【No:156】はみだしレイニー止め 篠原さまの続きです
古い温室から走り出しかけて、ふと乃梨子は立ち止まる。
(私ったらいったいなにをやってるの?)
瞳子を追ってきたはずじゃないか。志摩子さんが瞳子をなぐさめているのなら、なぜ逃げなきゃいけない、乃梨子。しっかりしろ。
なんだかぐちゃぐちゃになった想いの整理のつかないまま、とにかく傘をさしなおして温室へ戻る。でも、中へ入れずになんとなく扉からのぞき込む乃梨子。
瞳子はまだ、志摩子さんの肩にもたれて泣いているらしい。
動けない。
† †
「令ちゃん?いつまで部活に顔を出すつもりなの?」
「そうだなあ、年が明けて自主登校になったら、」
「なったら?」
「毎日びしびし由乃を鍛えてあげる。」
薔薇の館へ寄っていく二人。
「うー。早々と推薦入学が決まったからって、なによその余裕。」
「黄薔薇さまが部で一番弱いんじゃ、かっこがつかないでしょ。」
「もうっ。ちさとさんにだって10回に3回くらいは勝てるんだから。」
「はいはい。だれが大将になって田中さんを倒すんだっけ。」
「令ちゃんのいじわる。」
「ごきげんよう。」
「ごきげんよう、祐巳さん。」
「あ……ごきげんよう。」
ぼーっと窓の外を眺めていたらしい祐巳。
「どうしたの?」
「うん、瞳子ちゃんにね、ひどいこと言っちゃった。」
「私たちでよければ、話を聞くわよ。」
† †
「乃梨子。」
「えっ?」
気づかれた?
「いるんでしょう?そこに。こっちへいらっしゃい。」
こうなってはどうしようもない。古い温室の中へはいる。
ぴくん、と志摩子さんから離れてうつむく瞳子。
「ふふふ。瞳子ちゃんに嫉妬なんて、乃梨子らしくないわね。」
「お姉さま!」
「言いたいことを言ってご覧なさいな。」
「お姉さま、じゃあお姉さまは平気なんですか。この前、聖さまに会ったときに『スキンシップ』っていうのをされましたよ。祐巳さまにいつもあんなことしてた聖さまをお姉さまは黙って見てたんだ。」
「そうよ。わたしはお姉さまにうまく甘えることができなかった。だけと私のお姉さまは聖さまひとり。それを見失わなければ怖くないのよ。そもそも乃梨子。あなただったら瞳子ちゃんをここへ追ってきてどうしたと思う?」
「え……」
「なにかなぐさめる言葉でも思いついた?」
「……志摩子さんと同じことをした……と思う………。」
「ふふふふふ。お姉さまが志摩子さんに戻ったわね。」
「志摩子さん……やっぱり志摩子さんってすごいや。」
瞳子は黙ってうつむいたまま聞いている。
「で、瞳子ちゃん。ひとつ聞いていいかしら。」
「はい、白薔薇さま。」
「あなたは、祐巳さんのことが好き?」
「好きです。」
「じゃあ、大丈夫よ。」
「え……。」
「そう素直に言えるならもう何がきても怖くないはずよ。」
「はい。白薔薇さま。」
「もう遅いわ。帰りましょう。」
「瞳子、ほら、鞄持ってきたわよ。それと折りたたみ傘。」
「乃梨子さん……。」