【1815】 いいんだよと明日への切符  (計架 2006-08-29 23:28:28)


【No:1054】、【No:1179】、【No:1194】、【No:1519】、【No:1671】、【No:1681】、【No:1710】と続いてます。







大変だった。

何が如何、とは言わない。

とにかく大変だった。

まさかこの代の薔薇様方が、ココまでぶっ飛んだ人達だったとは思わなかった。

うん、特に黄薔薇様。

さすが江利子様のお姉様。

ぶっ飛び具合は江利子様の比ではありませんね。


えぇ。


まさか自己紹介終了直後に


『白熱!! リリアン最強は誰だ!? 少女だらけの武術大会!!』


なるものにエントリーさせられる事になるとは思いませんでしたよ。

それも


「二人だし丁度良いか。
 なかなか枠埋まらなくて困ってたんだよね〜」


なんて理由で。

……まぁ、詳細は省かせてもらいましょう。

一言だけ言うなら、負けませんでした。

とにかく凄かったんですよ。

午前中だけでも。

で、今昼食食べてます。

咲姫と。

そして、紅薔薇様と黄薔薇様。


「今更な気もするけど、三人とも私と一緒にいていいの?」


そのさなか、私は気になっていた事を問いかけてみた。


「ふぇ?」


間抜けな声を出したのは黄薔薇様だ。

口にホットケーキを含んだまま、首をかしげている。

行儀が悪い……とか注意するより、素直に可愛いといった感じだろう。

背が低く、童顔な彼女にはそういう仕草は似合ってる。

……問題は、その突拍子のない思考回路なのだけど。


「私たちは、私たちが居たいから祐巳ちゃんといるの。
 何か問題あるの?」


うん。

言動見てると如何しても年下にしか見えない。

いや、実際の年齢考えたら確実に年下なんだけど。

今の状態からしても傍から見てどちらが年上か聞かれれば私だといわれるだろう。


「あぁ、妹たちの事?」


紅薔薇様が思い至ったらしい。

そう。

まさにその事を気にしてたんだ。

と、その事が表情に出たのだろう。


「いいのよ。時間はとってあるし、蓉子は祥子ちゃんとデートしてるから」

「聖もね、きょう栞ちゃんにロザリオあげるんだって張り切ってたし、色々あったから邪魔するのもね」

「うんうん。あぶれた物たちは新しい玩具に癒しを求めに来たんだよ」


……咲姫と紅薔薇様はともかく……黄薔薇様。

貴女は私の事そう認識してたんですね?


「あ、あはは……笑顔が素敵にバイオレンスだよ祐巳ちゃん?」

「まぁ、そっちがいいなら私は別にいいんですけどね」


実際、この人達といるのはそう悪い気分ではないし。

そもそも咲姫はこの世界で初めての友達だ。

色々知りたいと思う。

だから。


「実際、楽しいですし。
 まぁ、今年の薔薇様がこんなにとんでもない人達だとは思いませんでしたけど」


特に黄薔薇様と咲姫。

と、笑顔で付け加える。


「そうよね!」


ガシッ!

っと。

紅薔薇様が私の腕をつかむ。


「何時も何時も何時も何時もこの二人は問題ばかり起こすのよ。
 その度にいろんな所へ頭を下げにいく私の苦労……」


が、うんぬんかんぬん。

しばらく紅薔薇の愚痴に付き合うことになってしまった。

でも紅薔薇様?

そんな笑顔で楽しそうに愚痴ってもその境遇を楽しんでるようにしか見えませんよ?

ほら、咲姫と黄薔薇様も苦笑してるし。

でも笑顔。

食事中、皆笑顔。

良い人達だ。

この人達は。

……そうでなければ、あの蓉子様達がお姉様に選ぶはずもないのだけど。

うん。

安心した。

自分にとって大切であった人達が。

自分にとって大切である人達が。

自分にとって大切になるはずの人達が。

自分に合う前でも笑っていられる環境にあると知って。

自分の力で如何こう出来るなんて思い上がるつもりはないけど。

やっぱり大切な人達には笑っていてほしい。

だから、安心した。


「紅薔薇さまも、黄薔薇様も、咲姫も。
 山百合会の皆さんの事が本当に好きなんだね」


つい、口をついて出た。

それは紅薔薇様が愚痴を言い終え、咲姫と黄薔薇様が紅薔薇様に抗議し、その言い合いが蕾やその妹の事まで及んだ時。

その間隙を縫って三人に届いた。

その言葉に。


「「「……もちろん!」」」


一瞬驚いたような顔をして、そしてまた笑顔で。

そう答えてくれた。


「祐巳、羨ましい?」


咲姫がそう聞いてくる。

そう、だね。


「少し、羨ましいかもしれない」


私は、失ってしまったものだから。


「だったら、祐巳も高等部にあがったらさ、山百合会に入ればいいよ。
 私たちはもう居なくなっちゃうけど。
 聖も、蓉子ちゃんも、江利子ちゃんも、きっと歓迎してくれるよ」


ふと、思い出す。

初めて薔薇の館に入った時の事。

明らかに場違いな私を、それでも誰もそこにいる事を拒まなかった。

そんな人達だから。

きっと、咲姫の言うとおりになるだろう。

だから。


「そうです、ね。
 それもいいかもしれません」


なんなら紹介しとこうか?

いいえ結構です。

そんなやり取りも。


「だって、それはずるいですよ。
 せっかく新しい出会いになるんだから、やっぱり自分で会いに行きたいじゃないですか」


それは、少し逃げが含まれている。

正直、まだ合うのが怖い。

でも、ね。

それ以上に信じてるんですよ?

きっと、また私はあの場所にいける、と。

だって、こんなに暖かい場所だから。

私の体の奥にある、この地獄の最奥のような恐怖という名の氷も、きっと溶かしてくれる。

そう、信じてるんです。


「「ええぇぇぇぇぇえ!?」」

「「きゃっ!?」」


あ、今の悲鳴は私と咲姫です。

……いや、私だって何時までも怪獣ではいられません。

これでも小笠原のパーティーに招待されたのは軽く三桁を超えてますから。

その場でそんな悲鳴、出せるわけもありません。

がんばって矯正したんです。


「な、何?」

「祐巳ちゃん、年下!?」

「はい、そうですけど」

「てっきり同い年だと思ってたわ」


……咲姫?


「あ、あはは……ついうっかり言い忘れてた」


何で貴女はそんな汗をかいているのかしら?

私の顔に何かついていますか?


「咲姫、栞ちゃんのことで相談に乗ってもらったって言ってたし」

「咲姫のこと呼び捨てにしてたからつい勘違いを……」

「いえ、別に良いんですけどね。
 私、そんなに年取ったように見えます?」


もしそうならショックだ。

一応、この体は実際に中学生の時のものなんだから、老けて見えるなんて考えたくないし。


「う〜ん……見えるというか、感じる?」

「えぇ。雰囲気が……私たちと普通に話してるし、違う学校の友達なんだと思ってたわ」

「リリアンの生徒でなければ、薔薇様もただの生徒会長だしね」


……あぁ、そうか。

私が薔薇様前にして普通に接してた事が誤解をさらに助長してたのか。


「そうだよね。
 初めてあったときから思ってたけど、祐巳って薔薇様前にしても全然緊張しないんだもん。
 少し驚いた」


うんまぁ、それは仕方ない。

私の周りはそういう人ばかりだったんだから。

って言うか、異色だけど私も薔薇様そのものだったわけだし。


「まぁ、緊張してもしょうがないでしょ?
 目の前にいるのは私と同じ人間でしかないんだから」

「そう、なんだけどね」

「祐巳ちゃん、凄いね〜」


うんまぁ、そういう事で。


「落ち着いてるしね」

「落ち着いてるよね」

「落ち着いてるからよね」


三人そろってそんなことを言い出した。


「いったい何が?」

「さっき言った年上に見られる理由」

「祐巳、落ち着きすぎなのよ」

「うんうん。きっと私と比べると祐巳ちゃんのほうが年上に見えると思う」

「「いや、それはあんたが落ち着き無さ過ぎなんだ」」


咲姫と紅薔薇様のダブル突っ込み。

ステレオで叩かれた頭を抱えて涙目で沈む黄薔薇様。

そんな様子に、思わず笑みがこぼれる。


「咲姫と紅薔薇様と黄薔薇様、本当に仲がいいね」

「もっちろん」

「生涯の親友だからね」

「だからさ祐巳ちゃん」

「「私達の事も名前で呼んでくれない?」」


え?

それって……


「ほら、私たち名前で呼んでるじゃない?」

「黄薔薇様って呼ばれるより、名前で呼んでほしいなぁ?」


あぁ、そうか。

ここがここちいのは。


もう、私の事を認めてもらえていたからなんだ。


「私的には、もう祐巳ちゃん親友なんだけどなぁ?」

「私だってそうよ。咲姫の友達は私の友達。
 ほら、何の不思議も無いでしょ?」

「……だってさ」


心が温かくなる。

本当に、幸せになってくる。

私の中にあるわだかまりを、三人の笑顔が、少しずつ溶かしていってくれる。

だから。


「ありがとう」


そういおう。


「ありがとう、宮子、真雪。
 そして、咲姫」

「感謝されるような事じゃないと思うけど」

「いいじゃない。私もありがとう、祐巳」

「そうそう。祐巳が感謝したいなら私も祐巳に感謝。
 ありがとう祐巳」

「……咲姫、本当に変わったねぇ……これも祐巳ちゃん効果かな?
 じゃあ私も、ありがとう祐巳ちゃん」


それから、四人で笑いあった。

三人が舞台の準備の為に別れる時間になるまで、四人で笑いあっていた。





後書き
……忙しかったんです。
……夏季休暇はあっという間でした。

……はい。
全然言い訳になってませんね。

復帰します。
よろしく。



因みに『白熱!! リリアン最強は誰だ!? 少女だらけの武術大会!!』はしゃれですので書きませんよ?


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