【1691】 精鋭集結蜂起スーパーヒロインズ  (若杉奈留美 2006-07-15 22:45:26)


ご好評につきイニGシリーズ開始いたします。

【No:1675】「トルネード大掃除白い地獄」の続編です。



昼休み。
薔薇の館では、先日のミッション・インポッシブルをお茶を飲みつつ振り返る
次世代メンバーの姿があった。

「まったく…真里菜もよくあそこまで散らかせたものよね」

ちあきがため息をつきながら言う。

「だってまさかあんなことになるなんて思わなかったから…」

真里菜はバツが悪そうだ。
その言葉に、美咲は実に素早いタイミングで突っ込んだ。

「それはこちらのセリフです」

菜々が智子の顔を見ながら言う。

「ねえ智子、あなたの部屋はあんなふうになっていないわよね…?」
「ま、まさか!お姉さまが毎日通ってくださるんですもの、嫌でも維持されますわ!」

言ってしまってから「まずい!」と口を押さえたが、時すでに遅し。
ちあきがまたものすごい笑みを浮かべている。

「智子〜、嫌でもってどういう意味なのかしら〜?」
「あ、ですからこれはその…」

逃げる智子に追うちあき。

「待ちなさい!」
「うわ〜ん、ごめんなさ〜い!」

ドタバタと走り回る紅薔薇姉妹。
あまりの光景にうなだれる美咲の肩に、涼子はポンと右手を置いた。

「あんまり気にするなよ」

平和な薔薇の館。
だがそこに、1人だけ平和ではいられない人間がいた。
その名は安西理沙。
黄薔薇のつぼみの妹であった。


その夜。
理沙は自室でひそかにおびえていた。

「来〜る〜、きっと来る〜、きっと来る〜」

ここ最近、夜毎何かをこするようなガサガサという音に悩まされて寝不足気味。
睡眠時間の足りなさは脳にもなにがしかの影響を与えるようで、最近口をついて
奇妙な言葉や歌が出てくるようになったのだ。

「うふふふ…あはははは…なんて素敵なのかしら、イニシャルGって…素敵なわけないじゃん」

理沙の兄、純也はそんな妹を1割の同情と9割の醒めた目で見つめていた。

(無理もないよな…部屋の中でポテトやらケーキやら食べてちゃ。
あ〜あ、こいつ、ベッドの上にまでチョコレート持ち込みやがって…
知らないぞ、どうなっても…)

そして真夜中に悲劇は起こった。

ガサガサガサ。
ブ〜ン。
ピタッ。

「ぎゃああああああ!!」

突然の悲鳴に飛び起きた家族が見たもの。
それは部屋中を闊歩するGと。
ゴミの中で悲嘆にくれる娘の姿。
先ほどの悲鳴は、飛んできたGが理沙の顔にピタリと着地を決めたためであった。
あまりの情けなさに、理沙の母は絶叫した。

「理沙!今すぐ掃除しなさ〜い!」

いやお母さん、今すぐは無理ですから。
真夜中だし。


翌日の昼休み、薔薇の館のメンバーは保健室にいた。
体育の授業中に倒れた理沙の見舞いのためである。

「あきれたわね、本当…真里菜の次は理沙ちゃんだなんて」

ちあきは深々とため息をついた。

「少なくとも、ベッドルームでお菓子食べるのはよくないと思うよ?」

さゆみは淡々と伝える。

「またやるの?ミッション・インポッシブル」

心なしか菜々の額に光が増している気がする。

「やらなきゃ理沙ちゃんが死んじゃうでしょ…このまま放っておくのは、
世話薔薇さまの良心に恥じるわ」

ちあきは覚悟を決めていた。



日曜日の安西家の前。
ちあきが号令をかけた。

『本日のミッションは、黄薔薇のつぼみの妹、安西理沙の部屋の防虫処理と大掃除!
全員個々の義務を完璧に果たせ!』
『ラジャー!』

まずは理沙の部屋全体を見回す。
6畳ほどの部屋は真里菜の部屋ほどではないが散らかっており、床の上にあるものは大半がスナック菓子やチョコレートの袋、アイスクリームの容器などだ。
しかもそれらの一部はベッドにまで侵食してきている。
家具といってもベッドとミニコンポ、低いガラステーブルしかなく、
白と淡いピンクが基調のシンプルでかわいらしい部屋だが、これでは台無しである。

「まずはこのゴミを全部捨てましょう」

自分のためにみんなが動いてくれていることをよく知る理沙は、文句ひとつ言わず
黙々とゴミを捨てていた。
特別ミッション用のユニフォームの上に、黄薔薇ファミリーであることを示す
黄色のエプロンを身につけて。
ちなみにこのエプロン、紅薔薇家は赤、白薔薇家は白で、特殊加工が施され、
水や汚れに極めて強い。

「涼子ちゃん、力はあるかしら?」
「任せてください。こう見えても俺、けっこう力あるんですよ」

さゆみと協力しあい、分厚く重いマットレスを階下の庭まで運んでゆく。
ベッドにかけられていた布団などは、すでに智子がベランダに干していた。
大した家具がないためか、家具の移動は簡単で、掃除もしやすかったのだが。

「ねえ、なんかこのミニコンポの裏、虫の墓場みたいになってるけど…?」

純子が多少青ざめながら指差した先では。
Gだけではないあらゆる種類の昆虫が、無残な最期をとげていた。

「さっさと処理しなさい」

ちあきはテーブルを拭きながら言う。
仕方なく、それらの虫のうち大きいものをあらかじめほうきで集めておいてから、
残った小さめの死骸を掃除機で吸い込んだ。

「『あずき』はこっちの機械で吸い込んでね」

真里菜のときにも活躍した、害虫駆除業者が使う専門の機械を手にするちあき。
ちなみにこれは、祥子さまとの秘密裏の交渉(脅迫ともいう)の末に、
小笠原グループの業者から譲り受けたものである。

「す、すみませんちあきさま…それ、こっちに吸い込んじゃいました」
「…今すぐ紙パック取り替えなさい!」

純子はドタドタと紙パックを取りに走り、大急ぎでパックを交換した。


(ちあきさま、いったいどんな手段使ったんだろう…)
(って言うか、祥子さまと互角に渡り合うなんて…)
(紅薔薇家はある意味すごい人たちばっかりだよ)

掃除をしつつもひそひそ話に興じるブゥトンズに、ちあきの大声が飛んだ。

「3人とも、しゃべってないで手を動かす!」
「「「は、はい!申し訳ありません!」」」

階下から涼子の声がする。

「誰でもいいんでこのマットレス運ぶの手伝ってくださ〜い!」

美咲が動いた。

「行ってきます」

やがて運ばれてきたマットレスと布団と枕に、ちあきは丁寧に掃除機をかけた。

「ダニが潜んでる可能性大なのよね…ベッドの上でお菓子食べてたっていうし」


部屋の中はだいぶきれいになった。
あとは要所要所に毒餌を仕掛けて、ミッションは終了…の、はずだったが。

「あれ、さゆみさん、それなあに?」
「分からないけど…さっきからこれ、時計の音がしてるんだよねえ…
しかも時計と一緒になんかのコードがつながってるし」

あの…それって…

「えっ、ちょっと、どうすればいいのっ!?」
「知らないよ、そんなの…!」

なんとなく話は見えてきた。
どうやらこの話の作者は、「アレ」をやりたいらしい。

「これ配線早く切らないと…はさみどこ?」
「…やだ、この部屋はさみないじゃん!」

5…

「おいお前ら、何やってんだ!早くしろ!」
「そんなこと言ったって、手が震えて…!」

4…

「誰かカッターとか持ってないの!?」
「薔薇の館に置いてきちゃったよ!」

3…

「えっ、な、何?」

2…

「理沙、どうしてこんなもんがあんたの部屋にあるのよ!」
「知りませんよ、うちの兄貴が勝手に作って置いていっただけなんですから!」

1…

「ああもうダメだ!」

ドッカーン!!

安西家、消滅。
あまりにも予想しなかった結果に、ちあきはこうつぶやくしかなかった。

「…だめだこりゃ。次行ってみよう」





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