【1676】 由乃×菜々最後に笑うのは私よっ赤い夕日  (ROM人 2006-07-11 20:02:54)


 もうすぐ、選挙の結果が掲示板の前に張り出される。
 今か今かと待ちわびる生徒達の中に特徴的な髪型の少女を見つけた。
 その少女は掲示板を見るとあからさまにあわてた仕草を取り、その場から逃げ出そうとした。

「こぉら、またんかい! 瞳子」
「ぐぇっ……」
 瞳子の首根っこをとっつかまえて逃げられなくする。
「乃梨子さん、離してください…瞳子はこんなつもりで……」

「おめでとう……瞳子。 あんたがどんなつもりで立候補したのかわからないけど」
 そう、祐巳さま・志摩子さん・そしてもう一人の当選者は瞳子だった。
「ち、違うんです。 瞳子は瞳子はこんなつもりで立候補したんじゃないんです」
 私に首根っこ掴まれてもなお瞳子は逃げだそうとしている。
 
 はぁ? こんなつもりじゃなければどんなつもりだ。
 瞳子が立候補して、瞳子が当選したのならこの結果は当然と言える。
 私の志摩子さんが落選するわけもなく、一年生、二年生共に人気のある祐巳さまが落ちるはずもない……主人公だし。
 そうなれば、気の毒だが落選するのは由乃さましか考えられない。
「だ、だから瞳子は初めから落選するつもりで……」
「ストップ、瞳子それ以上は言っては駄目。 瞳子に入れてくれた人に失礼だ」
「でも、………あ、由乃さま」
 少し俯き加減の由乃さまは背中に炎を背負ってゴーっと激しく回りの大地を揺らす程怒りに燃えているかのように見えた。
 よし、瞳子離してやる。
 私まで殺されるわけにはいかない。
 私はまだ後一年志摩子さんとラブラブで幸せな学園生活を送らなければならないのだ。
 瞳子が逃亡できないよう、由乃さまの方に突き出す形で友達の最後を見送った。

「ゆ、由乃さま……あ、ああ……あの……その」
 あの瞳子が信じられないくらい動揺している。
 瞳子、ちゃんと墓参りぐらい行ってやるからな。

 しかし、由乃さまは静かに顔を上げるとにっこり微笑んで……。

「黄薔薇はあなたに任せたわ」
 そう言って、瞳子の肩をポンッと叩き笑顔を崩さずに去っていった。

 でも、私は確かに見た。
 由乃さまの目に輝いていた涙を。





 選挙の結果は、惨敗だった。
 祐巳さん、志摩子さんと一緒に薔薇様になる夢は見事にうち砕かれてしまった。
 瞳子ちゃんを恨むつもりはない。
 しかし、ずっと続いてきた黄薔薇の系譜を私の代で途切れさせてしまったのは正直しんどい。
「おかえり、由乃」
「令ちゃん……私……私………」
 結果を見てから必死に堪えた涙のリミッターを解除する。
 令ちゃんの体にしがみついて私は子供のように泣きじゃくった。
 負けたことが、選挙に負けたことがくやしくてつらくて悲しくてもう止まらなかった。

「落ち着いた?」
「うん」
 令ちゃんが用意してくれた紅茶とクッキー。
 今はあまり食べる気がしないはずなのに、おいしそうなにおいは私の手を無意識に動かしていた。
 令ちゃんの入れてくれた紅茶は私の心を温めてくれたし、クッキーは傷ついた心を癒してくれた。
 ううん、令ちゃんの存在自体が壊れそうな私を救ってくれている。

 ……でも、来年は。

 薔薇様になれなかった私は、きっと菜々を妹にすることなんて出来ないだろうな。
 令ちゃんの卒業したリリアンで私はひとりぼっちに戻るんだ。
 考えてみたら、薔薇の館の関係者の他には私には友達も居ない。
 そう考えれば、私が選挙に落選したのも当然の結果なのかもしれない。

「由乃……元気出して。 由乃は一人じゃない」
 令ちゃんには私の考えていたことなんてお見通しなのかな。
「黄薔薇様なりたかったな……」
 祐巳さんと志摩子さんと私が三人揃って薔薇様になった姿を思い浮かべる。
 それは、今はもうただの夢でしかなくて……それでも諦めきれない私の願い。
「江利子さま……笑うだろうな」
「由乃……」
「これから……どうしようかな」
 全てを失った、何もない私はこれからどうすればいいんだろう。
「由乃には私が居る」
「でも、令ちゃんは卒業しちゃうじゃない」
「祐巳ちゃんだって、志摩子だって、由乃が落選したってずっと友達で居てくれる…それに、菜々だって」
 最後の所が少し、小声になる。
 そう、令ちゃんだって菜々の気持ちを確かめた訳じゃない。
 薔薇様になれなかった私のロザリオなんてきっと欲しくないはず。

「……マリア様の前で待ってるってさ」
 私から、目線をそらしてぼそぼそと令ちゃんが言った。
 え? 今、なんて言ったの?
「……だから、菜々がマリア様の前で由乃を待ってるって」
 少し、拗ねたような顔をして令ちゃんが言った。
「え?」
「確かに伝えたからね」
 そう言って、令ちゃんは私の部屋を出ていった。



「来てくださったんですね」
「……うん」
 もう、選挙の発表からずいぶん経っている。
 日も落ちてこんなにも寒い中、菜々はずっと待っていてくれたのだろうか。
「……選挙、残念だったですね」
 菜々はそう言って、選挙の結果が張り出されていた掲示板の方を見つめた。
「かっこわるいよね。 幻滅したでしょ?」
 菜々が何を言いたいのかが私にはまだわからない。
「ほんの数票差だったって聞きました。 友人から」
 薔薇様達が大好きで憧れている友人が居て、彼女がしつこく言ってきたと菜々は苦笑しながら言った。
 その子は、由乃が落選したことを残念がってくれたという。
「……負けは負けよ。 現役の薔薇様の妹でならなおさら」
 そう、票を持って行かれるだけでも十分なのに、負けたんだから。
 菜々はきっと、こんな私の妹にはなりたくないよね。
「でも、私…嬉しいんです。」
「えっ!?」
 突然、私は耳を疑った。
 嬉しい? 私が選挙で負けたのが?
「か、勘違いしないでください。 
 確かに落選は残念ですけど、由乃さまが薔薇様にならなくてちょっとだけ私は嬉しいんです。
 だって、薔薇様になったらみんなのお姉さまになっちゃうじゃないですか」
 そんなかわいいことを言ってくれる菜々は、ちょっと照れたように私から視線を逸らして。
「由乃さま……私が高等部に進学したら妹にしてくださいますか?」
 そんなことを言ってくれる菜々が愛おしくて。
「うん……私みたいなのでいいなら妹になって」
 抱きしめた菜々の体はすごく冷たくて。
 私のことをずっと待っていてくれた……私のかわいい未来の……ううん、それまでなんて待っていられない。
「ロザリオいまかけてもいい?」
 私の腕の中で菜々は静かに頷いた。
「フライングは反則ですけど、今はマリア様しか見てないですからね」
「審判がマリア様じゃ、ちょっと恐いけど」
 そういって二人で笑う。
「本当に、いいのね」
「赤信号、二人で渡れば恐くありません」
 そうだ、私はいつもイケイケ青信号。
 だから、もう迷ったりしない。
 令ちゃんからもらった私の大切なロザリオ。
 それを、首から外して目を閉じて待っている菜々の首にかける。
 薔薇様には結局なれなかったけど、私は薔薇様になるよりも素敵な姉妹になる。
 この菜々と二人で。

 そんなちょっとフライング気味な姉妹の契りを月とマリア様が優しげに見守っていた。





 新学期になり、私こと松平瞳子は2年生にして黄薔薇様になってしまった。
 今は、山積みにされた書類と格闘中。
 何代も前の薔薇様である風さまが、
 『書類みたいな事務作業は薔薇の色ごとに3等分』という余計なルールを作ってくれたおかげで、
 たった一人で3分の1の書類を引き受ける事に……。
「というわけで、瞳子。 あんた薔薇様なんだから祐巳さまと志摩子さんとちゃんと仕事3分の1ずつだかんね」
「乃梨子さん……手伝ってくれないんですか!」
「そうね、手伝いが欲しかったら妹でも見つけたら? 私は白薔薇の「蕾」だから志摩子さんの手伝いしかしないよーだ」
「まだ、マリア祭前だってのに妹なんて出来るはず無いじゃないですか!」
「令さまは入学式当日に由乃さまを妹にしたんだってよ? 同じ黄薔薇になったんだから頑張れ」
 こんなはずじゃなかったのに。
「乃梨子さん……。 ……って祐巳さまは何してるんですか!」
「え? 紅茶のおかわり」
 祐巳さまは、あの後すぐに菊組の清水良さんを妹に迎えた。
 笙子さんが祐巳さまのファンだった良さんを引き合わせたんだそうだ。
「瞳子さんも紅茶いかが?」
「い・り・ま・せ・ん!」
 そんなに仲良さそうに寄り添って、祐巳さまもそんなにベタベタしない!
「でも、仕事終わってないの……瞳子ちゃんだけだし」
「そうね、私も乃梨子の分をチェックしたら終わりだから」

 その時、扉が開いた。
 
「あら、また瞳子ちゃんのヒステリー?」
「あ、由乃さんごきげんよう」
「いらっしゃい、由乃さん」
 由乃さまが妹の菜々ちゃんを連れ、薔薇の館にやってきた。
 もう、剣道部の練習が終わる時間なんだ……。
「あ、由乃さま。紅茶いかがですか」
「あ、サンキュー。 いつも働き者だね、良ちゃんは」
 由乃さんはこうして毎日のように、妹の菜々ちゃんを連れて薔薇の館にやってくる。
 祐巳さまが掲げた公約を現実に近づけるため、一般生徒代表で薔薇の館に遊びに来てるそうだ。
 本人に言わせると、さくらだとか。
 でも、去年まで蕾だった人がその役をかってでてもあまり役には立たないような。
「いつもすみません」
 しいて言えば、この菜々ちゃんのおかげで何人かの新入生が見学に来たことがあったぐらい。
 結局は、祐巳さまと志摩子さまの二人と紅茶を飲んでお喋りをしに来てるだけ。
 しかも、仕事はやらなくていいし、もしかして一番おいしい状態なのかもしれない。

「しかし、すごい仕事の量だね」
 由乃さまは私の前に積まれている書類の束を手に取っていった。
「……私、計算とか書類仕事苦手なんですよね。 体動かす方が好きなんで……お姉さまが落選してくれて本当によかったです」
「ははは、そうだね。 考えてみれば薔薇様になってたら夏休みも半分無しだったしね。 今年の夏休みは二人でどっかに行こうか」
「うれしいです」
 ……はいはい、目の前でイチャイチャしないで下さい。 暑苦しい。

「うーん、そう考えると当選したのって不幸? まいっか、良。私達もどっか行こうね」
「はい、お姉さま〜」
「あ、そこ漢字間違ってる」
「あ゛っ」
「良は働き者だけど、もうちょっと慎重に作業しないと駄目だよ」
「祐巳さんもね。 まあ、祐巳さんがそう言うことを言うようになるなんてね」
「志摩子さん……もう」
 そういって、笑いあう中ぽつんと作業をする私。
 こんなはずじゃなかったのに……。
 だいたい、祐巳さまの妹には私がなるはずだったのに。



 ……断ったのは自分だった_| ̄|○

 ……しかも、選挙に出たのも_| ̄|○×2



 こんなはずじゃなかったのに……。

 瞳子を嫌っていた一年生はみんな祐巳さまに投票して、
 元々票の少なかった由乃さまは瞳子と接戦。
 黄薔薇革命でお姉さまと破局し、復縁できなかった人達とその友人達が由乃さまを落選させるために瞳子に入れたなんて……。
 そんなこと、ちっとも考えてなかったんです。

 これって、BADエンドですよね?
 くま一号さん助けてくださぁい(泣)


とりあえず、おわっとけ(w


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