皆様、初めまして。
携帯からの投稿ですので、ちゃんと成功するのか不安です。
コメント頂けたら嬉しいです。
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私達三年生が山百合会の皆と過ごす、最後のクリスマス・パーティーも終わった。
「お姉さま、本当によろしいんですの?」
「ええ、大丈夫よ。ちゃんと後片づけしておくから」
「ですが、お一人では…」
「あまり祐巳ちゃんを待たせないの。早く行ってあげなさい」
なおも言い募ろうとする祥子よりも先に、聖が口を開いた。
「祥子、私も残るよ。それなら安心かな?」
「白薔薇さま?」
「ありがとうございます、白薔薇さま」
「どーいたしまして。さあ、早く帰った帰った」
「白薔薇さま!そんな言い方は…」
「もう、白薔薇さまったら。それでは、お先に失礼いたします。ごきげんよう、お姉さま方」
「ごきげんよう、祥子。気をつけて帰るのよ」
「はい、ごきげんよう。祐巳ちゃんによろしく言っといて♪」
「それはお約束できません」
「「祥子!?」」
「冗談ですわ」
あっけにとられた私達に笑顔を残して、祥子はビスケット扉を出ていった。
(あの子が冗談を言うなんて…)
「祥子も言うようになったねー。祐巳ちゃんのおかげかな。さ、片付けようか」
「ええ」
手を動かしながらも私は聖の事を考える。
(貴女も変わったわよ、聖…)
そう、聖は変わった。栞さんに志摩子、それに祐巳ちゃんと出会って。
今でも時折、暗い瞳をしたりするけど、初めて出会った中等部の頃からは想像できない暖かい顔で笑うようになった。
(結局、私は何もできなかった…。聖にとって私なんて、単なる口煩いお節介の同級生よね)
でも、その関係も終わるのだ。卒業してしまえば、滅多に会わなくなるだろう。
(聖と会えなくなったら、私はどうなるのかしら…)
「…子。蓉子?」
そんな事を考えていたら、手が止まっていたようだ。聖に呼ばれて目を上げると、部屋の中は片付いていた。
「ごめんなさい、聖。すっかり片付けてもらったわね」
「ん、いいけど。それよりさ、これどうする?ゴミ袋に入れといて、年明けに捨てようか」
そう言って七夕飾りもどきを指差すので、私は慌てた。
「嫌よ!それは捨てたらダメなの!」
私の剣幕に聖は驚いたようだ。
「こんな簡単に作れる飾り、何にするの?」
「この段ボール箱に入れて、しまっておくわ」
私は用意しておいた段ボール箱に丁寧にしまうと、マジックで『クリスマスパーティー用』と蓋にだけ書いた。
「あれ?しまっとくのに箱の側面には目印を書かないの?」
「ええ。来年この箱が見つからないなら見つからないで、いいの」
「それって、しまっとく意味あるの?」
「あるのよ」
(私にはあるの…)
聖は合点がいかない様子だったけど、理由なんて言えない。
初めて聖と一緒のクリスマスパーティーだったから、すごく楽しかったから、その思い出として保存しておきたい、だなんて。
別に来年のパーティーの時に見つからなくてもいい。
自分の目の前で捨てられるのが嫌なだけ。
「ふーん。ま、いいや。どうせ一階の倉庫にしまうんでしょ?」
「ええ」
「はい」と手を出されて、私は戸惑った。
「?」
小首を傾げる私に苦笑しながら、聖は私の頭を指差した。
「気に入ってくれたのは嬉しいんだけどさ、そのまま帰る気?」
「あ」
私は王冠を被っていたままだった。
厚紙とホイルで出来た王冠。
聖が作ってくれた王冠。
この楽しかったパーティーの象徴のように思えて、手放したくなかったけど。
「ほら」
ちょうどいい言い訳も思い付かないうちに、聖に取られてしまった。
段ボール箱に王冠をしまった聖は、そのまま私の髪を撫でる。
「癖がついちゃったね。なかなか直らないなあ…」
何度も何度も撫でつける、聖の手。
(温かい…)
気持ち良くて、目を開けていられない。
(え…?)
ふと額に湿った物が触れて、目を開けると。
思いがけない程近くに聖の顔があった。
「でこチューしちゃったー♪」
「せせせ聖!?」
(さっきの感触は聖の唇だったの!?)
「顔が真っ赤だよ、蓉子♪」
「誰のせいよ!」
「いーじゃん、減るもんじゃなし」
「乙女心の何かが減るのよ!」
「何それ(笑)」
笑い転げる聖を放っておいて、帰り支度をする。
「もうっ、帰るわよ、聖!」
「待ってよ、蓉子。今日はうちに泊まらない?」
「え?」
「うち、明日の夜まで誰も居ないんだ」
「でも何も用意してないし…」
「服や下着なら私のを貸すから!」
迷ってる私に真剣な顔で聖が言う。
「一人で居たくないんだ。お願い、蓉子…」
(聖…)
「…わかったわ。家には途中で連絡するから、とりあえず帰りましょう」
「うん♪」
嬉しそうな聖と正門まで歩く。
途中で家に電話すると、あっさりと外泊許可はおりた。
「本当に受験生の親なのかしらね」
「まあ、クリスマス・イブだし」
「それより、私の日頃の行いがいいからじゃないの?」
「自分で言うかなー?じゃあ、間をとって、私の人徳ということで(笑)」
「それ、間じゃないわよ(笑)」
笑いながらバス停に着くと、ふいに聖が言った。
「蓉子、寄り道していいかな?M駅なんだけど」
(え…?)
「いい…わよ」
その後、バスに乗っている間の会話は覚えていない。
M駅に着くと聖は真っ直ぐに三、四番線ホームの先頭へ歩いていき、しばらくベンチに座っていた。
私は、その姿を黙って見ているだけだった。
(結局、去年と同じ。何もできないままね…)
ふっ、と息を吐いた聖が立ち上がる。
私の方を振り向くと、顔色を変えて走って来た。
「どうしたの、蓉子!」
(…え?)
「真っ青じゃない!そんなに寒いなら、早く言ってくれたら…!」
(…寒い?私が?)
「すぐ帰ろう!」
M駅からはタクシーで帰った。
聖の家は門灯が点いているだけで、あとは暗かった。
「お風呂の用意してくるから、暖かくして待ってて」
聖は私を毛布でグルグルと巻いてから部屋を出ていった。
「これじゃ動けないじゃない…」
何もせずに聖を待っていると、どうしても駅での事を考えてしまう。
(何を見ていたの、聖?一人だと栞さんを思い出して辛いから、私を誘ったの…?)
「ただいま、蓉子。お湯が溜まるまで、これでも飲んでて」
両手にココアの入ったカップを持って、聖が帰ってきた。
「手が出ないから飲めないわよ」
「あ、そっか」
毛布を脱いで(おかしな表現だけど)ココアを飲む。
少し気持ちが落ち着くと、思い詰めていた言葉が勝手に口を出た。
「ねえ、聖…」
「んー?お風呂ならまだだよ」
「お風呂じゃなくてね。…どうして今日M駅に行ったの?」
「!」
(ダメ)
「ベンチに座って何を見てたの?」
「蓉子」
(言ってはダメ)
「一人にならない為なら、私じゃなくても誰でも良かったんじゃないの?」
「蓉子、違う」
(これを言ったら…!)
「貴女は今でも栞さんを…」
「蓉子!!」
聖に抱き締められている、と気付くのに数秒かかった。
「違うの、蓉子、聞いて」
(何が違うの…?)
「私は貴女を…蓉子を愛してる」
信じられなかった。
「嘘…」
「嘘じゃない、本当だよ」
「じゃあ、M駅で何してたの?」
「心の中で栞に手紙を書いてたんだ。『ごめんね』と『ありがとう』、そして『とても愛してる人がいる』って…」
聖の顔を見ると、とても穏やかな顔をしていた。
こんな顔で栞さんの話ができるようになったのね…。
「蓉子、返事は?」
「返事?」
「私は『貴女を愛してる』って言ったよ」
「…あ」
すごく恥ずかしい。恥ずかしいけど、ちゃんと聖の顔を見て私の気持ちを伝えなくちゃ。
「愛してるわ、聖」
今まで見てきた中で一番優しい聖の顔が、ゆっくりと近づいてきて。
唇が重なった。