと、グラウンドの角の方へ案内していった。
なんでだ。私の実姉だから?リリアン女子大の生徒だから?
「あれ、乃梨子さんのお姉さま?とても素敵ね」
「はは……そうでしょ?」
 なんだか、もう今日はこういう日なんだなー。と自覚しちゃったので、もうそのまま行くとこまで行く事にしよう。
さっきからやけに瞳子の視線が痛いけど、気にしない。

「乃梨子さんは、どうしてそんなに祐巳さまを悪く言うんですの?」
「へ?」
 今日の体育はなぜかソフトボールだった。女子だけでやって楽しいものだろうか。
「関係ない事は考えないでください!」
「ちょ、勝手に人の心の中を読むな! というか、何。突然」
 私の答えがおもしろくなかったのか、瞳子はブスッと頬を膨らます。
やや。これは瞳子の女優技がその12『瞳子、怒ってますわよ?』か。厄介な技を持ち出してきたものだ。
「んー……いや、別にこれといってあるってわけじゃあ……しいて言うなら、小さい頃から無茶に突き合せれたくらい?」
 祐巳姉ぇは、あれでいてなぜか行動がアグレッシブだ。よくそんな性格でリリアンを受けようなんて
思ったのだろうか。一番の謎だったりする。
 あれ?っていうか今自分でも疑問に思った。なんで、私はこんなに祐巳姉ぇを邪険するんだろうか?
なにかトラウマとかおわされたっけ……?
……まぁ、どうせ無茶させられた事が未だに尾を引いているんだろうな。うん。

 瞳子はというと、その答えにもふてくされたままだった。
「もぅ、どうしたいの瞳子は」
「私は…乃梨子さんがずっとそんな調子だったら、祐巳さまも……乃梨子さんも。苦しいんじゃなかって…」
 ふん。と拗ねたように私から視線をそらす瞳子。だけど、顔は耳まで真っ赤だし。
 なんというか、ちょっとだけ瞳子を勘違いしていたのか。私は。
 そりゃあ祐巳姉ぇっていう因子だけで大親友なんていう位置におかれるわけはないよなー。
なんて考えるのは、ただの自意識過剰なだけだろうか。

「それに……」
「それに?」
 いや、うん。なんかオチっぽいけどさ、一応聞いておいた方がいいしね。

「もしこのままだったら、私が祐巳さまと遊びに行くたびになにか小言言われそうで嫌じゃないですか。
そんな小姑みたいな……」
 …頬を赤らめて。クネクネクネクネと………

「祐巳姉ェェェェェェェェェエエエエエエエエエエ!!!!瞳子になにしやがったァァァァァアアアア!!!?」


 で、私はその日祐巳姉ぇと一緒に生徒指導室に呼ばれたり、そのまま祐巳姉ぇと紅薔薇さまの初対面に
立ち会ったりと、いろんな事件が起きたせいでもうクタクタだった。
 とりあえず、こんな事が起きちゃうから祐巳姉ぇが嫌いなんだ。
なんて、人に罪を擦り付けつつもそうやって心の平穏を保とうとする私は、多分悪い子なんだろうな。憂鬱だ。



《続くのか?》


一つ戻る   一つ進む