【1596】 滅び逝く・・・ロサ・フェテイダ  (丹下事務 2006-06-08 20:48:19)


またもや生煮えで他愛のない内容ですが・・・『滅び逝く』の主観的直感的イメージ
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とある日曜日、K駅周辺で祐巳さんとばったりと出会った。

「今日は、中古のLPを漁りに来たんだ。由乃さんは?」

「私は令ちゃんのお守り。まったく、あの年になってもまだ私と一緒じゃないと服を買いに出かけられないのよ。困ったものよ。まあ、その仕事も一段落したんで、令ちゃんを喫茶店に放置してこれから本屋に行くところ」

 何故にLP?というツッコミを抑え、うんざりとした面持ちでそう言う由乃に、祐巳は驚きを顔いっぱいに露にして訊いた。

「え!?あの令さまが!?なんで?」

「以前ね、令ちゃん、張り切って自分で服買って、大失敗したことあるのよ」

「へえ。じゃあ、所謂トラウマってやつ?」

「そんなとこね。ほら、令ちゃんて基本はヘタレで少女趣味でしょ。だから、選ぶ服も『女の子です!』って感じのばっかなのよ」

「そ、そうなんだ…」

 祐巳さんの顔は『でも、へタレは関係ないんじゃ・・・』と訴えているけど、問答無用の事実だからスルーした。

「確か令ちゃんが中等部三年のお正月だっかな。お年玉片手に張り切ってファッションビルに単騎突撃したわけよ。
帰ってきた時も、そりゃもう『討ち取ったり!』って顔だったんだから。
でね、勢い余って支倉・島津両家が勢揃いしている正月の居間でファッションショーをやっちゃったんだなこれが」

「令さまってそんなキャラだっけ?」

「基本はそうよ。だから言ったじゃない。ヘタレだって。
でね、障子開けてご丁寧に『ジャーン』なんて効果音つけて登場したのが、どんな生き物だったと思う?
なんと、花だか鳥だかの柄をしつこい位あしらったフリフリのワンピースに身を包んだ女装女剣士だったのよ」

 こりゃ傑作とばかりに手を打つ。この辺、時代小説や時代劇によくいる町角の啖呵売だかなんだかの影響を多分に受けている、と思われる。

 しかし我ながら「女装女剣士」とは上手い事言うなあと思った。そして案の定、祐巳さんはあっけに取られているご様子。
 
 そりゃ、令ちゃんと知り合って1年以上経つんだからある程度令ちゃんの性質は解って来てるとは思うが、この話は相当に意外だったらしい。
 
 確かにこんな話、剣道部員とかに流布出来っこない。あれでも慕っている生徒はいっぱいいるわけだし、令ちゃんのためでなくあくまで彼女達の夢を壊さないために。

「そ、それで?トラウマになる出来事って、もはやその後の展開が想像できるんだけど・・・」

「そりゃもう、一瞬にして正月気分が凍りついたわよ。叔父さんなんか、結構でき上がってたのに一発で酔いが醒めちゃって。お母さんなんかビールをお酌した状態でフリーズしちゃったもんだから、ビールがジョッキから溢れちゃうし。私は幸いにも鋭い先見の明を持っていたから、令ちゃんが一人で服を買いに行った時点で覚悟は出来ていたけどね。でも、実際に目の当たりにすると、それはそれは凄まじかったわ。」

「・・・で、由乃さんがズバッと切り捨てたと」

「あら、祐巳さん。なかなか鋭くなってきたじゃない。と言いたい所だけど、惜しいなあ。残念ながら私じゃありません」

「へ?」

 由乃さん以外に誰が?という顔だ。

「ダークホースがいたのよ。思わぬところに。
我が両家の新年会では、毎年誰かが一発芸をやるのよ。とは言っても、手品とか、カラオケ一曲披露とかそういうのね。祐巳さんレベルには足元にも及ばないちょっとした芸よ」

「私レベル?」

きょとんとする親友。あら、もうご失念なのかしら?あれは山百合会の伝説として受け継がれていくものなのに。

「ずばり、山百合会名物『安木節』!」

人差し指をズビッと祐巳さんに向けて言い放つ。当然、祐巳さんの反応を見込んでのことだ。

「ああ、なーるほど・・・って、山百合会名物!?」

「安木節保存協会から感謝状が出ても不思議じゃないわね」

 そう言うと、祐巳さん満更でもない顔。マジかよ。

「こほん。…で、支倉・島津両家恒例の一発芸大会がどうかしたの?」

からかわれた祐巳さんは、わざとらしく咳をして(彼女なりの)威厳を正した。

「毎年、令ちゃんは器用だから、何かしらの一発芸を披露するんだけど、それを勘違いして私のお父さんが言っちゃったんだ」

またすぐに威厳を捨て去り、祐巳さんは焦らされてうずうずとしている。

「・・・なんて?(ゴクリ)」




『や、やあ令ちゃん。今年の一発芸も冴えてるねえ』

その瞬間、その場の空気が観測至上最低気温を記録したのは言うまでもない。


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