【1725】 暴走特急愛ある限り戦いませう  (いぬいぬ 2006-07-27 01:31:27)


※このSSは、ちょっとだけ未来のお話。由乃と菜々のロザリオ享受のお話です。
 せっかく管理人である柊さんが「区切り線」というオモチャを与えてくれたので、ついでにソレを多用してみました(笑
 区切り線を使い、由乃と菜々の一人称が交互に切り替わるスタイルのため、ヤケに上下に長いですが、お話の密度自体は低いので、宜しければ最後までお付き合い下さい。

 






 4月がやって来る。
 何時でも何かを追い求めているような眼をしたあの子が、私の待つ高等部へと入学する月が、いよいよやって来る。
 だから、最近の私は強く意識する。私の胸元で、ダークグリーンの色石と共に輝くロザリオを。
 ロザリオを握り締め、私は私に問いかける。
 あの子は欲しているのだろうか?
 このロザリオを。
 そして、この私を。
 待ち遠しいような、来て欲しくないような、不思議な感覚。
 訳も無くドキドキが止まらない、初めての感覚。
 こんな高揚感は何時以来だろう?
 心臓の手術以来?
 初めて剣道部で竹刀を握った時以来?
 ・・・いや、“これ”はきっと、初めての感覚なのだろう。
 初めて本気で誰かを妹にしたいという“想い”。
 あるいは誰かの姉になりたいという抑え切れない“願い”。
 きっと、そういった感情なんだろうと思う。
 だけど私の心は揺れている。
 あの子にロザリオを渡したい。
 でも、もしも断られたら、私は・・・ 私はどうなってしまうのだろう?
 絶望?
 落胆?
 いずれにせよ、そんな結末の先なんて、想像もつかない。想像したくも無い。
 ・・・いや、ロザリオを受け取ってもらえたとして、その時こそ私はどうなってしまうのだろう?
 歓喜?
 安息?
 こちらも想像がつかないと言う意味では同じかも知れないわね。
 うん、そう。
 そうよ。
 どちらにしても、今の私には想像もつかないような日々が待っているはずだわ。
 ああもう! こうなったら、どっちでも良いから早く楽にしてよ!
 だから・・・
 だから早く逢いに来てよ、菜々。





 4月がやって来る。
 あの人のいる場所へと、堂々と歩いてゆける日が。
 何時でも何かと戦っているような眼をしたあの人の待つ高等部へ通える日が、いよいよやって来る。
 だから、最近の私は強く意識する。あの人の胸元で、ダークグリーンの色石と共に綺麗に輝いていたロザリオを。
 一度だけ手にしたロザリオの輝きと重さを想い、私は私に問いかける。
 あの人は求めてくれるのだろうか?
 この私を妹にと。
 あのロザリオを、私の胸元に輝かせたいと。
 そもそも、私のこの感覚は何?
 あの人の妹になりたいの?
 それとも、あの人の傍にいると何か楽しい予感がするから、“知り合い”でいたいだけ?
 どちらも、そうであるような、そうでないような、不思議な感覚。
 訳も無く焦りばかりが募る、でも決して嫌では無い、初めての感覚。
 こんな不安は何時以来だろう?
 有馬の家に入ることになった時以来?
 あの人に、自分でも何故だか判らないうちに支倉令さまとのお手合わせを頼んだ時以来?
 ・・・いいえ、きっと“これ”は、初めての感覚。
 リリアンで誰かの妹になることを、初めて本気で意識し始めたからこその“戸惑い”なのだろう。
 だからこそ、私の心はこんなにも揺れているに違いない。
 ロザリオのように、ゆらゆらと揺れているんだ。
 もしもあの人に、私を妹にする気が無かったら、私はどうなるのだろうか?
 暗澹?
 失意?
 どちらも嫌だ。想像もしたくないほど。
 でも、ロザリオを受け取ったら受け取ったで、その時こそ自分がそうなるのか予測不能だわ。
 狂喜?
 驀進?
 ・・・驀進はあの人の十八番だったっけ。
 ええい! 考えるのヤメ!
 ロザリオをもらえようともらえまいと、今まで体験したことの無い日々が始まるに違いないわ!
 だから早く・・・
 早く逢いに行きたいです、由乃さま。 




 
 4月某日。 
 今年の入学式が終わった。
 黄薔薇さまとして新入生を迎え終え、講堂を出てゆく彼女達を見送った私は、もう自分を抑え切れなかった。
 1年生の教室へとダッシュするべく、先生方やシスター達と出くわさずに1年生の教室に先回りできるルートへ通じる扉へと駆け出す。
「 祐巳さん、志摩子さん、後お願い! 」
『 由乃さん?! 』
 後ろでふたりの声が重なるのが聞こえてきたけど、そんなの無視!
 ついでに入学式の後片付けも無視!
 だって、入学式の間中ずっと菜々の顔が目に入ってたのに、話しかけられなかったのよ?!
 こんなの拷問よ拷問!!
 私がこれ以上我慢できる訳無いじゃない!!
 1年生達とは別の扉から飛び出した私は、すぐに全力疾走に移る。
 もうこの際、スカートの乱れだとか、上履きなのに外に出ちゃうとか、全部無視!!
 目指すは1年・・・・・・ いえ、菜々の待つ教室。
 うふふふふ・・・ いきなり現れた私の顔を見て、菜々が驚く顔が目に浮かぶわ。
『 由乃さま、何時の間に?!』とか言って・・・
 よし! 想像したら、ちょっと楽しくなってきた!!
 行け行けGO!GO!
 ほらゴロンタ! そんなトコに寝てると轢いちゃうわよ?!
 自分で言うのもなんだけど、暴走特急のお通りよ!!





 4月某日。
 高等部の入学式が終わった。
 先生方やシスター達に見送られて講堂を後にしようとしていた私は、もう自分を抑えるのも限界だった。
 思わず由乃さまを探して、講堂を振り返る。
『 由乃さん?! 』
 ・・・え?
 何? 今の声・・・
 あれ・・・ あの扉の向こうに消えようとしてる三つ編み、なんか見覚えが・・・
 ちょっと?! 何処行くんですか、由乃さま!!
 式の間中、ちらちら目を合わせてたのに、私に話しかけもせずに何処行くんですか!!
 嫌がらせ? さては新手の嫌がらせですか?!
 まったく・・・ 人の気も知らないで・・・
 もしかして、次に会っても姉妹の話なんか出ずに、何事も無かったように普通に会話とかしちゃうのかしら?
『 あら菜々、どうかしたの? 』とか言われて・・・
 ああ、想像したら何だかちょっとブルーになってきちゃった・・・
 もう、知らない!
『 フギャ─────!!! 』
 ・・・何か猫の悲鳴みたいなのが聞こえてきたけど、今はそんなモノにも興味が湧かないわ。
 もう、ひとりで勝手に驀進していれば良いのよ、あの暴走特急!!





 校舎の裏を駆け抜けて、並ぶ生垣踏み分けて、やって来たわよ1年生の・・・ いや、菜々の教室!
 はぁ・・・ 全速力で駆けてくるにはちょっと距離があったわね・・・ 息が・・・
 やばい、頭クラクラしてきた・・・ 酸素が・・・
 あっ! 菜々発見!!
 ふらついてる場合じゃないわよ私!
 ええい、もうちょっとなんだから動け! 両足!!
 菜々・・・ ええと、何だっけ?・・・ 苦しい・・・ いや、そうじゃなくて、うんと・・・
 そうだ、ロザリオ!
 ロザリオ・・・ 外して・・・ 菜々に・・・ 酸素足りない・・・
 ・・・何よ? 邪魔よ“その他大勢”!
 私は菜々に用があるのよ! どきなさいったら!
 そうよ、菜々に・・・
 ええと・・・ あれよホラ。
「 このロザリオを!! 」



 長い廊下を歩き続けて、とうとう帰ってきちゃったわ自分の教室に・・・
 はぁ・・・ 気分が沈んでると、やけに距離があるように感じるなぁ。
 まずい・・・ ますます鬱になってきた。
 なんだか足元までふらついてるような気が・・・
 ええい、しっかりしなさい! 有馬菜々! もう二度と由乃さまに会えない訳じゃあるまいし。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・?
 なんだか周りが騒がしいわね?
 こんな気分の悪い時に騒がないでくれないかな。
 悪いけど、今“その他大勢”に係わってる気分じゃないんだから。
 今、私の頭の中を占めてるのは・・・
「 このロザリオを!! 」
 うわっ! 何?!
 五月蝿いわね! 誰よ? いきなり人の耳元で・・・
 ・・・って、由乃さま?!



 ええと・・・ 何だっけ・・・ 何言うつもりだったっけ・・・
 苦し・・・
 あれ? 菜々ったら何をそんなに驚いて・・・
 ・・・・・・・・・あ?!
 うわ、やっちゃった!!
 挨拶も何もかもすっ飛ばして、いきなりロザリオ突き出しちゃった!?
 えと、んと・・・ 昨夜確か、色々とロザリオ渡す時のセリフ考えてたはず・・・ メモに書いたりとかも・・・
 待て! 落ち着け私!!
 とりあえず・・・ 息を整えて・・・・・・・・・・・・・・ 何言おうとしてたっけ?


 え? 何? 何が言いたいんですか?
 なんだかヤケに苦しそうですけど・・・
 ・・・って、ロザリオ!!
 うわ、どうしよう、何の前置きも無しに目の前に突き出されるとは思わなかったわ。
 えっと・・・ どうすれば・・・
 ・・・って言うか何でハァハァ荒い息使いなんですか?!
 ちょ・・・ 落ち着いて下さい!!


 そうよ、落ち着くのよ島津由乃。
 アレよ、ほら、ええと・・・・・・・・・・・・さっき何て言いかけたっけ?
 確か「このロザリオを」とか何とか・・・
 そうだ! 昨夜、確かにそんなセリフを見た記憶が!
「このロザリオを! 」
 ・・・・・・・・・続き何だっけ?・・・・・・・・・・え〜と・・・・・・


 このロザリオを?
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
 あれ? 続きは?
「 このロザリオを! 」
 うわ! びっくりした!
 何で2回言うんですか?!


 まずい、続きが思い出せないもんだから思わず2回も言っちゃった。
 ええと・・・ 続き・・・
 思い出せ〜、思い出すんだ由乃〜、光の速さで思い出せ〜・・・
 そうだ!!
「 このロザリオを手にしたいなら! 」


 ・・・・・・手にしたいなら?
「 見事私を捕まえてごらんなさい!! 」
「 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?! 」

 
 ・・・あれ?
 何?この「コイツ何言ってんの?」的な反応・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ!!
 これ、昨夜読んでた推理物の小説で、女怪盗が探偵に言ってたセリフだ!!
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしよう?


 欲しければ捕まえてみろって・・・・・・
 何でロザリオの享受でそんなクエストを求められなきゃ・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?
 クエスト?


 おや? なんかだんだん嬉しそうな顔になってきたわね・・・ 
 我ながらありえないほど突飛なセリフだったのに、何でまた?
 ・・・あ!
 まさかこの子・・・


 財宝の名はロザリオ。
 守護するは黄薔薇の姫。
 財宝を手にする条件は、見事黄薔薇の姫を捕まえること!
 ああ、なんて素敵なシチュエーション。
 これは正に・・・


 アドベンチャーの香りがするわ! ・・・とか思ってるわね?
 楽しそうに笑っちゃって、ほんとにこの子はもう・・・
 ・・・・・・まあ、良いか。どうやらロザリオ手に入れる気になってるみたいだし。
 思えば、今までさんざん菜々のご機嫌伺ってばかりで、私らしくなかったかも知れないしね。
 ここらでひとつ、私が振り回してあげ
「 うふふふふふふふふふふふふふ・・・ 」
 うわキモっ!!
 何よその魔女みたいな笑いは!


 そう。コレよ、コレなのよ! 私の求めていたモノは!
 今までリリアンの姉妹制度にこだわり過ぎてたわね。私らしくも無い。
 きっと、この人と居れば、これからもこんな楽しそうなことがいっぱい、い〜っぱい待ち構えているはずよ!
 そうと決まれば・・・
「 由乃さま 」
「 ・・・・・・何よ? 」
「 ・・・逃がしませんよ? 」
 あ! 逃げた!
 だから逃がしませんってば!!


 な、何よあのヤケに迫力のある笑顔は?!
 やばい!
 なんだか判らないけどやばい!!
 とりあえす逃げなきゃ!
 ・・・・・・・・・あれ? ちょっと待って。
 良く考えたら・・・・・・


 ・・・良く考えたら、逃げたら私にロザリオ渡せないでしょう、由乃さま。
 さては、その場の勢いであんなこと言いましたね?
 そんな暴走特急な貴方が大好きですよ?


 待って!
 ちょっと待って!!
 ロ、ロザリオ渡すはずだったのに、何で逃げてるのよ私?!
 うぅ・・・ 息が・・・
 えっと・・・ ロザリオ渡すには菜々に捕まらないと・・・
 でも、あんなこと言っちゃった手前、素直に捕まるのも癪に障るし!
 ああ!! いったいどうしたら?!
 こんな・・・ こんなはずじゃ!!
 もう足が・・・
 うわ! 段々足音が近付いてくる!
 基礎体力の差がぁ!!
 このまま捕獲されてロザリオ奪われたら、姉として何か大切なモノが・・・
 威厳とかなんかそんな感じのモノまでロザリオごと奪われちゃうのでは?!


 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。
 楽しい・・・
 なんだかもの凄く楽しいわコレ。
 由乃さま、そんなに怯えた顔をされたら私・・・
 ますます逃がす訳にはいかなくなりました!


 な、何で?
 何でこんなことに?
 ・・・うぁ、視界がボヤけてきた・・・
 私は姉として・・・
 菜々の姉として・・・
 苦し・・・
 美しいロザリオの享受がしたかっただけなのにぃ!!


 さあ、きりきり逃げないと、そろそろ捕まえますよ? 由乃さま。
 ああ、楽しい。
 姉を得るって、こんなに楽しいことだったのね。
 素晴らしいわ、リリアンの姉妹制度!


 あぁ・・・ 苦しい・・・
 妹を得るってことが、こんなに苦しいだなんて・・・
 誰よ! リリアンに姉妹制度なんて作ったのは!!

 
 ああ、由乃さまの泣きそうな顔も素敵・・・
 貴方という姉とのリリアンでの生活は、きっと素晴らしいに違いありません。
 だから・・・
 逃がしませんよ? 由乃さま。
 何処までも。
 何時までも!


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