【1740】 さっちゃんが世にも奇妙な春だった  (六月 2006-08-02 17:32:10)


春、暖かでどこかぼんやりとした季節。
春、桜の花は美味しくないから嫌い。
春、どこか私を憂鬱にさせる。

いつものように緑を一滴落としたような光沢のない黒い制服に身を包み、マリア様の前で手を合わせる。
今日も一日健やかに過ごせますようにと。

早朝のマリア様のお庭は静かでとても落ち着く世界を作り出している。
こんな朝は薔薇の館で一杯の紅茶を嗜むのが私の楽しみ。

「お、お姉さま!?何をなさっているのですか?」

せっかくの静寂を破るような大声を上げているのは誰?
と振り向くと、そこには最愛の妹祐巳が居た。
まったく、朝から落ち着きが無い子ね。

「祐巳、貴女も次代の紅薔薇を背負うもの、もっと優雅になさい」

にっこりと微笑み、いつものように祐巳のセーラーカラーに手を伸ばそうとすると、何故かこの子は頭を抱えてしゃがみ込んでいる。

「桜の季節はぼんやりされているし、朝がお弱いのは重々承知しておりますが・・・」

何を言っているのかしら?

「今日はリリアン女学園『高等部』の始業式の日です」

えぇ、だからこうやって・・・

「お姉さまが進学された『大学部』の入学式は来週なのです」

あぁ、そう言えば来週・・・・・・・・・











ザァーーーーっと言う音を立てて血の気が引き、ようやく目が覚めた。
「ごきげんよう。いえ、おはよう祐巳」
「おはようございます、お姉さま。ようやくお目覚めになられましたか?」
「え、えぇ、それじゃ私は失礼するわね。ごきげんよう」
眉間を指で押さえている祐巳を残し、猛スピードで学園を後にする。
なんということでしょう。寝ぼけて日取りは間違えるわ、高等部の制服を着てくるわ、聖さまにでも知られたら大学部でどれだけ笑いものにされるかぞっとするわ。
あぁ、これだから春は嫌いなのよーーーー!!


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