【18】 瞳子×祐巳ブーム  (柊雅史 2005-06-13 01:31:58)


今、一年椿組−1では、密かなブームが起こっている。
ここでマイナス1というのは他でもない、ブームの当事者である1名が除外されているからだ。
「――乃梨子さん、最近なんだか妙な視線を感じますの」
「え、そう?」
唯一の蚊帳の外の存在である当事者Aこと、瞳子が不安いっぱいな表情で聞いてくるが、もちろん乃梨子はその視線の正体を教えるつもりはない。
乃梨子とて一年椿組の構成員。つまりはブームに乗っている一人である。
「なんだか不安ですわ……私、なにかしてしまったでしょうか」
おどおどとしたそぶりを見せる瞳子は、普段が我が侭いっぱいなだけに、妙に可愛らしく乃梨子の目には映る。普段の乃梨子なら、きゅん☆と胸を躍らせて、保護欲をそそられたところだろうが、今日の乃梨子は一味違った。
「瞳子! 不安な顔するな!」
「はいぃ?」
びしり、と叱り付けた乃梨子に、瞳子が目を丸くする。
瞳子もきっと、乃梨子に元気付けて欲しいところだったのだろうが、空前のブームに沸き返る椿組で、そんな甘い考えは却下である。
「そんな……そんな様であの祐巳さまに対してタチでいられ」
「きょえーーーーーーーーーーーーーーーーですわっ!!」
ぐっと拳を握って何かを力説しようとした乃梨子の背後から、奇声を上げつつクラスメートその1がタックルを仕掛けてきた。
どんがらがっしゃん、と派手な音を立てた乃梨子は、クラスメートAにマウントポジションを取られていた。
「しー! 乃梨子さん、しーっ! 妙なことを言わないで下さいませ! 生暖かく待ったりと見守る、それが我ら瞳子×祐巳さま推進委員会ですわ!」
「お、おっけー。ごめん、油断してた」
乃梨子がこくこく頷くと、クラスメートAはさわやかな笑みで「失礼いたしましたわ」と去っていった。
瞳子の目はまん丸である。
「――さて」
がたん、と椅子を直して腰を下ろし、乃梨子は何もなかったかのように瞳子を見据えた。
「私からの忠告は一つしかないわ」
「は、はぁ……」
真面目な乃梨子の様子にも、瞳子はちょっと釈然としない様子だった。
「偶には……瞳子の方から祐巳さまを押し倒してみt」
「なんの脈絡もないんじゃーーーーーーーーーーーーーーですわっ!」
「ぐっふぅ!」
乃梨子のセリフを遮るように、クラスメートBのタックルが鮮やかに決まった。
「な、なんなのです!?」
慌てて乃梨子を助け起こす瞳子は、キッとクラスメートを睨む。
「あなたたち! 私の大事な乃梨子さんをいじめたら、許しませんわよっ!」
ビシッと叱責する瞳子に。

強気瞳子さん萌え〜。

クラス中が微妙な空気に満ち満ちた。


今、一年椿組−1では、密かなブームが起こっている。
それは普段、祐巳さまに押されっぱなしの瞳子が逆襲して優位に立つという、祐巳さま×瞳子ではなく、瞳子×祐巳さまブーム。
「あれですわ、あの気迫。あの勢いで祐巳さまを……」
「嗚呼、創作意欲が沸いてきますわ!」
今日も今日とて生暖かい視線が瞳子を包み、瞳子は物凄く不安そうな様子で一日を過ごすのであった。


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