【1678】 清水良ちゃん過去は変えられる必殺の紅薔薇  (くま一号 2006-07-13 22:44:56)


 わ、出た。うそ。
 ひとみ、言葉に気をつけなさい。
 ちがうわよ、さとみ、別に登録キーワードが嘘だって言っているのではなくて、信じられないキモチが思わずウソ、と。
 ごちゃごちゃ言わないの! 登録キーワードがあるってことは誰かが期待してるのよ。
 そうかなあ。
 そうなの! そういうわけで【No:1676】の続きにご指名にあずかりましたくま一号の瞳子ちゃんいじり変じて、キーワードが出ちゃったのでだれかさんいぢり。該当者はないんだけど該当者の苦情があったらさくっと削除いたしますわ。

 ・・・・・・・・・というくらい、悪乃梨してるのね。
 ・・・・・・・・・そうとも言う。

【もちろん】実在人物とは姓名筆名住所実年齢自称年齢見かけの年齢血液型髪型に至るまで一切関係ありません。客先で日付変更線を越えて宿にたどり着いた午前2時という状況が書かせた莫迦物と思って軽くスルーしてください。ただしアルコールは入ってないことを宣言します。
 一部、一部の人にしかわからないネタと一部の人にしかわからないオリキャラがでてますが、ストーリーと関係ないのでさくっとスルーしてください。



 †  †  †



 3月。もうすぐ卒業式を迎える薔薇の館では、いつものようにまったりと紅薔薇祐巳さま、白薔薇志摩子さま、黄薔薇瞳子がお茶を飲む光景があった。紅薔薇のつぼみ良さんはまだ教室の掃除が終わっていないのか、来ていない。「一般人」由乃さまと「中等部」菜々ちゃんは部活だろう。なんだか、高等部中等部交流、とかいうイベントのあと、菜々ちゃんは高等部の剣道部に居座ってしまったらしい。

 って乃梨子、あんたも完全にこの二人を人数に入れてるし、しかもティーカップあっためてあるし。うん、今日もセルフツッコミで実は他人につっこむテクニックのレッスン終わり。

 ふぅ。それにしても瞳子、いいかげんあきらめなって。そうやってちらちら祐巳さまのほうを見たって祐巳さまには良さんって妹が、妹が……あのね。なにしてるんですか、祐巳さま。

 祐巳さまが、積み上がった書類を必死で減らそうとしている瞳子の後ろにそ〜〜〜っと近づいて、いきなり……

「ぎゃあうぅ!」
「お、今日はA#。発声を鍛えてる瞳子ちゃんの怪獣の声はひと味ちがうねえ」
「いいいえ、今のはCです。祐巳さまに音感なんてないでしょう? 瞳子はバイオリンで鍛えてますから。 っっっって、問題はそこじゃなくてーーーーー。」

「そこじゃなくてどこなの?」
「ですから、瞳子は祐巳さまと同じ薔薇さまになるんですよ。薔薇さま同士で前みたいにあーしたりこーしたりまあこんなことまでされては困ります」
「どうして瞳子ちゃんがこまるのかなー?」
「ですから、薔薇さま同士なんですから、薔薇さまらしくもうちょっとですね」

 薔薇さまらしくないのは、瞳子だって。

「じゃあ、瞳子ちゃんもわたしや志摩子さんに抱きついちゃえばいいのよ。ね、志摩子さん」
「そうねえ、乃梨子がかまわなければ、私は妹が二人いてもかまわないわよ。乃梨子も瞳子ちゃんの座布団にハアハアしてたそうだし」
「志摩子さん、それじゃ複数姉妹制、ってシリーズがちがーーう。だいたい、ハアハアってそういう単語をどこで覚えるんですか、お姉さま?」
「良ちゃんが教えてくれたわ」
「あーのー良〜〜〜〜」

「乃梨子さん?」
「なによ、瞳子」
「つっこむのはそこですか?」

 ・・・・・・・やるじゃないか、瞳子。

「ごまかさないでください」

 ・・・・・・・地の文に答えないでください。




 良さんって妹を迎えて、瞳子が次期黄薔薇さまになった今、もはや祐巳さまに怖い物はないらしい。噂に聞く私のおばあちゃん、聖さまから受け継いだというセクハラ遺伝子を存分に発揮して、瞳子をいじるいじる。

 そのうえに、良さん。
ときどき、なにか小説のような物を書いている、らしい、のだけれど……。SSって何?
まさかナチじゃないよなあ。

「とぼけても無駄ですわよ、乃梨子さん」

 ・・・・・だから地の文につっこむなって瞳子。

 ちらっとのぞいて見たら、どうも、三奈子さまとは別の意味で、アブナイ。萌え? うーむ。あまり人前で語りたくない話題だなあ。しかも、瞳子が体育倉庫に連れ込まれてるし。
 黄薔薇の押さえがなくなってしまった紅薔薇シスターズに勝てるのは、もはや志摩子さんしかいないんだけど、その志摩子さんがハアハアなどと言い出すようでは、来年度は最強の紅薔薇一人勝ちになってしまうじゃないか。

「瞳子ちゃん、私に抱きつかれるのがそんなにいや?」
「いえ、あの、ですから紅薔薇さまと黄薔薇さまが抱き合っている図というのは人には見せられませんと申し上げているんです」
「志摩子さんと乃梨子ちゃんがみてるだけだよ」
「でーすーかーらー」

「瞳子、顔ほんのり赤くして、演技なしのうるうる目で言っても説得力ない」
「乃梨子さん!」

 志摩子さんと祐巳さまと由乃さま。トリオ三人の一角が欠けたらこうなるのは当たり前。山百合会のおもちゃとなって、祐巳さまの薔薇の館開放の野望に一役買う運命なのよ。
これが因果応報って言うのよ、瞳子。



 と、思ったところへ。だんだんだんだんっ、と階段を駆け上がる音。
ばんっ、とビスケット扉が開いて、あらわれたのは、菜々ちゃん。

「見つけてしまいました!! あの、良さまが!」

「良がどうかしたの?」
のんびりたずねる祐巳さま。

「あの」
話そうとして、ふと、ビスケット扉の外をのぞく菜々ちゃん。
どうやら、メガネとか七三とかふわふわとかルーキーとかGとかKとか、そういうものをチェックしたらしい。そんなに重大な話なんだろうか。

 ビスケット扉をきっちり閉めて、テーブルに乗りだしてひそひそと話し出す。聞き入る一同。


「えーーーーーー! 良ちゃんが年齢詐称ーーーーーー!」


「これ、見てください。私が中等部に入学したときの校内誌なんですけど」
 菜々ちゃんが差し出したのは、中等部入学の時の、新入生各クラスの記念写真が載った冊子らしい。菜々ちゃんが指さしたところには。

「良……だねえ」
「良ちゃんにみえるわ」
「あ、名前もちゃんと清水良になってます」
「こっちのクラスに菜々ちゃんが写ってる。間違いなく、菜々ちゃんと同学年だわ」

「これはどういうことなのですか? 交通事故で意識不明になって、いきなり金髪になって留年した、なんていうのと違って、逆なのですわ、逆。リリアンに飛び級なんてありませんわよ」
「わからないです。両親も、戸籍や住民票もごまかさなければ、そんなことがあるはずがないのですが」


「ところが、あるのよ、皆の衆」

「由乃さん!」
「お姉さま、突き止めたのですか?」
「うん、たぶんね。ちょっと見てちょうだい」

 で、また扉の外のメガネとか七三とかとかとかを確かめて、小声で話す由乃さま。

「あのね、良ちゃんって、一年カナダに留学してるの。お父さんのお仕事の都合でね」
「由乃さま、それもシリーズ違う。それで4月と9月の入学時期の違いで、行きと帰りで半年ずつずれて一年上の学年になっちゃった、なんて言ったら、ぐーでなぐりますよ」

「菜々、ちょっと竹刀持って、ここへ来てくれる? そうそう、乃梨子ちゃんの正面に」「はい、由乃さま」


「実はそうなの」


「ぐおおおぉぉ」
「どぉーーー」
「胴あり! 菜々!」

「いったーーい」
「乃梨子さま、峰打ちです。安心してください」
「竹刀に峰打ちがあるかああぁ」
「ありますよ。こっち側が斬る側でこっちが」
「痛さは同じだって言っとろおがぁ」

「良が……ほんとは中等部……」
「祐巳さん、そこで魂ぬけちゃだめよ。小公女も選挙の対抗馬も振り捨ててやっとつかんだ妹だもの、離しちゃだめ」
「なんか、とっても言葉に険があるような気がしますわ、由乃さま」
「あら、気のせいよ、黄薔薇さま」

「祐巳さん、祐巳さん、きっと深い事情があったのよ。実はお寺の娘だったとか」
「瞳子、ないと思いますわよ」
「うん、なんかしょーもない理由だと思うわ」


「その通り、しょーもない理由です」
「あ、出た、蔦子さん真美さん」
「うーん、油断も隙もないわね」
「私たちが出なきゃ、おわんないでしょ」
「ほら、証拠写真」


「良が、良が、マリア様の前でロザリオ受けてる!!」
「良ちゃんに、お姉さまが、いたーーーーーーー!!」

「ぐあふぅ」
「ちょっと、祐巳さま、呆けるのはちょっと待ってください。変です。中等部の制服ですよ、二人とも」
「フライングかなあ。でも、このお姉さまの方、どこかで見たような気がするんだけど」
「蕗夢さまとか芽衣さまとか、うわさはあったけど、なんだかロザリオ池の中に棄てられた上にネタにされて、良さんがキレて二人とも池に突き落としたとか、なんかで妹にはなってないはずだし、写真はちがいますね」

「志摩子さん、わかる?」
「ええ。和服、着せてみて想像してごらんなさいな」

「あ、茶道部の」
「どことかの家元を継ぐとか継がないとか」
「そうそう、図書委員で一年生の」
「手塚亜美衣さん!」
「そうよ」
「でもどうして? 同学年でしょ?」

「ちがうわ祐巳さん。さっきの菜々ちゃんの持ってきた写真が本物なら、良ちゃんの方が一つ下よ」

「……そう……そうなの……お姉さまもいたのね……ふふふふふふふふ……」
「祐巳さま、お気をたしかに」
「そうよ。なんだかんだ言っても小公女……」

「だああああ。小公女も山百合会に新風も関係ありませんっ! もし、もし良さんが中等部三年なら、祐巳さまのロザリオは受けられませんよね、ね、ね、ね」
「なに喜んでるのよ、瞳子」
「瞳子は、正論を述べているだけで、別に喜んでなんかいませんわ」
「露骨に喜んでるけど?」
「え、菜々、由乃さまの妹じゃなくなっちゃうんですか?」
「そんなことないわよ、菜々。そこのドリル、よけいなこと言わないっ!」


「よし」
「だいじょうぶ? 祐巳さん」
「こういうときは、本人に聞かなきゃいけないのよ。良はどこ?」

 ぱたむ、とビスケット扉が開いた。

「ごきげんよう、みなさま」

「良!」
「良さん」
「良ちゃん!」

「良、この写真なんだけど」
「なんですか? お姉さま」
「ちょっと見て欲しいのよ。どういうことなのか説明してくれるかしら。中等部の入学記念写真、どうして菜々ちゃんと一緒に写っているの?」

 祐巳さま、眼が怖いです。

「わ!」
「あなた、歳はいくつ?」
「じゅうよn、あ、ばれた」

「おい」
「ばれたって、良ちゃん、あなたどうやってそんなことができたの?」
「『4月と9月の入学時期の違いで、行きと帰りで半年ずつずれて一年上の学年になっちゃった』んです」

「ぐおぉぉぉぉ 気がつけよシスター上村ぁーーーー」

「乃梨子さま、お籠手!」
「いったーい」
「こてあり! 菜々、二本勝ち!」
「やりました、お姉さま」

「おーのーれーらー、由乃さまは狙ってないじゃない!」
「はあ、つい反射的に」
「乃梨子さん、キャラ変わってません?」
「キャラの書き分けができてないとも言うわね」
「ひどーい、志摩子さん」


「祐巳さん祐巳さん、そこで石像になってないで。もう一枚あるでしょ。こっちの方が問題よ。二つ下だって妹にはできるんだから」
「そ、そうよね、蔦子さん」

 少しゲル化した石像になった祐巳さまがもう一度聞く。
「良。それじゃ、こっちの写真はなに?」

「あー、亜美衣お姉さま。よく撮れてますねー。蔦子さまが撮ったんですか? 一枚焼き増ししてほしいなー」
「良! あのね、どういうことかわかってるの?」

 悪びれもしない良さん。いえ、良ちゃんの方がいいわ。乃梨子より一つ下なのよね、結局。

「わかってますぅ。だって、同じ学年になったんですもの、姉妹じゃないわよねって、お姉さまにロザリオ取り上げられちゃいましたあ、あはははは」

 だめだ。だれかなんとかして、この子。

「そこで、どうして間違えられたって言わなかったのよ。あなたね、一年上の授業が受けられるくらい頭いいくせに、なにやってんのよ」
「あのお、由乃さま、ちょっと、暴走機関車になっちゃったものですから」
「あー、それはよくあるわね。わかるわ。うん、じゃそういうことで」

「ちがうでしょう、由乃さん。 ね、良ちゃん。怒らないから志摩子お姉さんに本当のことを話してごらんなさい。あなた、お寺の娘なの?」

「ちがーう。もう、こんなボケでウケるわけないでしょうに、深夜残業のあとのハイな状態でしか恥ずかしくて書けない文章よね」

 その前に、普通、怖ろしくて書けない文章だと思います。

「で、良。どうして暴走機関車になっちゃったのかな」
「亜美衣おねえさまがひどいんです。だからどーーーしても一つ歳をとりたかったんです!」


「どうして?」


「だって、だって……」
赤くなってうつむく良さん、いえ良ちゃん。わ、かわいい。おもわず、ふにふにはにはにしたくなっちゃうじゃない。

「乃梨子さん、手が不気味ですけど」
「え? と、瞳子? 見た? 気にしないでいいわ。気にしないで」


「で、なんなの? 良」
祐巳さま、眼が据わってます。



「4ヶ月歳をサバ読んでるって、お姉さまにリクエストしたR指定に連れてってもらえなかったんですーーーー!」



・・・・・・・・・・・・沈黙が痛い。



 って、いきなり祐巳さまと瞳子が帰り支度してるし。しかも、腕組んでるし。

「瞳子ちゃん、一緒に帰ろうか」
「はい、祐巳さま、帰りましょう」

「お、お姉さまぁ」
「んー、だれのことかなあ? 良ちゃん?」
「えーーーん」
「あ、ロザリオはもういらないわよね、もらってくわ。じゃあねー、ごっきげんよー」
「祐巳さまぁ」


「あーあ、記事にはできないなー」
「さっきの『だってだって』の表情で充分よ。モトは取れたわ」
「あら、モトってなに? 蔦子さん」

 ・・・・・さっきの入学式の写真、撮影:武嶋蔦子って書いてなかったか? 菜々ちゃんの入学の時だから、中等部三年のはずだよなあ、蔦子さま。そんなころから仕事してたのか?

「無償奉仕よもちろん」

 地の文に答えないでください。それって、集合写真に写した良ちゃんを覚えてたってことですか。

「いい被写体は、逃さないもの。青田買いね、言ってみれば」

 はあああ。

「私を誰だと思ってるの?」

 写真部のエース、武嶋蔦子さまです。

「菜々、良い仕事じゃ」
「おほめにあずかりまして光栄でございます。由乃さまのお役に立つのがわたくしの務め」
「じゃ帰ろっか。ごきげんよう」

「しーまこさん」
「帰りましょうね、乃梨子。じゃ、良ちゃん、最後だからちゃんと片づけて帰ってね」
「ごきげんよう」


 ばたむ。ビスケット扉が閉まる。




・・・・・・・・・・・


「芽衣さまぁ、蕗夢さまぁ、あ、だめだ、いまごろ夏コミの原稿で缶詰になってらっしゃるわね」

「ま、いっかあ。亜美衣お姉さま〜。次は大河ドラマの方に出してください〜♪」


 †   †   †


 翌日、当選辞退届を出した瞳子は、ロサ・フェティダ から ロサ・キネンシス・アン・ブウトンに変わった。

 同時に公示された補欠選挙は信任投票になり、由乃さまがあっさり信任された、という。

 そして、日本の学制とリリアンの規則には逆らえず、良ちゃんはもういちど高等部一年生をやることになった。シスター・上村から見返りになにをもらったかは、定かではない。
 亜美衣さんからまたロザリオをもらえたかどうかも、定かではない。ましてリクエストのxxxを書いてもらえたかどうかなんて、乃梨子はぜんっぜんしりませんわ。


fin.


 これって、バッドエンド?


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