【1733】 ツッコミ総長右肩上がり  (楓野 2006-07-30 02:42:27)


注:)このSSには独自設定が入っており、さらにオリキャラが乃梨子の彼氏です。
注2:)このSSは【No:1731】の続編です。

〜前回のあらすじ〜
ごきげんよう、松平瞳子です。
とある日の放課後、校門前に乃梨子さんの彼氏と名乗る方が参られてさあ大変。
周囲は黄色い声で大騒ぎ、私も興味シンシンですわ。
それを聞いた乃梨子さんは雄叫びを上げて走り去り、私と可南子さんは乃梨子さんを追うのでした。
さあ、乃梨子さんの彼氏とはいったいどんな方なのでしょうか……。
楽しみですわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!


「ぁぁあぁあああぁああぁあぁぁぁぁ!!!!」
奇声を上げながら私たちの前方を走る乃梨子さん。
なんだかイってしまった人のようですが、そこは目をつぶりましょう。
ですが、もしシスターに見つかれば即刻生活指導室送りは避けられませんわね。
そ、それにしても……
「の、乃梨子さん……あんなに……足が、速かった……でしょうか?」
息も絶え絶えになりながらなんとか隣を走る可南子さんに問いかけます。
乃梨子さんが走るところは体育で何度か見ていますが、あんな超人的な速さだったとは思えませんわ。
「むしろ私としては瞳子さんが着いてきている方が驚きなのだけど」
そう答える可南子さんの口調は普段と何も変わらず、大して呼吸も乱れていないようでした。
演劇のためにある程度のトレーニングはしておりますけれども、
悲しいかな運動を専門にしている人にはとても敵わないのでした。
……お父様にお願いしてルームランナーでも購入いたしましょうか……?
「ほら、頑張って。あと少しで玄関だから」
可南子さんに励まされながら、なんとか玄関までたどり着きました。
ああ、でもここからまた校門まで走るんですわね……。
乃梨子さんの方はすでに靴を履き替え、今まさに玄関を飛び出すところでした。
私たちも大急ぎで靴を変え、乃梨子さんを追って再び走ります。
ここにきて乃梨子さんのスピードはさらに上昇、私たちも懸命に足を動かします。
明日は筋肉痛ですわね……(泣。
銀杏並木を走りぬけ、マリア様の前をトップスピードで通過。
そして校門を潜り抜ける直前で立ち止まり、息を整えていた乃梨子さんに追いつきました。
「の、乃梨子さん……速すぎですわ……」
「と、瞳子が体力ないんだって……」
座り込みそうになる足を淑女のたしなみで叱咤し、なんとか立ったままで荒い呼吸を繰り返します。
とはいえ、隣に立つ可南子さんが一つ深呼吸しただけでいつも通りに戻ったのは……ショックですわ。
「それで……まだ撒くつもり?」
「……やめとく。無理っぽいし……」
可南子さんの問いに、乃梨子さんは諦めた口調で答えます。
ということは、堂々と乃梨子さんの彼氏さまを拝見できるわけですわね!
「その代わり、私が何やっても止めないで。でなきゃバイク乗ってそのまま逃げるから」
「わかりましたわ」
「了解」
乃梨子さんの出した条件に、私と可南子さんは頷きました。
うふふふふ……楽しみですわ。
「じゃ、行こうか」
そう言って、校門前にたむろする方々を尻目に、私たちは校門を潜り抜けました。
その左手、ちょうど守衛さん方の詰め所とは反対の塀際に、噂通りの外見の方が佇んでおられました。
身長は優お兄様と同じくらいか少し高めでしょうか。
荒削りながらも整った顔立ち、髪は目の醒めるような金色。
スラリとした体にジーンズと白のシャツ、黒を基調としたシンプルなジャケットを前を開けて着込んでいます。
片手には火のついた煙草、もう片方には携帯用の灰皿。
そしてその傍らには、一目で大排気量とわかる赤いバイクが、スタンドで支えられていました。
しばらく私たちには気づかないようでしたが、
不意にこちらに視線を向けると煙草をもみ消し、灰皿をポケットに放り込むと、
片手を挙げつつこちらに向かって歩いてきました。
「よう、久しぶ「オラァッ!!」」

バキィ!!

一瞬、何が起こったのか理解できませんでした。
あの方が目前に来た瞬間、乃梨子さんが男性のお腹を殴り飛ばしたのです。
「の、乃梨子さん!?」
「いったい何を―――」
「オォォォォラァァァァァァ!!!!」
乃梨子さんは私たちの声には応えず、殴られて一歩下がった男性を追いかけるかのように足を踏み出し、

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァ!!!!!!」

ものすごい勢いで男性をタコ殴りにし始めたのでした。
「まあ……あれは素汰阿歩羅地那!」
「知っているのですか可南子さん!?」
「古代中国にて、陽・炉彦という人物が創始したといわれる伝説の拳法。
その極意は速度と攻撃力を極めた動きにあるといわれ、
独特の発声とともに繰り出されるその拳は大地を砕き、堅牢な建物をも倒壊させたそうです。
また、これを極めたものはまさに時を止めたかのような動きができるとか。
十九代目継承者が弟子を皆殺しにし、その歴史に自ら幕を閉じたと伝えられています。
余談ですが、対立する流派に挫倭亜流怒という流派があり、
この二流派の対立が後の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』にて、
『スタープラチナ』『ザ・ワールド』というスタンドの元となったのは意外と知られていない事実です」
長い解説を終えると、可南子さんはふう、と息をついて髪をかきあげました。
「……まぁ、嘘なのですけど」
「嘘かよ!!また壮大な嘘ですわね」
てっきり本当のことなのかと聞き入ってしまったではないですか!!
そんなショートコントをやっている間にも、乃梨子さんはひたすら男性を殴り続けていました。
そろそろ命に関わるような気がしますが、気にしないでおきましょう。

「オラァァァァァァァァッ!!!!」

一際大きな声とともに、乃梨子さんの渾身のストレートが男性を大きく吹き飛ばしました。
「はーっ、はーっ……」
再び大きく息を吐く乃梨子さん。
「……いきなり何すんだ」
しかし男性の方はというと、大して堪えていないかのように平然と起き上がっています。
……何なのですかこの方。
「ア、アンタねぇ!こんなとこまできてなにやってんの!?」
「なんだよ、最近会ってねェからわざわざ会いに来たんだぜ?ちったぁ嬉しがれ。むしろ敬え」
「勝手なことすんなぁっ!!そのせいで大騒ぎになる場所なのリリアンってのは!!」
「いいじゃねえか。むしろ公表したれや、リコ」
「できるかぁっ!!」
いきなり大声で言い争い始める二人。
というか、大声を出しているのは乃梨子さんだけで、
男性の方は楽しそうに笑いながらのらりくらりとかわしています。
「それと、リコって呼ばないでよ!!友達も後ろにいるんだから!!」
「ん?」
乃梨子さんの言葉に、ようやく気づいたという感じで私と可南子さんの方に視線を送ってきました。
しばらく私たちに視線を送った後。

「キャラクター濃ーーーーーーーーーーッッ!!!!!」

「ダ、ダメだってそんな大声で!!意外と気にしてるかもしれないから!!」
乃梨子さんを振り返って大声で叫ぶ男性と、
それをたしなめる乃梨子さんの声が周囲に響き渡りました。
……そんなに濃いのですか私達は?
「ちょっと乃梨子さん!?何なのです、このあちこち失礼な方は!!」
「……いや、だから私の……彼氏。一応」
顔を赤くしていつもよりも小さな声で応える乃梨子さん。
ちょっぴり萌えですわ。
「第一印象悪いかもしれないけど……悪い人じゃないから。多分」
「多分ですか」
まあ、どんなに気に食わなくとも淑女として自己紹介くらいはしておかなくては。
「初めまして。松平瞳子と申します。乃梨子さんのクラスメートとして親しくさせていただいておりますわ」
「同じくクラスメートの細川可南子です。よろしく」
「トウコと……カナコ?ああ、リコが言ってたあの二人か!」
ぽんっ、と掌を打つ男性。
「リコから話は聞いてるぜ」
「まあ、乃梨子さんはなんと?」
是非聞きたいところですわね。
「ちょっ、則宗!?」
則宗さん、とおっしゃるのですわね。
乃梨子さんが慌てて止めようとしますが、そこは可南子さんがガッチリとガード。
グッジョブですわ、可南子さん。
「意地っ張りでほっとけない瞳子と、一途で頼れる可南子さんってな」
そう言って、則宗さんはニッと子供のような笑みを浮かべました。
対照的に、乃梨子さんは可南子さんに抑えられたまま顔を真っ赤にしています。
なんというか……あけすけな方なのですわね。
普通の人なら乃梨子さんに気を使って言わないでしょうに。
先ほどの発言も、思ったことを素直に口に出してしまっただけなのでしょう。
とはいえ、ちょっぴり自分の在り方について疑問を抱いてしまったのですが。
「さて、今度は俺の番だな」
そう言うと、則宗さんはジャケットの襟を引いて正し、まっすぐに私と可南子さんに向き直りました。
「花寺大学二年、九字則宗。二条乃梨子と交際させていただいている」
先ほどまでとは打って変わって、真面目で落ち着いた声。
この変わり具合には、女優の私も驚いてしまいましたわ。
とはいえ、それも一瞬のことで、
「よろしくな」
と言ったその顔は、悪戯好きの子供のような笑みに戻っていました。
本当によくわからない方ですけど、ここは乃梨子さんの隠された一面を暴くチャンスですわ!
「則宗さん、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「おう、いいぞいいぞ、ジャンジャン聞け」
実に頼もしいお言葉ですわ。
ではここはまず……
「ズバリ、乃梨子さんは不感症なのでしょうか?」

ガッターーーーーーーン!!!

「瞳子さん!!乃梨子さんが見事な足ズッコケを!!」
「素晴らしいリアクションですわ!!」
「瞳子ーーー!!アンタいきなり何聞いてんだーーーー!!!!」
一瞬で起き上がった乃梨子さんが、見たこともないほど顔を真っ赤にして叫びました。
だって気になるではないですか!!
祐巳さま曰く『最強のセクハラオヤジ』の佐藤聖さまをもってして無反応などと言われては!!
「いやいや、リコの感度は抜群だぞ?ちなみにリコの弱点は首筋から背中n」

ゴスッ!!

「リコ、いきなりガゼルパンチは結構痛ェんだが」
「余計なこと言うからだっつーの!!」
「ふむふむ、乃梨子さんは首筋から背中が弱い、と」
「そこっ!メモるな!!」
「是非白薔薇さまにも」
「言わなくていいっ!!!」
「あんまり怒ると血管切れんぞ」
「アンタらのせいだろうがぁぁぁぁぁ!!!!」
――ああ、本当に珍しい光景ですわ。
あの乃梨子さんが顔を真っ赤にして怒鳴りまくるなんて!!
これも則宗さんがそばにいるからなのでしょうか?


けれど乃梨子さん、まだまだこんなものでは済まされません。
乃梨子さんのアレやらコレやら、全部聞き出してさしあげますわよ!!
ああ、まだまだ楽しめそうですわ〜〜〜〜!!!!


〜続〜


一つ戻る   一つ進む