【1648】 約束の時が近づく身を焦がす未練さよならだけが人生  (ROM人 2006-06-29 16:04:20)


※この話はオリキャラメインのリリアン話です。
  かなり、悪のり入ってますので関係各所の皆様にはあらかじめごめんなさいと言うことで……。


「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
 爽やかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
 マリア様の庭に集う乙女達が、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
 汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
 スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻られせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしな……。
「おっはよー。 良♪」
「……お姉さま、いきなり朝っぱらから飛びつかないでください」
 金色の腰までありそうな長い髪を二つに縛った、俗に言うツインテールにいつもの青いリボン。
 外国人の母を持つこの人は、私のお姉さまと言っても実の姉妹ではなくこのリリアン女学園の姉妹制度上の姉である松野芽衣さま。
 中学卒業前に日本に戻ってきたばかりのバリバリの帰国子女でご覧の通り、この学園の生徒とは思えないぐらい元気が度を超している。
「それに、挨拶はごきげんようですよ。 お姉さま」
「うーん、何か堅っ苦しくて嫌」
「お願いですから、挨拶だけでもこの学園のルールに則ってください」
「なんか、良の方がお姉さまみたいだねっ」
 私のお姉さまは、いつもこんな感じだ。



 お姉さまといつものやりとりを済ませて、教室へ向かいクラスメイトの笙子さんに挨拶すると担任がやってくるまでしばらく話し込んだ。
 最近彼女の話は、決まって2年生の武嶋蔦子さまの話が多い。
 今日も、1週間後に迫ったバレンタインデーに蔦子さまにどんなチョコレートを渡したらよいか、どうやって渡そうかなど色々相談された。
 どう見てもお似合いの二人、でもいつになっても笙子さんが蔦子さまからロザリオを受け取ったという話を聞かない。
 もしかしたら、すでに受け取っているけれどみんなには内緒なのかしら。
 担任の先生がやってきて、自分の席に戻る笙子さんを見ながらぼんやりとそんなことを考えていた。

 バレンタインデー……か。
 バレンタインデーと言えば、普通は女性から男性へチョコレートを渡して告白するのが一般的だけれど、ここリリアン女学園では主に妹から姉にもしくは親しい上級生へ渡すのが一般的である。
 ふと教室を見渡せば、みんなどこか一生懸命数学の公式を説明する先生を見ているようでどこか別の所を見ているような気がする。 考えることは皆同じ。
 赤信号、みんなで渡れば恐くない。
 ……こ、恐くないもんね……つ、追試なんか……。
 (注:バレンタインの前ちょっとぼんやりしたぐらいでは、普通追試にはなりません。 普段からぼんやりしてるからで………(何者かに撲殺される天の声))
 ふぅ、なんかいいストレス解消が出来たような気がする。
 まあ、それはいいとしてお姉さまにバレンタインデー何をあげようかなぁ……。



「新聞部と山百合会主催のバレンタインデーイベント?」
「そうですわ」
 クラスメイトの翠さんが、リリアン瓦版を手に目を輝かせている。
「去年もそういえばあったよね」
 新聞部と山百合会が主催となり蕾の方々が隠したバレンタインデーカードを探し出し、見事探し出した人はそのカードの蕾と半日デートが出来るという、私達のような一般の生徒からすると夢のようなイベントだ。
「翠さんは参加されるの?」
「ええ、良さんは?」
「そうだなぁ、私はお姉さまが居るし。 お姉さまへのバレンタインデープレゼントに全力を尽くすわ」
「へぇ、いいわねぇお熱いことで」
 翠さんはいたずらっ子が獲物を見つけたような顔で私をからかい始めた。
 ちなみに、翠さんは未だ独身貴族。
「もう、からかわないでってば。 で、翠さんは何色のカードを狙ってるの?」
「んと、……白」
「え、白って……椿組の乃梨子さん?」
「そう……。 紅薔薇の蕾も黄薔薇の蕾も素敵だけれど、私は彼女に興味があるの」
 そう言った翠さんの頬はほんのり赤く染まっていて……それは。
「ねえ、もしかして翠さんがお姉さまを持たないのって……」
「内緒♪」
 反撃のチャンスと思いきや、翠さんはさっと逃げるように自分の席に帰っていった。



 うーん、やっぱり……。
 両手にぎっしり買い物袋を提げての帰宅。
 もちろん、中味はこれから作るチョコレートの材料がぎっしり詰まっている。
 え? 多すぎるだろうって?
 これから、練習なんです。 ……本番まで。
 自慢じゃないですけど、お菓子作りなんてまるっきりやったことがありません。
 料理はインスピレーションと度胸、失敗しても泣きません、な私に繊細なお菓子作りなんて出来るかぁ(ノ ̄□ ̄)ノ ~┻━┻
 ちまちま計量して料理なんて無理です。
 普段は何故かしっかり者に見えるらしい私ですが、実際はこんな所です。
 セミロングに眼鏡ってしっかり者の記号なのかしら……あ、あとお姉さまのせいもあるかも。
 ぶっ飛んでるお姉さまをフォローしているしっかり者の妹に見えているのかしら。
 人に物を頼まれると断れない性格もそれに一役買っているかもしれない。
 というわけで、故意に猫をかぶっているわけではないので騙されたとか言わないでくださいね(はあと)


 ……で、人体錬成って禁忌ですよね?
 私、真理の門とか見てないんですが……何故かお鍋の中から手が出てきて………なんか人の頭が………あ……目があった。

 って、【No:1644】の翠さんのSSじゃないんだから辞めてよ!
 こら、鍋から出てくるなぁぁぁぁ!!!!


 はぁ……はぁ……はぁ……。
 おかしいわ、人体の錬成には『水35リットル、炭素20圈▲▲鵐皀縫■乾螢奪肇襦∪亞ィ院ィ記圈▲螢鵤牽娃悪圈塩分250グラム、硝石100グラム、硫黄80グラム、フッ素7.5圈鉄5グラム、ケイ素3グラムとその他15の元素少量』を……って、何私は錬成陣とか書いてるんだぁぁぁ!!!
 
 私、良は普通の女の子です(はあと)

 そんなこんなで台所を腐海へと変貌させた私は、帰ってきて台所の有様を見てショックで倒れちゃったお母さんを介抱したり、そのあと気がついたお母さんに死ぬほどお説教を受けたりしつつ、今後のキッチン出入り禁止もなんのその、お姉さまのために頑張ってチョコレートを作り続けるのでした。
 でも、なんでチョコレートが落ちた場所の床が溶けたりするんだろう……。
 お店で売ってるのはそんなことないのに、これも愛の力?

 かわいい女の子ってのは、愛する人へのお料理は味見をしないのが基本ですっ!
 アニメや漫画で仕入れた知恵です。


 ……とか、ふざけてる場合じゃなぁぁぁぁぁぁぁい!!!!
 こんなの食べさせたら、マジでお姉さま死んじゃうってば。
 やっぱり……バレンタインコーナーに売ってる完成品をあげた方がいいよね? お姉さまと私の幸せのためには(涙)





 そんなこんなで、明後日がバレンタインデーです。
 結局私は、デパートで一番気に入った物を選んで買ってきました。
 だって、それしか手はなかったんだもん。
 お母さんには今後キッチンに足を踏み入れたら刻むよ?と包丁を突きつけられました。 目が本気でした。
 手作りじゃなくても。
 気持ちさえ篭もっていればいいよね?
 私は、いろいろあったこの数日の出来事を走馬燈のように思い出しながら、机の上のチョコレートを見つめた。
 きっと、お姉さまは喜んでくれるはず。
 そう、それでまた今までよりもずっと仲の良い姉妹になれるんだ。
 だって、私はこんなにもお姉さまのことを大好きなんだから。
 
 私は、チョコレートを渡した時のお姉さまの喜ぶ顔を思い浮かべながら少しだけ前払いの幸せ気分を味わった。




「良さま!」
 明日をバレンタインデーに控えた放課後。
 お姉さまに贈るチョコレートの準備だと、お姉さまに置いてけぼりを食わされてしまった私は一人寂しくマリア様に手を合わせていた。
 うう、そうだ……忘れていた。
 お姉さまにはさらにお姉さまである琴吹 邑(ことぶき ゆう)さまが居たのだった。
 お姉さまのお姉さまは妹にとっては恋敵。
 それはリリアンの伝統なのだ。
「良さまってば!」
 なんか、体が揺れる。
 地震だろうか。
「良さま!!」
 見ると、知らない女の子が立っていた。
「どこが知らない女の子ですかっ!」
「何処かで会った?」
「……泣きますよ。 それも声を上げて」
 この弄りがいのある女の子は、中等部の3年生で家が近所の七瀬空(ななせクゥ〜)ちゃん。
「空(そら)です! ……確かにあだ名はクゥ〜ですけど」
「……だから、空ちゃん。 モノローグにツッコミ入れないでよ」
「良さまだって、上の方で天の声をしばき倒してたじゃないですか」
「それはそれ」
「で、なに? 何か用?」
 すると、空ちゃんは鞄の中から綺麗に包装された包みを取り出して……
「え? それ……私に?」
 小さい頃からの腐れ縁。
 そんな彼女が私のことを好きでいてくれたなんて……。
 そうか、来年は彼女も高等部。
 すると……これは、もしかして……4月になったら自分を妹にして欲しいというアピールなのでは?
「あ、ありがとう。 私、あなたの気持ちに少しも気づいていな……」
「ストップ! 良さま。 これは良さま宛じゃありません!(きっぱり)」
「へっ?」
「明日はバレンタインデーですよね。 良さまは高等部。 そこで良さまにお願いがあるのです」

 聞けばこうだ。
 憧れのバスケットボール部の熊沢ひとみさまにこの彼女お手製のチョコレートを渡して欲しいのだそうだ。
「自分で行けば?」
「無理……中等部の生徒にとって高等部は難攻不落のたけし城」
 ……あんたは高等部をどんなところだと思ってるんだ。
 水鉄砲でびしょびしょにしたろか。
「お願い、この通り。 高等部で頼めるのは良さまだけなんだから!」
 う〜ん、熊沢ひとみさまと言ったら2年生。
 同じ高等部とはいえ、先輩のお姉さまの所へ行くのは大変なんだからね……。
 でも、頼まれると断れないんだよね。
 しかたない、かわいい後輩のために一肌脱ぐか……。
「わかったわ、ただ渡せばいいのね」
「やったぁ、良さまありがとう♪ あ、これ良さまの分」
 手渡される、ひとみさまへのチョコレートと見比べるとあまりにも小さなそれは『義理』というオーラを滅茶苦茶はなっていました。
 ……来年度になってお姉さまが見つからなくても絶対妹にしてやるもんかとちょっと思った。
 それでも、頼まれごとは頼まれごと。
 我ながらお人好しだなと思いつつ、彼女のチョコレートを鞄にしまい帰宅する。
 こんな事、やってる場合じゃないんだけどなぁ……。
 明日、お姉さまに渡すチョコレートもちゃんと鞄に入れて、準備万端。
 何となく、忙しい一日になりそうな予感を感じて今夜は早く眠ることにした。



 バレンタインデーの当日は、何だか少し曇っていてまるで雨でも降りそうな空だった。
 雪でも降ればちょっとはロマンチックなのに、どっちかと言えば多分雨。 そんな空だった。
 マリア様に手を合わせ、来年もお姉さまと幸せに過ごせますようにとお祈りする。
 普段とは違って何処かそわそわしている生徒達の波に乗るように校舎へと足を向ける。
 チラッと後ろを振り返れば、早速朝っぱらからチョコレートのやりとりをしている姉妹の姿が見えた。
 早くすませてしまいたい気持ちもわからないでもないけど、こういうのは放課後がやっぱりいい。
 渡した後、時間が許す限り一緒にいられるから。
 渡してすぐ、始業ベルに引き裂かれ授業中を悶々として過ごすのはやっぱり嫌だ。
 まあ、渡すのを放課後にしたからといって授業に集中できるはずなど無いのだけれど。


 終業を知らせるチャイムと共にみんな一斉に教室を飛び出していく。
 それでも、スカートのプリーツは乱さぬようにセーラーカラーは翻らせないように。
 チョコレート渡しに行った先でお姉さまに注意されたのでは本末転倒だから。
 私は、とりあえず空ちゃんからの頼まれ物を手に一路椿組へ。
 2年生の教室を直接訪ねるのはやっぱり勇気がいるので、同じバスケットボール部に所属する細川可南子さんに取り次ぎを頼むことにしたのだ。
 椿組の教室を訪ねると、可南子さんはちょうど鞄を手に部活に向かうところだった。
「え? ひとみさま? えっと一号さまと二号さまどっちでしたっけ?」
 熊沢ひとみさまは一卵性双生児で、姉妹共にリリアンのバスケットボール部に所属している。
 姉のひとみさまを一号、妹のさとみさまを2号なんて呼ぶ人も多い。
 って、可南子さんがどっちがどっちだかわからなくなってるってどういう事ですか!
「一号さまがひとみさまです」
「あ、そうだったっけ? まあ、いいわ。 多分、二人とも体育館に来ていらっしゃるから」
 そう言って、私を連れて歩き出す。
 あ、可南子さんの頭が天井に付いている蛍光灯に……。
「……痛っ」
「前を見て歩かないと、危ないですよ」
 ……まあ、普通は天井の蛍光灯に頭をぶつけたりはしないですけどね。

「ここで、待っていてね。 呼んでくるから」
「ありがとう、可南子さん」
 そう言って、可南子さんが体育館の中に消えて程なくして熊沢ひとみさまがタオルで汗をぬぐいながら現れた。
「ご、ごきげんよう。 くま一号さま!!  あ゛っ……」
 言ってしまってから気がついた、私のバカ……。
 可南子さんが、散々くま一号だ二号だっていうからぁ……(泣)
「ご、ごきげんよう……できれば、熊沢ひとみって名前で呼んで欲しいのだけれど?」
「は、はい……す、すいません」
 もう、しどろもどろで自分でもどうしていいのかわからない。
「どうせ……可南子が私達のことくま一号だ二号だって呼んでたからつられちゃったんでしょ? 気にしなくていいわ。 慣れてるから」
 ひとみさまはそう言って、呆れたような面白がっているような顔をしていた。
「まあ、先輩という立場を利用してちょっとだけ可南子をきつくしごいちゃおうかなぁ〜なんて思ったけどね」
 ひとみ先輩はそう言うと豪快に笑った。
「え、えっと……その、これ……中等部でひとみさまのファンの子から」
 まだ、緊張が抜けきっていないけれどそれでも今がチャンスとばかり、私は空ちゃんのチョコレートをひとみさまに渡した。
「あ、そっか。 今日はバレンタインデーよね。 何よ、可南子の奴くれる気配微塵もないじゃない」
 ひとみさまはそれが面白くないのか、体育館の中を振り返るとじっと面白く無さそうな顔で見ていた。
「……今日は立てなくなるまでしごいてやる。 祐巳さんの所だけには行かせるものか」
 なんだか、ひとみさまの回りのオーラが恐い。
「あ、あ……の……わ、私は……その……あの……し、失礼します」
 逃げだそうとした私に。
「あ、これ。 ありがとねって伝えておいて」
 そう言ったひとみさまには普段の笑顔が戻っていて、でも可南子さんは多分無事では済まないだろうなと思いつつ私はその場を後にした。





 予想よりも、随分時間がかかってしまいお姉さまと待ち合わせた場所に着いたのは待ち合わせ時間ギリギリだった。
 待ち合わせたマリア様の前では何組みかの姉妹がチョコレートのやりとりをしていて、その中にはお姉さまの姿があった。
「すみません! お姉さま、遅くなりました」
 ギリギリセーフとはいえ、お姉さまを待たせてしまったのは事実だった。
 こういう時は先に来て待っているべきなのに。
「何処へ行っていたのかしら……とは、聞かないわ」
 何故だろう、今日のお姉さまは酷く冷たいような感じがする。
 かなり怒っている?
「あの……お姉さま?」
「……帰る」
 そう言って、お姉さまは私に背を向けた。
「待ってください。 お姉さま。 私、お姉さまに渡したい物が」
 あわてて私は鞄からお姉さまへのチョコレートを取り出すとお姉さまを追いかけた。
「そう、でもいらないわ」
 そう言って、お姉さまは私に背を向ける。
「何故ですか、お姉さま!」
 私は何故お姉さまが怒っているのかわからない。
 一生懸命お姉さまのためにチョコレートを選んで……私は……。
「さわらないで!」
 お姉さまが私を睨み付け突き飛ばした。
 私はバランスを崩し、その場に倒れてしまう。
「お姉さま……」
 必死に顔を上げ、お姉さまを見上げるとお姉さまの顔は悲しそうに歪んで、その瞳には涙が浮かんでいた。
「私にも義理でチョコレートをくれるのね……でも、そんな物いらない。 ひとみさんの事が好きならどうして私のロザリオなんて受け取ったの!」
 何を言われているのかわからなかった。
 しかし、徐々にそれが私が頼まれてひとみさまにチョコレートを渡しに行ったことをお姉さまが誤解しているのだと思い当たった。
「お姉さま!」
「やめて! もう、お姉さまなんて呼ばないで!」
 次の瞬間、私の頬に衝撃が走り、お姉さまは私の首からロザリオを引きちぎって走り去った。
「痛っ!!」
 お姉さまを追いかけて、本当のことを伝えたいのに。
 お姉さまにちゃんとチョコレートを渡したかったのに。
 くじいてしまったらしい私の足は、言うことを聞いてはくれなかった。
「お姉さまぁ………」
 ポツポツと落ちてきた冷たい雨は、私とお姉さまのために買ったチョコレートを濡らしていった。


―あるリリアン生徒達のレイニーブルっぽい話ー―

           終



※作中に出てくるリリアン生徒達は実在の人物とは全く関係ありません。
  どっかで聞いたことのある名前があってもROM人が勝手に作ったキャラクターなので御本人とは別人です。
  ネタにした皆様ごめんなさい。
  
  突き落とすだけ突き落としたはいいのですが、パラソルが見つかりません。
  というわけで、レイニー止めして逃げます(逃走)


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