【1714】 細川可南子はかく語る錆付いてしまった黄昏の館  (春日かける@主宰 2006-07-23 00:27:46)



夕暮れ。世界は赤く染まっていき、やがて闇に包まれる。
そんな全てが曖昧な雰囲気の時間帯、可南子は薔薇の館に向かっていた。

誰にも出会わない。
誰の声も聞こえない。
初めての感覚に、可南子は少し戸惑っている。

直前までは体育館で部活の仲間と一緒にいたのだが、ほんの数分でこの雰囲気になるとは思っていなかった。
振り向いてみる。既にバスケ部のメンバーはいなかった。

「……部長ー?」

不安になった。この声を聞いて、部長が顔を覗かせてくれれば安心できるのだが。
しかし、誰の姿も見えない。
ぐびり、と喉が鳴った。可南子は廊下を引き返して、体育館に向かった。
一分もかからずに戻れたその場所は、無音の世界だった。

……可南子は駆け出した。スカートにもセーラーカラーにも構っていられない。
恐怖。この二文字しか頭には無かった。
誰かに呼び止められて欲しかった。先生でもシスターでも誰でもいい。怒られても構わない。
誰かの存在を確認できれば、それでよかった。

薔薇の館が視認できる場所に躍り出た。息が切れているのは、疲れではなく恐怖だ。
館に入る人物が見えた。その姿は、支倉令に似ていた。

「令、令さま!」

声を上げて、再び走り出す。靴が上履きのままだったが、構わずに土を踏む。芝生を踏む。

扉が閉まる、そこを閉じられたら二度と開かない気がする、扉が、扉が──。

可南子の手が空を切る。扉は音を立てて閉じられた。

「令さま! 令さまぁっ!!」

すぐに扉を開けたが、薔薇の館の一階は、体育館と同じ空気だった。

耳が痛くなりそうな、無音。
自分の息の音がうるさい。心臓の音が耳に付く。

二階に上がる。
大きな扉は閉じられていたが、中から声は聞こえる。

たぶん、祐巳の声であろう。
なんと言っているかわからないけれど、きっと。

可南子は扉を開けた。そして、三度同じ空気を感じた。

床に膝を付き、天井を見上げ、涙を流した。

──マリア様。もし私が異形の世界に迷い込んでいるのなら、どうかお助けください──




……という内容でしたの」
「……それがあなたの見た夢? 夢の中でも私を不幸にして楽しいの?」
「いや、私はそういうつもりでは」
「じゃあどういうつもりなのよ!!」

──ああ、いつもの光景だ。

乃梨子は、ハリガネVSドリルを間近で見ながら、今夜のおかずを考えていた。

──うん。今日も平和。





二度目でございます(礼
前作【No.1711】のお返事です。
>YHKHさま>どうぞ認識なさって下さい!
>ひろっぴさま>時間に追われる姿を具現化したらとても怖くなりましたというお話。
>ROM人さま>それでもいいですが(笑
>砂森 月さま>ありがとうございます。
>沙貴さま>褒められると調子に乗ってしまいますので、ご注意を。


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