「私、結果発表の瞬間、瞳子の顔だけを見ていたんです。 そうしたら、……そうしたらわかってしまいました」
乃梨子ちゃんの顔は蒼白だった。 多分、祐巳も同じような表情をしているはずだ。
「瞳子の目的は、負けることだったんです」
ああ、やっぱり。 祐巳は思った。
自分だけではなく、乃梨子ちゃんがそう言うのだから、多分間違いないのだろう。
瞳子ちゃんはマゾだったんだ。
☆
ああ、もう……だから瞳子に姉妹の申し込み断られるんだよ祐巳さまは。
瞳子のことなんて何にもわかってないんだから。
私は、祐巳さまに一礼すると急いで瞳子の後を追った。
まだ、そんなに遠くに行っているはずはない。
たぶん、今じゃなきゃ駄目なんだ。
私の本能がそう言っている。
今、瞳子を追わなくちゃ……多分私はもう瞳子に会うことが出来なくなる気がしていた。
瞳子、瞳子、瞳子!
「で、何をして居るんだ瞳子」
「自棄食いですわ」
瞳子は公園でコンビニの袋に沢山詰まったチョココロネを貪っていた。
「自棄食いって、瞳子は負ける為に選挙に出たんだろ?」
「はぁ? 何を言ってるんですの、乃梨子さん。
確かに現役の皆様に勝つ自信はなかったですけど、由乃さまといい勝負が出来る自信はあったんですのよ」
おい、コラ。
名指しで由乃さまとか言うな。
確かに、志摩子さんが落選するはずなどこれっぽっちもない。うん。
あれで一年二年と満遍なく人気がある祐巳さまが落ちる事もまず無いだろう。
って、マジで薔薇様狙っていたのかこいつは。
「……なんてね。 たぶん、勝てるはずなんて無いと思ってたんですよ。 ただ、いい勝負ができたならと思ってたんですけどね」
「瞳子?」
「これで、薔薇の館に未練はなくなりました」
そう言った瞳子はどこか儚げで。
だから、私は自然に瞳子を抱きしめていたのだ。
「の、乃梨子さん…こ、こんな所で……誰かに見られたら……」
「バカ……こんな事をしなくたって祐巳さまのロザリオを受け取ってれば一緒に蕾になれたじゃないか」
そう、薔薇の館の住人になる方法はちゃんと残っているじゃないか。
祐巳さまは多分まだ瞳子を妹にすることを諦めていない。
「……それは、できません」
しかし、私の腕のなかで瞳子はつらそうにそう漏らした。
「祐巳さまは多分まだ諦めてないと思うよ」
「……だから、駄目なんです。 瞳子が祐巳さまの妹になったら祐巳さまに迷惑がかかります」
「迷惑なんて……」
「瞳子は皆に嫌われて居るんです。 瞳子なんかが妹になったら祐巳さまにまで」
それは、きっと茶話会の…いや、もっと前からあった瞳子への陰口がそう言わせるのかもしれない。
はっきり私がそれを知ったのは茶話会の頃だったが、瞳子はきっとそれより前からそれを知っていたのかもしれない。
梅雨の頃、紅薔薇様と祐巳さまの仲違いの原因になり、祐巳さまにきつい言葉を投げかけた。
きっと、祐巳さまのファンに瞳子はきっと疎ましく見えたことだろう。
ちょっとへそ曲がりで、自分に素直じゃなくて、お節介で。
瞳子は誤解されるタイプなんだ。
みんな本当の瞳子を知らない。
仮面の隙間から見える瞳子はいいやつだ。
「でも、私は瞳子が大好きだ」
瞳子を抱きしめる力を強くする。
へそ曲がりの子猫は私の手の中をすり抜けてしまいそうだったから。
「離してください。 そして、瞳子にもう近づかないでください。
瞳子なんかと一緒にいたら乃梨子さんにまで……」
「いいよ」
そう、別に私はみんなの人気者になりたい訳じゃない。
そんなことで疎まれるなら別に本望だ。
「だって! んっ……」
もう、これ以上瞳子の口から自分を責める言葉を紡がせたくなかった。
傷だらけの心に自分でさらに傷を付けないで。
私は、瞳子の唇に自分の唇を重ねた。
「あ〜あ、その役目は私の予定だったのに」
か、可南子さん!
「決定的な一枚を撮ってしまったけれど、さすがにこれは発表していいものか」
つ、蔦子さま!
「選挙の裏にあった一つの恋物語。 キスシーンはカットするにしても去年のイエローローズを超える名作を書き上げる自信はあるわ」
ま、真美さま!
「……選挙に勝ったけど……乃梨子ちゃんに負けたぁ」
ゆ、祐巳さま、こ、これは……その。
「乃梨子……まるで、お姉さまのようだわ」
し、志摩子さんまで! こ、これは違うんです……だ、だから、その……。
「キスまでしてちゃ、もはや逃げようもないわね」
「……羨ましいな(ぼそっ)」
「な、菜々(真っ赤)」
よ、由乃さま……それに、菜々ちゃん。
「ううっ、剣道の交流試合で瞳子さんの悩みを聞いて、一生懸命支えて……瞳子さんの恋人には私がなるはずだったのに。
祐巳さま、やっぱり妹にしてください」
「……しかたないか、瞳子ちゃんは乃梨子ちゃんに取られちゃったし」
こ、こらそこ! いきなり大どんでん返しでロザリオの授受とか始めないっ!
「……乃梨子さん。 瞳子を幸せにしてください。 赤ちゃんは男の子と女の子がいいです」
うわっ、上目遣いで頬をほんのり赤く染めて……瞳子すげーかわいい。
……って、そういう問題じゃないし女同士だし。
「こんな、学園のすぐ側の公園でこんなことしてりゃ、こうなるのは当然でしょ? 写真楽しみにしててね」
……そうでした_| ̄|○
それに気がつかない私が愚かでした。
こうなりゃ自棄だ。
「瞳子、愛してる」
「はい、乃梨子さん」
私と瞳子はもう一度、深く熱い口づけを交わした。
これって、ハッピーエンド?
おしまい
(後書き)
妄想万歳!
読者のほとんどがどん引きでも、私が楽しければいいんです、ええ。
可瞳、乃瞳、瞳子受万歳!
仮面のアクトレスの続きがどうなろうとも、これだけは譲れません。
そういえば、これで27作目らしいんですが、
100作超えてる方々はどんだけ書いてるんだろうと
こないだ自分のを全部読み返してて思いました。
結構書いてますねぇ、ROMのくせに(w
そんなわけで、目指せ50作なあくまでもROMな人でした。