もうそろそろ雪でも降りそうな曇り空の期末試験後。
明日から試験休みだけど、とりあえず午前中は部活動で登校しなければならない。
なんとなく中途半端な日々になりそうだ。
窓の外を眺めながらぼんやりとしていると、数名のクラスメイト達がいつの間にか私の机を取り囲んでいた。
「何か御用かしら?」
最近、瞳子さんや乃梨子さん絡みの話を直接本人に言わず、遠まわしに私に言ってくる人が増えたから、この人達もそう言う類の相談なんだろうか。
「あのね、可南子さんは以前は共学の学校に通われていたのですよね?」
「えぇ、そうですが。それがどうかしましたか?」
「男の方とお付き合いされたことありますの?」
いったいこの人は何を言っているのだ?私が男と付き合うなんてありえない。
そう言う話なら男嫌いの私よりも乃梨子さんの方が豊富ではないだろうか?
「はぁ?」
「いえ、その・・・そろそろクリスマスで、ちょっと男の方との付き合い方というものを教えていただきたいな、と」
「ちょ、ちょっと待って。共学だからって全員がそういう付き合いがあるわけでは無いわ」
「それでも、私達よりも色々とご存じだと思いますの。何かためになるお話を聞かせていただけないかしら?」
「そう言われても・・・」
リリアンの生徒の中にも他校の男子と付き合っているのが居るということなのかしら。男に免疫の無い彼女たちは私が経験豊富とでも思っているのだろうか。
「私は中学まではバスケに打ち込んでいましたし、クラスメイト以上の付き合いのあった男なんて居ませんわ」
「いえいえ、直接お付き合いされたことが無くても、どなたかお知り合いの方のお話とか」
知り合いの話?
「学園祭では山百合会の方々と一緒に、花寺の男性と舞台を演じられたのですから、そちらの噂とかありませんでしたか?」
ふーむ、花寺の生徒会メンバーの印象くらいなら記憶に残っていますが。
「そうですね、まぁ、男性というのは注意し過ぎるくらいに接する方が良いかと思うくらいですね」
私を取り囲んでいるクラスメイト達がぐいっと身を乗り出してくる。
「とりあえず、女の子であれば誰でも良いからお付き合いを、という男も居ますし」
「誰でも良いなんて酷い方ですね」「「「「ですね」」」」
小林さんのメガネの奥から獲物を狙うような目はゾッとします。
「お付き合いをしたいというよりも、自分をアピールしたいだけという妙な方もいらっしゃいますが」
「まぁ、それでは寂しいですわ。自分を見ていただけないなんて」「「「「なんて」」」」
高田さんや薬師寺兄弟は自己アピールの方向性がおかしいのではないかと思いましたわね。
筋肉に興味の有る女性というのは相当に珍しいと思うのですが。
「まったく女性に興味が無い・・・というか、興味の方向性が変な方もいらっしゃいましたわ」
「それはお付き合いというよりもお友達になりたいということでしょうか?」「「「「でしょうか?」」」」
アリスさんは女性とお付き合いしたいと言うよりも、女性になりたいという奇特な方ですわね。
「でも、そういった方々は可愛い方ですわね。自分の父親と同じくらいの歳だし、結婚して子供も居るというので安心していると、気がついたらお腹に赤ちゃんを宿していたなんて事もありますからね」
まったく、お父さんの節操の無さは呆れ返ってものが言えませんわ。まぁ、お母さんも合意していたし、次子も可愛いから許しますけど。
・・・あ、周りがみんな引いてる。
「ま、まぁ、全ての男性が最低な存在ということでもないですわ。細やかな心配りが出来て、誠実な方も確かにいらっしゃいます。かなり稀ですのでうまく巡り会えるかどうかは難しいところですが」
「ふむふむ、つまり焦らずゆっくりと殿方を見定めなければならないのですわね」「「「「ですわね」」」」
福沢祐麒さま、あの方だけは特別。祐巳さまに似て優しい雰囲気を纏っていましたし、抵抗感が少ない貴重な方でしたわね。
「さすがは可南子さん、大人ですわ」
「えぇ、貴重なお話をして頂いて助かりますわ」
「シスターたちがおっしゃるように、やはり男性には簡単に気を許してはいけないということですわね」
いや、男嫌いの私の意見は自分でも偏ってると思うんだけど。周りではしゃいでいる彼女たちは気づいていないだろうな。
「可南子さん、経験豊富ね」
って、乃梨子さん、ニヤニヤ笑いながら顔を出さないでください。
「敵を知り己を知らば百戦危うからず。男嫌いだといいながらも詳しいんだ」
あら、そんな事をおっしゃるんですか?それなら、私よりも経験豊富な乃梨子さんに、この方達を引き取っていただきましょうか?
「いえいえ、私など乃梨子さんの経験に比べればまだまだですわ。白薔薇さまにもお聞きしたことがありましてよ。乃梨子さんにはずいぶんと親しいボーイフレンドがいらっしゃると」
「げっ!なんでそれを!?」
ほらほら、そんなことを言うから私の周りに居た方達の視線が全て、乃梨子さんに集まっていましてよ。
「「「「「乃梨子さん!是非、お話を!」」」」」
あらあら、乃梨子さんが両腕を捕まれて連行されていってしまいました。
リリアンの乙女といえど人の子、こういう話題は好きなんですね。部活動が終わったら先輩たちとこうやって盛り上がるのも良いのかも。
中途半端だと嘆くよりも、たまには自分から動いて楽しむのも悪くないかも知れませんね・・・。