「だーはははははははは!」
リリアンの乙女らしからぬ、下品な哄笑を発したのは、つい先ごろ紅薔薇のつぼみの妹となったばかりの福沢祐巳だった。
昼休みの薔薇の館。
皆で一緒に昼食を摂ろうということで、一番下っ端の祐巳が遅れないよう、同じクラスの白薔薇のつぼみ藤堂志摩子よりも先んじて、最初にやって来たのは良かったが、未だ誰も現れない。
待つこと10分。
それでも誰一人として姿を見せないので、とりあえずはお先にとばかりに、お茶を淹れてお弁当の包みを解いた。
一口、二口と食べて行くも、慣れていない環境でたった一人の昼食は、なかなかに寂しいものがある。
(はぁ〜……)
小さな溜息を吐いた途端、手元が疎かになったのか、箸が転がり落ちた。
その直後。
「ぶっ……!」
突然巻き起こった笑いの衝動に、反射的に口元を抑える。
なんとかその衝動を抑え込むことに成功した祐巳は、震える手で箸を取ろうとした。
しかし、なかなか巧いこといかない。
ようやく掴んだものの、力が抜けてしまい再び箸を落としてしまう。
それを見た祐巳、とうとう堪えることが出来ず、ついには、
「だーっはっははははははははははは!」
大爆笑をカマしてしまったのである。
会議室でただ一人、弁当を前にひたすら笑い声を上げる祐巳は、はっきり言って怖い。
いろんな意味で怖い。
テーブルに突っ伏し、拳でドンドン叩きながら必死で堪えようとしていたので、階段を上がる足音には気が付かなかった。
「ごきげんよう。遅くなって……え?」
現れたのは、志摩子だった。
しかし、セリフの途中で絶句する。
さもありなん、なんせ祐巳は、腹を抱えて大爆笑真っ最中だったのだから。
「げーっはっははははははははは!」
「あの、祐巳さん?」
「どひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
「祐巳さん!」
「がははは……あ、ご、ごきげんよう志摩子さん。むはははは!」
「……えーと、その、大丈夫? 特に頭」
結構失礼な質問だが、大笑いしている祐巳が気付くはずもなく。
「だははーいじょうぶだよ志摩子さんはははのはー」
「やっぱりイカれてるのかしら……?」
気味悪そうな顔で、祐巳から離れた席に着いた志摩子は、できるだけ目を合わせないようにしながら、弁当の包みを取り出した。
一口、二口と食べて行くも、笑いながらも食べている祐巳が気になり、どうにも箸が進まない。
どうしたものかしら、と思っていたその時、お茶を淹れるのを忘れていたことに気付いた。
志摩子が席を立ったその時、弁当箱の縁に置いた箸が転がり落ちた。
その直後。
「ぶっ……!」
突然巻き起こった笑いの衝動に、反射的に口元を抑える。
なんとかその衝動を抑え込むことに成功した志摩子は、震える手で箸を取ろうとした。
しかし、なかなか巧いこといかない。
ようやく掴んだものの、力が抜けてしまい再び箸を落としてしまう。
それを見た志摩子、とうとう堪えることが出来ず、ついには、
「だーっはっははははははははははは!」
大爆笑をカマしてしまったのである。
それを見ていた祐巳も、再び大声で笑い出した。
会議室で祐巳と二人、弁当を前にひたすら笑い声を上げる志摩子は、はっきり言って怖い。
いろんな意味で怖い。
テーブルに突っ伏し、拳でドンドン叩きながら必死で堪えようとしていたので、階段を上がる足音には気が付かなかった。
「ごきげんよう。遅くなっちゃった……え?」
現れたのは、黄薔薇のつぼみの妹、島津由乃だった。
しかし、セリフの途中で絶句する。
さもありなん、なんせ祐巳と志摩子は、腹を抱えて大爆笑真っ最中だったのだから。
「げーっはっははははははははは!」
「どわーっはっはっはっはっはっは!」
「あの、祐巳さん? 志摩子さん?」
「どひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
「げたげたげたげたげたげたげたげたげたげた」
「祐巳さん! 志摩子さん!」
「がははは……あ、ご、ごきげんよう由乃さん。むはははは!」
「くくくく……ご、ごきげんみょー由乃さん。ぷーくすくす」
「……えーと、その、大丈夫? 特に頭」
結構失礼な質問だが、大笑いしている祐巳と志摩子が気付くはずもなく。
「だははーいじょうぶだよ由乃さんはははのはー」
「そうよ大丈夫だわははははははっへへっへへはー」
「やっぱりイカれてるのかな……?」
気味悪そうな顔で、祐巳と志摩子から離れた席に着いた由乃は、できるだけ二人と目を合わせないようにしながら、弁当の包みを取り出した。
一口、二口と食べて行くも、笑いながらも食べている二人が気になり、どうにも箸が進まない。
どーしてやろうか、と思っていたその時、薬を出すのを忘れていたことに気付いた。
由乃が水を汲もうと席を立ったその時、弁当箱に掛けておいた箸が転がり落ちた。
その直後。
「ぶっ……!」
突然巻き起こった笑いの衝動に、反射的に口元を抑える。
なんとかその衝動を抑え込むことに成功した由乃は、震える手で箸を取ろうとした。
しかし、なかなか巧いこといかない。
ようやく掴んだものの、力が抜けてしまい再び箸を落としてしまう。
それを見た由乃、とうとう堪えることが出来ず、ついには、
「だーっはっははははははははははは!」
大爆笑をカマしてしまったのである。
それを見ていた祐巳と志摩子も、再び大声で笑い出した。
会議室で祐巳と志摩子と三人、弁当を前にひたすら笑い声を上げる由乃は、はっきり言って怖い。
いろんな意味で怖い。
テーブルに突っ伏し、拳でドンドン叩きながら必死で堪えようとしていたので、階段を上がる足音には気が付かなかった。
「ごきげんよう。遅くなってゴメンナサイ……あら?」
現れたのは、紅薔薇さま水野蓉子を先頭に、黄薔薇さま鳥居江利子、白薔薇さま佐藤聖、紅薔薇のつぼみ小笠原祥子、黄薔薇のつぼみ支倉令の五人。
しかし彼女たちは、会議室で現在巻き起こっている珍事に、絶句するばかり。
なぜならそこでは、祐巳、志摩子、由乃の三人による謎の大爆笑が、室内の空気を震わせていたのだから。
「なははなははなはははははー」
「かんらからからかんらからから」
「ぎゃははははははははははー」
らしいような、らしくないような笑い声が、無駄に響き渡る。
「ふーん?」
「ひょっとしたら……」
「そうかもね」
つぼみ二人は唖然としていたが、流石に薔薇さま三人は動じない。
お弁当を食べるでもなく、三人とも同じような状況で、それぞれある物を指差して大笑いしている。
「つまり、『箸が転がっても可笑しい年頃』ってことね」
そんなことが本当にありえるのか? とでも言いたいような困惑の表情で、見つめあう祥子と令だった。